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一つの異世界  作者: 南津
はじめての世界編
5/24

閑話<フランシェシカ>

フランシェシカ視点。

 人間を拾った。


 元々、ディゴウの森にはクルォルウルフ討伐の依頼を受けたためやってきたのだ。森に到着する直前、森の中で爆発的に魔力が広がるのが分かった。一瞬遅れて爆発音が聞こえてきた。急いで駆けつけた先にその人間が倒れていた。

 人間の周囲は酷い有様だった。森の中ほどにあり、木々が生い茂っているはずの場所は、五十メルドほどの範囲に亘って一本の木も残っていなかった。

 地面は抉れて、地表がむき出しになっていた。

 原因を探るためにも、この人間に事情を聞かなければいけないだろう。おそらく魔力の暴走が起こったのだろうが、この惨状をみると確証がもてない。

 周囲を探索・走査しクルォルウルフの反応が無いことを確認した私は、人間と共に転移で自宅に戻る。

 汚れを風の魔法で飛ばした後、客室のベッドに人間を寝かせた。

 その人間は見たことも無い真黒な髪の色をしていた。顔は整っており寝顔は安らかだった。


 一度ギルドに戻り、森で爆発痕を見つけたことを報告。クルォルウルフが森に居なかった事から爆発に巻き込まれたのでは無いかとしておいた。ギルドから調査の依頼がでるらしい。

 ギルドに報告した後、適当に買い物を済ませて自宅に戻る。人間の様子を確認するが目を覚ます気配は無い。魔力の暴走後は一日か二日意識を失うことが多い。あれが暴走の痕だとすると二、三日は目を覚まさないだろう。


 人間が目を覚ましたのは保護した日から二日たったテルトゥリア一巡月の七日だった。


「美味しくないよ!?」

「……っ!?」


 起きた瞬間大声で意味の分からないことを叫んで起き上がった。夢でも見ていたのだろう。


「目が覚めました?」

「え?」


 人間に話しかけると此方を向いて固まった。人間の目は髪と同じ黒色で髪と同様見たことが無かった。


「早速ですが、森で何があったか聞いてもいいですか?」

「……」


 人間は此方を見たまま動かない。話を聞いていないらしい。


「……聞いてます?」

「あ、すみません。聞いてないです」


 返ってきたのはそんな言葉だった。


   ◇   ◇   ◇


 人間はハジメというらしい。


 常識が全く無かったが異世界の人間だった。異世界の存在は聞いたことが無かったが嘘を言っている様子は無いため、信じてもいいかもしれない。


 話をしている最中ハジメの視線はしばしば私の耳に注がれていた。触って良いかと聞かれたが他人に触らせるようなものじゃない。ハジメの世界にはエルフなどは居なかったらしく、興味があるようだ。


 人間は少なからず私たちエルフや獣人などを亜人種と呼び敬遠する。酷いところでは差別したり、奴隷として痛めつけたりされている。

 私はあまり人間が好きではない。それに私は半血種のためエルフにもあまり良い顔をされないことさえある。

 冒険者ギルドに入ってこんな森の奥で暮らしているのも他人を遠ざけるためだった。ある程度お金があれば一人でゆっくり暮らしていける。歳の離れたエルフの姉には王都で一緒に暮らさないかと昔から言われているが断り続けている。


 ハジメは不思議な人間だった。異世界の人間だからだろうか、エルフと聞いても特に驚いた様子も無く、私の耳に対して興味があるらしくチラチラと視線を感じる。その様子が少し可笑しかった。


 簡単にハジメの魔力を調べてみたがエルフの私や、姉なんかより遥に膨大な魔力を持っていた。多いことは分かるがどのくらい多いのか私には分からなかった。彼が目立ちたいのじゃなければ、魔力量を誤魔化すような魔導具を渡した方が良いかもしれない。


「……家名を教えてくれたってことは少しは信用されているって事かな?」


 この言葉を聞いた時驚いた。

 人間に自分から家名を教えたことは今まで一度も無かった。姉の知り合いで相手が知っていることはあったが、自分から名乗ったことは一度も無い。話の流れで名乗ってしまったようだ。

 つい睨んでしまった。ハジメは別に悪い事はしていないのに。


 その後も適当に必要な知識を教えている内に、何時も夕食をとっている時間になった。他人に食事を作ることもあまり無かったし、ハジメは異世界の人間らしいので口に合うものが作れるか自信が無かった。

 幸い同じような料理は食べたことがあるらしく安心した。料理も美味しいと言ってくれた。何時もより若干力を入れて料理した甲斐があった。


   ◇   ◇   ◇


 翌日、客室に様子を見に行くとハジメはまだ眠っていた。朝食の準備が出来たので呼びにきたのだが寝顔を見ていると起こすことが憚られる。暫く眺めていたが、我に返ってハジメを起こす。


 朝食はパンと簡単なスープだ。食事中にハジメはパンの固さを頻りに気にしていた。どうやら地球というところではもっと軟らかいパンを食べていたらしい。この世界にも柔らかいパンが売っているか聞かれた。

 他にも食材について色々聞かれたが、どれも聞いたことが無い物で、知らないと言うとがっかりされてしまった。仕方が無いじゃない。長い間此処で暮らしているんだから、あまり他の国に行ったりしないのだ。

 今度出掛けたら何か有るか注意してみておこう。


 そういえば誰かと暮らすのはすごく久しぶりだった。何時以来か覚えていない。

 ハジメは人間だけど一緒に居ても何故かいやな感じはしない。冒険者をやっている以上人間ともそれなりに関わるが、ハジメのような感じは初めてかもしれない。

 ……きっと異世界人だからだ。


 食事が終わればハジメに文字を教えたり、家の中を適当に案内したりして過ごした。お風呂が無いのか聞かれたが、この家には無い。

 この家は姉の知り合いの空属性の魔導師に設置してもらった。私は家の近くの川で沐浴しているし、こんな場所に家を用意するだけでも大変だったのだ。建てた当時はお風呂のことなんて考えたことも無かった。

 お風呂が無い事を知ったハジメはすっかり落ち込んでしまった。聞いてみれば地球では毎日お風呂に入る習慣があったらしい。

 取りあえず今日もお湯で体を拭くだけで我慢してもらおう。


 ハジメの魔力も大分落ち着いてきたようなので、明日には魔術適性を調べることは出来るだろう。

 一度魔力が暴走したら魔力を制御する練習をしていなくても自分の中の魔力を感覚的に知ることが出来る。人間はエルフや獣人と違い、子供の頃に魔力制御を学ばないものが多いので、子供の内によく暴走する。魔力も低いのであまり影響は無いが、暴走がきっかけで魔術を学ぶようになる。


 魔導具は魔力制御の刻印がある指輪でいいだろう。指輪は無属性の発動具だが特に問題ない。私には少し大きくて普段使わないものだから、無属性が使えるようならハジメにあげても良いかもしれない。


描きたいことを書くのはやっぱり難しいですね。


次は魔術適性を調べます。


2012/01/06

第十五話までの数字、誤字、文体及び通貨価値微修正。

通貨価値以外、物語の内容に変更はありません。

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