第3話<ギルド>
「冒険者ギルドか……定番だな」
「ん? なに?」
小さく呟いた為フランには聞き取れなかったようだ。
「いや、魔導師ギルドが国内だけって言うのは?」
「魔導師ギルドは基本的に独自の魔術研究なんかをしてるから、他国に設置するメリットは無いわ。優秀な魔導師は自国で囲っておくのが普通だから。といっても、冒険者ギルドにも登録している魔導師も多いからあんまり意味無いけどね。それから冒険者ギルドとの魔導師ギルドや商人ギルドの重複は出来るけど、魔導師ギルド同士の重複は禁止されているわ。」
「フランもギルドに入ってるの?」
「私は冒険者ギルドとこの国の魔導師ギルドに入ってるわね。魔術学院に入った人はみんな魔導師ギルドに入らされるわ。私も昔それで登録したの。今は基本的に冒険者ギルドで依頼を受けてるから魔導師ギルドはあまり関係無いわね」
「それじゃあ僕も冒険者ギルドに入る方がいいのかな?」
「それは自由にすればいいと思うわよ。お金稼ぐなら冒険者ギルドに入って依頼をこなしていくのが早いかな」
冒険者ギルドの依頼は魔獣の討伐や護衛、他にも雑用やら色々ある。
フランがハジメを見つけたのもギルドの依頼でクルォルウルフを討伐するためにディゴウの森に来ていたためだ。
ディゴウの森に着く直前に森で強力な魔力爆発が起こり、駆けつけたところにハジメが倒れていた。その後ハジメに結界を張って周囲を検索し、クルォルウルフが居なかったためハジメを自宅に保護し、ギルドに森の様子を報告した。
ハジメの存在を隠して、原因不明の損害があった事と周囲にクルォルウルフが居なかった事を報告し、現在はギルドで現場の調査が行われている。
当然フランの依頼は達成したことにはならなかった。ギルドの調査完了を待って依頼の扱いが決まることになっている。
ちなみにディゴウの森は此処とはかなり離れていて、此処には無属性と風属性の複合最上級魔術の転移で来たらしい。属性の組み合わせが必要なため難しく、消費魔力が多いためエルフでも何度も使えないらしい。
空属性だと単体の属性で空間転移がある。
「そっか。やっぱり冒険者ギルドってランクがあるのかな?」
「ええ。低い方から白、黄、青、赤、緑、黒で、最後が白銀ね。色の元は魔術の属性って言われているけど本当かどうかは知らないわ」
「フランはどのランク?」
「黒ね。白銀は十人くらいかしら。白銀なんかは特別な事がないとなれないわ」
一番多いのは赤で、緑から黒にいくと少なく、白銀は稀。
稀属性を持っていて冒険者をしている魔導師の内白銀は二人。空が一人と光が一人であとは剣士やら魔導師が数人いるらしい。
冒険者ランクはギルドカードの模様の色が変わるらしい。フランのカードを見てみると、読めないが文字と、文字のないスペースに綺麗な模様が描かれていた。植物がモチーフのような模様が右下角から文字を避けながら全体に広がっている。この模様は一人ひとり微妙に異なるものだ。
フランが魔力を通すと、下から更に文字が浮かんできてそれを避けるように模様が変化する。この文字は本人の魔力でのみ浮かび上がり、身分の証明にもなる。
「白銀になるとギルドから指名の依頼が主になって何処かの国で落ち着いて活動することが少なくなるらしいわ。強制はされないけど」
「フランは白銀を目指してるの?」
「そんな面倒なことしないわ。黒で十分に稼げるし」
どうやら面倒なことは好きではないようだ。街から離れた森にいるのも人付き合いが面倒なのが理由だろう。
聞いてみると近くの街にも一軒家を所持しているらしく、依頼を受ける際は其処を拠点にして活動しているという。
ギルドランク黒というと危険度は高いが高額の依頼も多く、複数の拠点を持っている者もいる。フランはこの森の家と街に一軒、離れた別の都市にも一軒持っているが、一年の多くはこの家で過ごすことが多い。
「これくらいかしら? そろそろ夕食の時間だけど」
「それじゃあ最後に食事について」
ハジメは、食事の話が出たので気になることを聞いておくことにした。
「食事? 夕食ならこれから用意するけど?」
「一日何食かな? 前居た所では三食だったんだけど」
「私たちも三食ね。二食や四食の所もあるけど、冒険者はみんな三食じゃないかな」
「よかった。二食とかだったら耐えられないから」
冒険者は朝食事をして移動し、昼に休憩を入れて食事。夜営の準備をして夕食を摂るというパターンが多い。何度も食事の準備をするのは移動の効率を下げてしまう。
「それじゃあ夕食にしましょうか。他に何か聞きたいことがないか考えておいて」
準備をするから、とフランは部屋を出て行った。
◇ ◇ ◇
暫くして、フランが食事を持って部屋に入ってきた。
夕食のメニューはパンとシチューのようだ。器から湯気が上がり美味しそうな香りが漂って来た。
「動けるでしょう? こっちに座って」
フランは部屋にあるテーブルに食事を置いて着席を促す。ハジメはベッドから起き上がってテーブルの方に近づく。フランも席につき、一緒に食事を始める。
「いただきます」
「……?」
「あー食事前の挨拶みたいなもの。この世界では何かある?」
「そうね……神に感謝の気持ちを伝える言葉を言うとこもあるかな? わたしは面倒だからしないけど」
「そうなんだ。あんまりしない方がいいか」
「するならこの世界の作法でやったほうがいいわね。異世界の習慣を色々やってたら目立っちゃうかもしれないから」
ハジメも異世界出身であることを広めようとは思わないため素直に頷き食事を始める。
「美味しい」
「そう。ハジメの世界での食事がどんな物か分からなかったから、口にあったようなら良かったわ」
「こういう料理は元の世界にもあったよ」
シチューに入っている野菜は中まで火が通っていて軟らかく、味がよく浸み込んでいた。フランはパンを少し千切ってシチューに浸けて食べていた。ハジメはパンを千切ってみるが地球のパンほど軟らかくなく、フランと同じようにシチューに浸して食べる。パンの改善が必要なようだがパンの作り方は知らない。
(こんなことならパンの作り方を調べておけばよかった……。何かで読んだことも有る気がするけど思い出せない)
この世界でも柔らかいパンがあることを願いつつパンを口に運ぶ。一人暮らしをしていたので料理はある程度出来るが、パンを自宅で作ったことはない。
食事を終えるとする事が無くなった。まだ日が暮れてあまり時間が経ってないため夜遅い生活をしていたハジメは暇を持て余していた。
「フラン。今から時間あるかな?」
「あるけど、どうかしたの?」
「今から文字とか教えてもらっていいかな?」
「いいわよ。すぐ覚えられるわけじゃないだろうけど、言葉と意味が分かるならある程度覚えたら簡単に読めるようになるでしょう。読みながら口に出したら自然に意味が分かるんじゃないかな」
言葉の加護がある為か、文章を言葉に出来れば意味が分かるらしい。文字の数は比較的多いみたいだが言葉の意味が分かる大人なら簡単に習得できるそうだ。
(英語の文章を見ても意味が分からなくても正確に読み上げれば意味が分かるようなものか?)
なんとも不思議な事だ。これならこの世界の識字率はかなり高くなるだろう。音読できれば意味が分かるのだから。
(しかし人前で音読は結構恥ずかしいので、見ただけで意味が読み取れるようにしっかり勉強しておこう)
フランに文字を習っている間、英語で喋っている意味を日本語で考えているような不思議な感覚をハジメは経験した。慣れれば文章の発音と意味と思考が一致するのだが、文章を見ただけで理解するのは暫く先になりそうだ。
「それじゃあもう遅いしこのくらいにしておきましょうか」
「もうそんな時間? ここがどのくらいの時間で一日なのか知らないから分からないな」
「時計があるから見てみる? 時間の感覚が違うと慣れないわよね」
「そうだね」
時計を借りて見てみると円が四つに区切られている。この目盛りの意味をハジメが聞いてみると一目盛り三刻で、最初の目盛りが朝の鐘の時間、次の目盛りが昼の鐘、最後の目盛りが夕刻の鐘の時間に合わせてあると返事が返ってきた。
何処の町にも鐘があり、国ごとに鐘の時間が決まっている。国が変われば鐘の時間が少しずれるが、朝、昼、夕の鐘の数はどこも同じ。
短針と長針があるが、見ているだけではどのくらい時間が進んだのか良く分からない。明日から体感時間を確かめておく必要がありそうだ。
「時計は必要だと思うからある程度お金を稼いだら買っておいたほうが良いわね」
「そうだね。武器なんかも買わないといけないかな。魔術の発動には何か必要になる?」
「下級魔術くらいなら無くても発動できるけど……それ以上だと魔導具が必要かな」
「魔導具?」
「ええ、私が使っているのはこの杖ね。ここに宝石が取り付けてあるでしょ? これが魔導具の核になっているの。杖はおまけみたいな物かな。材質や形状、刻印なんかで性能も値段も変わってくるけど一番大切なのはこの宝石。魔宝石っていうの。そのままね」
「それは特別なもの?」
「魔宝石には特定の属性でしか使えないなんてことはないけど特性はある。大体色で分かるけど、この魔宝石は水の特性ね」
綺麗な藍色の宝石が杖に埋め込まれている。見ただけでその特性が分かるようだが良いのかとハジメが聞いてみると。
「私の属性は水と風と無属性。他の魔宝石も杖の内部に埋まっているわ。三属性の適性を持つ人は二属性に比べて多くないからどうしても特注の一点ものになってしまう。この杖は元々風と無属性の杖だったけど貰い物なの。デザインや材質、中の魔宝石も結構良い物だから水属性の魔宝石を追加したの」
(一点ものを特注するのが面倒だったのだろうか)
2012/01/06
第十五話までの数字、誤字、文体及び通貨価値微修正。
通貨価値以外、物語の内容に変更はありません。