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一つの異世界  作者: 南津
はじめての世界編
3/24

第2話<サルトクリゼ>

 神々の加護の恩恵を受けた世界、サルトクリゼ。

 この世界で生まれたものは皆、様々な加護の恩恵を受けて暮らしている。

 その最たる物が魔法であり、人がそれを用いる(すべ)を魔術という。この世界に暮らす者は誰一人例外なく魔力を保有している。最も、その資質は個人で大きく異なるのだが。

 資質を持たないものは、魔力こそあるが自ら魔術を行使することが出来ない。

 魔術にも様々な物がある。最も一般的な属性は五つで、無属性、地属性、水属性、火属性そして風属性だ。資質を持つ者の殆どはこの五属性の特性を示す。

 更に極稀に空属性、時属性、光属性、影属性の資質が有る者も居る。現在確認されているこの四つの稀属性を持つ魔導師は空が二人、光が五人、影が七人。時の属性を持つものは二十年ほど前から確認されていない。

 魔術の資質を持つ者の多くは一つから三つの属性に特性を示す。二つの属性の資質を持つ者が最も多く、次が一つの属性、更に少なくなって三つの属性となる。

 四つの属性を示すものは更に稀で、確認されているものは世界でも二十人程。稀属性を持つものは皆、この内に含まれている。

 この資質の組み合わせも様々であり、発現し易い属性順に並べると無>地>水=火>風>>>影>光>空=時と考えられている。この資質は生まれた時から決まっていて生涯変わることはない。


 この大陸“カドラグニス”は様々な種族が国家を形成して暮らしている。エルフ族、獣人族など、人間族以外の種族も存在する。

 人間族の多くは、その他の種族を亜人種と呼び区別している。大陸に点在する国家の殆どは人間族の国家であり、亜人種の人権を認めていない場合もある。

 他種族より魔力も力も弱いが、最も人口の多い人間族は、国家を成して暮らしている。魔力の低い人間族は寿命も140~200年と、獣人やエルフなど、他の種族に比べて短命だ。

 他種族間の半血種族ハーフも存在し、その場合も魔力によって大体の寿命が決まる。この半血種族も人間には亜人種とされて区別される。

 ハジメが今居る此処は、カドラグニスにある大国の一つである、サルクノーレ王国。その一都市から少し離れた森の中にある。

 サルクノーレには他種族も暮らしており、他の国家よりは人間族以外にとっても、暮らしやすい国である。

 フランシェシカはエルフと人間の半血種ハーフで、現在82歳らしい。これは長寿のエルフとしてはまだまだ若く、人間の年齢で考えると成人年齢《16歳》より少し上程度である。最も、人間からすれば知識も経験も豊富なため、人間の基準で考えることは出来ない。

 また、フランシェシカの魔力はエルフの中でも高い部類に入り、人間との半血種だがエルフの特徴が濃く現れている。


「フランシェシカさんはエルフのハーフなのか」

「ええ。半血種だから耳はエルフより少し短いけどね」

「へぇ……触ってみても良い?」


 やはり気になってしまう。触らせてくれないだろうか、と目を輝かせながら尋ねる。


「良いわけないでしょう」

「いや、やっぱり気になるというか。前の世界には人間しか居なかったし」


(獣人も居るということは猫耳やら犬耳なんかも居るのだろうか……。爺さんの家で昔飼っていた犬の耳も気持ちよかったし、触ってみたいものだ)


「自分の耳を触ればいいでしょう。そんなに変わらないわよ」

「むぅ……」


(そうだろうけど、エルフの耳ということに価値があるんじゃないか……)


 未練たらしくフランシェシカの耳を眺めていると、少し顔を赤くしながら話題が変えられる。


「他に聞きたいことはない?」

「んーと、僕の魔術の属性は分かるのかな?」


 魔法があるのなら使ってみたいと思うのは当然だろう。しかし適性がないと魔力があっても使えないらしいため、ドキドキしながら質問する。


「それは実際に調べてみないと分からないけど」

「どうやって調べるの?」

「簡単な魔術を使ってみるしかないわね。暴走したのだから何かしら適性はあると思うけど」

「……暴走したら何か属性に適性があるって分かるの?」


 属性があるだろうと言われて少し安心したが、その根拠が分からなかった。


「ええ、属性を持っていて魔術を学んでいない者は、大体子供の頃に一度は暴走するの。貴方ほどじゃないけど部屋の中のものが壊れる程度にね。洗礼みたいなものよ」

「ふーん。……そういえば最初魔力の暴走でクルォルウルフとかが死んだはずだって言っていた気がしたけど」

「貴方の暴走は最悪だわ。周りの森ごと消し飛んでいたもの。家の中や街の中だとすごい被害が出ていたでしょうね」

「え……」

「五十メルデくらいの範囲の地面が抉れてその真中辺りに貴方が倒れていたの」

「五十メルデ?」

「ん? あー……この部屋の端までが四メルデくらいかしら」


(ということは一メルデが大体1メートルかな?)


「って、五十メルデ!?」


 五十メルデが五十メートルだとすると相当な範囲だ。それが消し飛んでいたらしい。


「ええ、森の一角が綺麗になくなっていたわ。その中心にいたんじゃ、クルォルウルフも一緒に死んじゃったんじゃないかな」

「……」

「とりあえずまた暴走しないよう魔力のコントロールを身に付けなさい。属性の魔術が使えるようになれば暴走することも無くなるでしょう」

「……どうやって?」


 コントロールを身に付けると暴走も起こり難い。魔力の制御の方法が分からないとどうしようもないが。


「それは私が教えてあげるわ。人間はあまり好きじゃないけど、貴方は異世界の人間らしいし興味があるわ。魔力もかなり多いみたいだし」


 フランシェシカはあまり人間が好きじゃないようだ。人間の多くは他種族を差別しているみたいだから仕方ないのかもしれないけど、昔何かあったのだろう。


「いいんですか?」

「いいわよ。まぁ貴方の体調と魔力が整ってからになるけど。暴走の後は意識を失うし四,五日は魔力を使わない方がいいから」

「よろしくお願いします。フランシェシカさん」

「フランでいいわ。貴方のこともハジメって呼ぶから。あ、それとハジメは簡単に家名を名乗ったけど初対面の相手にはあまり名乗ることは無いからね。覚えておいた方が良いわ」


(やっぱり貴族なんているんだろうな)


「初対面の人に名乗らないの? 僕の世界では普通に名乗っていたけど」

「ハジメの世界はどうか知らないけど、此処だと家名がある人間は貴族とか王族とか……他にもいるけど少ないのよ。信用できない人間に名乗る必要は無いわ」

「フランも家名はあるの?」

「ええ、フランシェシカ・ラザラズ。それが私の名前」

「貴族?」

「貴族は人間の爵位でしょう。エルフの家名はあまり関係ないわ」

「ふーん。……家名を教えてくれたってことは少しは信用されているって事かな?」

「……」


 若干きつめの視線でにらまれた。美人な分、睨まれた時のダメージは大きい。


「じょ、冗談です」

「……しばらくこの家で暮らすことになるだろうからね」

「え、此処に住んで良いの?」

「何処に行く気よ。此処から街まで歩いたら三日ほどかかるわよ? 行きたいなら別にいいけど」

「ここに居させてください」

「……他に聞きたいことは無い? 魔術の練習は早くても明後日からになるし、聞きたいことが見つからなかったら明日聞いてくれてもいいけど」

「うーん……この世界で暮らしていくために知っておいた方が良い事はないかな」


 すぐには思いつかなかったため今日のお勧めを聞く。


「……色々あるわよ。言葉は通じるけど文字は覚えないとだめね。ギルドなんかで依頼を受けるにしても読めないとだめだし、魔術と一緒に覚えていった方がいいわ。文字が読めれば本も読めるし、この世界のことも色々調べられるでしょう」

「文字か……。言葉が通じるのに文字は読めないのは不便だね」

「言葉は加護を受けた時点でこの世界の誰とでも話せるからね。貴方が喋っている言葉も違和感無いわよ?」

「……そういえばそうかも。なんか日本語で話してるけど日本語じゃないみたいな……」


(そもそも今考えているのも何語で考えているのか分からなくなってきた……思考がこの世界の言葉に統一されたのかな……)


「文字は幾つか種類があるって言ってたけど、それは?」

「この世界は言葉も共通だから文字も基本的には共通よ。古代文字なんかもあるけどね。覚える必要は無いかな」


(文字は一種類だけでいいのか。元の世界じゃ考えられないな。ということは通貨なんかも共通だったりしないのだろうか)


「それじゃあ、お金について」

「お金か……ちょっと待ってね」


 そう言って部屋を出て行き、戻ってきたフランは小さめの袋を一つ持っていた。ベッドの上に袋から取り出した硬貨を四枚並べる。


「この銅貨が基本で一エイド。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨十枚でこの小金貨。小金貨が十枚でこの金貨一枚ね」


 一緒に聞いた宿の代金や食事の値段から通貨の価値は銅貨が十円くらいで小金貨が一万円くらいの価値があることが分かる。小金貨から通貨の名称が変わるようで、小金貨は一アルド金貨とも言われている。

 平民の間で流通しているのは主に銅貨、銀貨で、小金貨や金貨は富裕層が所持していることが多い。

 通貨には他の金属も入っていてその比率は決められている。ギルドというのが出来て暫くして世界共通になった。

 偽造は魔術で簡単に分かるようになっている。


「あとは……さっきも言ってたギルドって言うのは?」


 ハジメは先ほどの会話に出てきた気になる単語をあげた。


「ギルドは幾つか在って一番人が多いのは冒険者ギルドね。これは世界中にあるわ。後は各国で魔導師ギルドや商人ギルドなんかがあるかな。商人ギルドは国を跨いで在る事も多いけど、魔導師ギルドは基本的に自国内にしかない」

「冒険者ギルドか……定番だな」


(異世界ときたら冒険者ギルドだろう。知ってました)


2012/01/06

第十五話までの数字、誤字、文体及び通貨価値微修正。

通貨価値以外、物語の内容に変更はありません。


通貨価値

銅貨十枚=銀貨一枚を銅貨百枚=銀貨一枚に変更。

それに伴い銅貨=約百円を銅貨=約十円に修正。

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