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一つの異世界  作者: 南津
はじめての世界編
23/24

第19話<護衛依頼>

「それでは、よろしくお願いします」


 王都を出発したのは依頼を受けて二日後の早朝だった。

 商隊は馬車四台の編成で行われており、それぞれに自前の護衛が付いていた。冒険者はハジメ達三人だけで、護衛たちは対人が主の傭兵達だった。


「よろしく」

「はい。よろしくお願いします」

「……よろしくおねがいします」


 簡単に挨拶を済ませて馬車でデルフェノを目指す。遅くても二日程度の道のりになる。

 今回の問題は、王都から馬車で一日ほど走れば見えてくる山の麓の森に住む魔獣だ。街道に接しており、魔獣が出てきた場合、馬車を他の護衛に任せて、ハジメ達が魔獣の相手をすることになる。手に負えないと判断した場合はハジメ達が魔獣を引きつけて商隊は離脱して先行、その後野営地でハジメ達の到着を待つことになった。

 報酬は、噂の魔獣たちが出なかった場合で通常護衛の金貨五枚。クルォルウルフなどの魔物の群れが出た場合は金貨十枚となった。素材は全てハジメ達の物となり、それが追加報酬となる。


「とりあえず、ハジメは今回前衛をやってみましょうか。武器も出来たし、昨日見た様子なら剣術も結構できるみたいだしね」

「了解」

「余裕があるなら、戦いながら魔術も使ってみればいいわ」

「うーん……やって……みようか、な」


 昨日一日空いたため、ハジメはギルドの修練所を借りて剣術の型を練習していた。一通り終わらせた後、相手を想定しての練習をした。祖父の剣を想定したり、この世界に来て初めて遭ったクルォルウルフの巨体を想定したり、群れを想定したりなど、いろんな敵を相手にトレーニングを行った。クルォルウルフの動きはフランに聞いただけなので、スピード以外は全てハジメの想像だった。


「ネネは私と一緒に後ろからハジメの援護ね」

「うん」

「ハジメが魔獣を引き付けるから、昨日練習した通りに魔術を使いましょう。近づいてきたら私が相手するから、落ち着いて練習のつもりでね」

「……(コクン)」


 ハジメが剣術の勘を取り戻している間、フランはその鍛錬を横目にネネへ魔術を教えていた。火属性はとりあえず置いておいて水属性と無属性を中心に練習した。

 今回の護衛の間、ネネは攻撃魔術を使うような事態は起こらないようにハジメ達が動き、ネネは補助と防御関連を先ず覚えた。下級魔術は魔力量的にも何度も練習できるため、いくつかの魔術は魔法陣も現れるようになっていた。

 身体能力も高い種族のため、いずれは近接戦闘の技術も学ぶことになる。


「グレイウルフの群れはさっさと片付けて、クルォルウルフに集中するようにね。私はクルォルの方には手を出さないから、ハジメ一人で相手してね」

「……了解。でもやっぱ近くで見たら恐怖だよね。前遭ったのなんて高さだけで僕の身長遥かに超えてたし」

「まぁね。動きも早いし、ハジメなんて頭から一口ね。でも、このくらい倒せないと黒どころか緑ランクも大変よ」

「うん。黒は報酬も良いからなりたいからね」

「黒になるには竜種は一人で相手できるようにならないといけないから、クルォルウルフくらい簡単にやってもらわないと」


   ◇   ◇   ◇


 昼。食事を摂るため、街道脇に馬車をとめて休憩を取ることになった。

 此処までの間でも馬を休ませるために何度か短い休憩を挟んだが、昼は少し長めの休憩を取ることになった。尤も、食事を作る時間は無いため、携帯食量やパンや干し肉などの保存食が中心となる。


「ん。……何か来てるわね」

「ん? ……ほんとだ。人間……盗賊かな?」

「とうぞく……」


 街道の外れから人の気配が近づいてきている。街道を通る商隊のような気配ではなく、殺気だった人間の気配だった。


「……三十人は居るかしら。ハジメ!」

「了解。ネネは馬車のところで待ってて」

「うん」


 気配は止めた馬車の前方から高速で近づいてきている。ハジメとフランは気配の方へ走り、馬車の前方に立った。商隊の護衛も気付いたようで、それぞれの馬車へ注意を促し、前方に集まってきた。


「三十八って所かな? ……見た限りは盗賊だよね」

「……そうね。殺気立っているし。普通は殺気を抑えて近づくものだと思うけれど」

「そうだね。馬車が動いてるならともかく、止まってるんだから慎重に近づくのが普通だよね」

「そうね。ただ、止まってるから移動の準備が終わる前に襲いたいと考えるのもあるかもね」


 これだけ殺気立っていると、武に長けた者なら、その接近に容易に気付く。殺気を抑えていても全員が抑えられなければ、これだけの人数ならどの道気付かれることになるので気配を消すことは諦めているようだった。

 ハジメの言ったとおり、盗賊は三十八人。全員馬に乗って接近してきている。


「……剣を抜いたね」

「ええ。盗賊で決まりでしょうね」


 馬に乗っている人間は殆どが剣を抜き放った。馬に乗ったまま近づいて、商隊を襲うつもりのようだ。此方の護衛も剣を抜いているが、皆馬から降りている。


「止まれ! これ以上の接近は敵対とみなすぞ!」


 商隊の護衛のリーダーの男が叫ぶ。そばにいる魔導師の補助を借りたのかかなり大きな声が街道に響く。

 盗賊たちは警告を聞かず、そのままの速度で接近する。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 盗賊が雄叫びをあげる。既に距離は二十メルデ程になっていた。盗賊からいくらかの矢が放たれた。

 矢は、魔導師の障壁に弾かれて落ちる。いくつかは商隊まで届いたが、誰に中る事も無く地面や馬車に刺さった。


「やれ!」


 護衛の男が魔導師に合図する。魔導師は接近する馬に向けて魔術を発動した。

 馬の前方の土が大きく盛り上がり、前方を走っていた馬が転倒した。後続の馬は迂回するように避けて、商隊へ近づいてくる。


『風刃』


 フランは迂回した盗賊に対して魔術を放った。一度に五人ほどの盗賊が馬から転落し、転落したものの中には、後続の馬に踏まれるものもでた。

 既に馬に乗った者は十をきり、転落した盗賊たちは剣を持って近づく。


「うおおおおお!」

「……フッ!」


 商隊の護衛たちは近づく馬に対して攻撃を続ける。ハジメも、身体強化して刀を持って接近し、盗賊を切り捨てる。


「……ッ!」


 肉を斬る感触がハジメの手につたわる。これまで魔術の刃で人間を殺してきたが、武器で人間の命を狩るのはこれが初めてだ。

 ハジメは一瞬、その感触に顔を顰めて動きを止めるが、その直後には何も無かったように次々と盗賊を切り伏せていく。


「ハァッ!」


 馬から落ちた盗賊の動きは、ダメージからか緩慢になっており、ハジメは特に恐怖は感じなかった。既に人を殺すことにも気持ちの区切りをつけて、躊躇うことはしない。

 盗賊との戦闘はそれから十分ほどで終了した。護衛側に犠牲はなく、数人の軽傷者のみだった。


 昼の休憩を終え、三時間ほど走った時、遠くの山の麓に広がる森が見えてきた。


「あの辺りが問題の場所ね」

「魔獣は出るかな?」

「さぁ。どうかしらね」


 街道を進み、次第に森が近づいてくる。街道に魔獣の姿は見えない。


「……森に気配はあるわね」


 フランは森の中に魔獣の気配を多数感じた。ハジメも森の中の気配を探る。


「……これは、出てきそうだね。直に止まれるよう馬車の速度を落としてもらった方がいいかな」

「そうね」


 御者をしている人間に伝えて、商隊の速度を落とす。ハジメとフランは先頭の馬車に乗っており、その馬車の速度が商隊の進行速度となっている。

 ハジメとフランは馬車から身を乗り出して、魔獣の気配に目を向ける。

 魔獣は森の外縁まで出てきており、このまま進めば必ず商隊が標的になる。


「来るわよ」


 前方の森から、魔獣が街道に飛び出した。商隊は馬車を止めて、護衛が剣を抜く。

 ハジメ達はそのまま先行して魔獣の群れに接近する。魔獣は依頼の通りクルォルウルフとグレイウルフの群れだった。


『風刃』


 フランの魔術がグレイウルフに中る。ハジメはそのまま魔獣に接近し、刀を抜き放つ。


「……シッ!」


 後方に控えたクルォルウルフを視界に入れながら、接近するグレイウルフを一太刀で切り伏せる。

 飛び掛る魔獣をかわしてすれ違いざまに首を切り落とす。先ほどの盗賊より若干抵抗はあったが、ハジメの刀は魔獣たちを簡単に切り裂いていく。


「フッ!」


 身体強化したハジメの動きは魔獣の速度を軽く上回り、その身に傷を負うことは無い。フランが後方から魔術を放ち、ハジメの周りのグレイウルフの数を減らしていく。

 グレイウルフの数が十をきったころ、クルォルウルフが動いた。

 クルォルウルフはグレイウルフより速い動きでハジメに襲い掛かる。全長六メルデはある体で飛ぶ。

 グレイウルフの攻撃をかわしながら、クルォルウルフに対応する。すれ違いに足を切り落とそうと刀を振るうが、クルォルウルフの毛皮に阻まれて僅かな出血を伴う傷しか与えることが出来なかった。


「ッ! 硬い!」

(これだと致命傷は簡単じゃないな……風刃!)


 クルォルウルフに対峙しながら、グレイウルフに魔術を放つ。気配を頼りに、大き目の風の刃を飛ばしていく。

 視界の端のグレイウルフがハジメの攻撃とフランの攻撃で次々に倒れていく。

 ハジメは刀に魔力を込める。

 五日に及ぶ検証で、刀への魔力の込め方で切れ味が上がることが解っていた。刀身が魔力を透して淡く発光する。青みを帯び黒光りしていた刀身はその青みを僅かに増していた。


「これで、……どうかな!」


 間の抜けたような掛け声を発する。

 初めてクルォルウルフと対峙した際の恐怖は既に無く、自分の剣術を、刀を試すようにクルォルウルフに斬りかかる。


「……ハッ!」


 ハジメの刀はクルォルウルフの足を今度こそ切り落とした。クルォルウルフは痛みからか大きく叫び、街道に声が響く。

 体勢を崩した隙を見逃さず、ハジメは狼の首に斬りかかる。太い首を丸々切り落とすには刀の長さが足りず、半ばほどまで切り裂く程度に終わった。クルォルウルフの首からは大量の血が噴き出してハジメの体を汚す。

 僅かな身動ぎをのこして、クルォルウルフの巨体は地に伏した。


「ハジメ!」


 その時、森の中から新たな雄叫びが響いた。



ありがとうございました。


濃い戦闘が書けない……

だらだら書くのも好きじゃないけど薄いですかね。

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