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一つの異世界  作者: 南津
はじめての世界編
21/24

第17話<冒険者>

お久しぶりです。

久しぶりに見たら11万ユニークで驚きです。ありがとうございます。

素人なので改善すべき点も多々ありますので、少しづつ改善していきたいです。

ご意見、ご感想ありがとうございます。




 ネネの意識が戻ったのは三日目の朝だった。


「ぅ……ん……?」


 小さな呻き声と共にゆっくりと目を開いたネネは、眠たげに目元を擦る。


「おはよう、ネネ」

「……おはよう……?」


 ハジメの声に振り向き、声を返した。その目蓋は再び落ちかけているが、ネネはのそのそと上体を起こした。

 ネネはベッドに座ったまま暫くボーっとしていたが、十分ほどしてようやく頭も起きだしたようだった。


「はじめ、おはよう」

「おはよう。どこか体の調子が悪いところはないかな?」

「? ……だいじょうぶ」

「よかった。お腹は空いてる?」

「……うん」

「そろそろフランが戻ってくる頃だから一緒にご飯食べようか」

「うん」


 ネネは魔力が暴走したことを覚えていないようだ。不思議そうに部屋を見回していたが、なぜいきなりベッドで寝ていたのか分からない様子だった。

 直ぐにフランは戻ってきた。フランの髪はしっとりと濡れていて、艶やかに纏まっていた。


「起きたのね。おはよう、ネネ」

「おはよう」

「とりあえずご飯にしましょうか。起きられる?」

「ん……」


 ゆっくりとベッドから這い出るネネ。特に問題なく体を動かしてベッドから足を下ろした。寝かせる時に靴はフランが脱がしておいたため、靴に足を通す。

 一枚上着をネネに着せ、三人で宿の食堂へ向かう。宿の内観は綺麗にされており、高級宿に相応しい雰囲気をしている。


「……ここはどこ?」


 ネネは見覚えの無い宿にようやく疑問を口にした。物珍しそうに内装を見渡している。


「此処は王都の宿よ」

「王都……ネネおぼえてない」

「ふふ……そうね。憶えてたらすごいわね」

「……?」


 フランが可笑しそうに笑いながら自然にネネの頭を撫でた。ネネは少し擽ったそうに目を細めて、耳をぴくぴくさせる。

 宿泊として食費も前払いしてある為、三人分の朝食を注文する。テーブルに着くとネネにフランが此処に泊まった経緯を聞かせた。注文した食事が届く頃には簡単な説明は終わっていた。


「ぼうそう……」

「ええ、この前ハジメも暴走したばかりだから、私は短期間で二度も面倒を看ることになったわ」

「……ごめんなさい」

「いいのよ。誰でもあり得ることなんだから。とにかくこれでネネも魔力制御のお勉強しないといけなくなったわね」

「まりょく……はじめみたいな、まじゅつのお勉強?」

「ええ」

「ねねも、まじゅつが使えるの?」

「そうよ。また魔力が暴走したらいけないから、制御方法を身に付けないと」


 魔術が使えると聞いてネネは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 基本的に天狐種はその魔力から、必ずといって良いほど魔術に対して高い適性を示す。獣人の中でも狐の獣人は数が少なく、三種族しか存在しない。狼系や猫系、その他の獣人は少なくとも五つは細かく種族が存在している。中には、種族の固有能力に使用する魔力自体はあるが、魔術への適性が皆無で、身体能力のみ発達している種族も多数ある。

 天狐種であるネネならば少なくとも二つの属性に適性を示すだろう。天狐の獣人は滅多に人前に姿を現さないため目にする機会は少ないが、獣人の国などでは偶に魔術師として活躍していた。


「魔力に優れた種族だからなのか、もう大分魔力も落ち着いているみたいね。魔力も回復しているみたいね。出歩くくらいは問題ないでしょうから、今日は街でもゆっくり見てまわりましょうか」

「そうだね。けど、ネネの魔術適性は調べられないかな? 王都だから魔導具も色々売っているだろうし、ついでに買っておいたほうが良くないかな」

「そうね……国に戻ってからでもいいけど、あんまり来ない所だから見るだけでも良いだろうしね。此処の魔導師ギルドで調べるわけには行かないから、冒険者ギルドの修練場でハジメみたいに一つずつ調べることになるわね」


 王都には基本的にその国の魔導師ギルド本部が設置されている。魔導師ギルド本部は国にもよるが、高価な魔導装置――魔導具の一種――が設置されていることも多い。個人の魔術適性や魔力量なども計測できる装置もある場合があるのだが、使用にも制限があり、お金も掛かるため一般の人間は下級魔術で適性を調べるのが普通になっている。

 このような装置は主に、研究用や裕福な貴族の子息子女が魔術制御を学ぶ前の幼い時期に安全に適性を調べるために使用するなど、用途が限られている。全属性を調べる魔導具などは各属性の熟練の魔導師が必要になるため、そう簡単に造ることもできず非常に高価だ。研究用のため、製作時の設計にも膨大な時間を要することもその要因のひとつとなっている。

 フランの暮らすサルクノーレ王国にも魔導師ギルドと王立魔術学院、王城の三箇所に設置されているのみであるため、国民が使用する機会は殆ど無い。


 ハジメ達は本日の予定を簡単に話し合いながら朝食を終えた。高級宿の食事だけあってその質はさすがの物で、ネネはこれまでに無いほど美味しそうに食べていた。


   ◇   ◇   ◇


 夕刻の鐘が鳴った。


 買い物をしながら王都見物を済ませた三人は、再び宿の一室まで戻っていた。四人部屋の内装はリビングとツイン部屋が二部屋、宿の大浴場とは別に浴室も用意されていた。

 三人は三日間ネネが眠っていた部屋で、ベッドに腰掛けながら寛いでいた。ネネはハジメ達に買ってもらった魔力制御の腕輪を嬉しそうに眺めていた。


「ネネも土属性には適性がなかったね……二番目に発現しやすいんだよね?」

「そうよ。ただ、それでも無属性ほど発現しやすいわけじゃないし、火や水より少し発現しやすい程度だからそんな物でしょう」


 ネネの魔術適性は無、火、水の三属性だった。

 ハジメが調べた時と同じように簡単な魔術を行使する方法だったため、魔力制御が出来るまで少し時間が掛かったが、昼前には冒険者ギルドの修練場の片隅で魔術適性を調べていた。

 その後王都の魔導具を取り扱っている店を巡り、ネネの属性にあった腕輪型(ブレスレット)の魔導具を購入した。火と水の双属性の腕輪で、魔宝石の台座周りには装飾として幾つかの宝石が散りばめられている。女性が身に付ける装身具としても綺麗で可愛らしいものだった。魔導具としても、材質も優れ、魔力制御刻印が施してあるため性能には問題ない。

 ハジメは未だに土属性を見ていないため少し期待していたのだが、ネネにも土の適性はなかった。三人居れば少なくとも一人は土を発現する程度には珍しくない属性が、この三人には使用できなかったようだ。


「魔術学院に行く機会があれば、魔力量や属性も精確に調べることも出来るけどね。ハジメやネネがやった適性試験で使えなかったら魔導装置でも同じ結果になるわよ」

「学院か……」

「姉も学院に居るからいつか機会はあると思うけど、ハジメの魔力は一度調べた方がいいかもしれないわね。凡そだけど数値化されて分かりやすいから、魔術を使っていく上での参考にもなるしね」


 嬉しそうに魔導具を眺めるネネを横目に、ハジメ達は二人で話しこんでいた。

 暫くして、ネネが二人を窺うようにチラチラと視線を送り始めた。それに気付いたハジメはネネの隣――ネネの座るベッドにはフランも座っている――に移動して話しかけた。


「ネネ? どうかした?」

「……」

「はじめは……」

「ん?」

「……」


 ネネは何かを言いかけるが、途中から俯いてしまった。ハジメとフランは一度顔を見合わせて再びネネに向き合った。


「どうしたの? 僕達が何か変な事でもしたかな?」

「変なことって……何か言いたいことがあるんでしょう?」


 ハジメの言葉に首を横に振ったネネは、フランの言葉に小さく頷いた。手首に填めた魔導具を右手で触りながら、左手は握り締められている。その手は微かに震えていた。


「魔術が怖いのかな?」


 この言葉にネネは反応した。


「ちがう……はじめは……」

「うん」

「はじめはどうして冒険者になったの?」


 その質問に少し考えてハジメはネネに回答する。


「そうだね……生活するため、生きるためかな。僕も少しは戦う術があったし、此処では魔術の恩恵を受けることが出来た。この世界からの貰い物だけどね。でも、生きていくためにはお金が必要だし、何時までもヒモみたいな……いや、フランに世話になり続けるのも男としてどうかと思うしね。何かするにしても最初にお金が必要になるから。力さえあれば手っ取り早く稼げる冒険者は丁度良かったからね。……定番だし(ボソッ)

「……?」

「……」

「故郷にも帰れないと思うし、帰るにしても直ぐには無理だろうし……暫く此処で生きていくためにもやっぱりお金は必要だから」

「……」

「……」


 ハジメは既に此処(サルトクリゼ)で生きていくことを殆ど決めていた。此方にはすでに、元の世界より親しい人も出来た。親しくしたい人も出来た。

 そもそも殺された人間が生き返ることなど本来出来ないのだ。この世界に命をひろって貰ったのだとハジメは考えていた。


「ねねも……」

「?」


 少し考え込んでいたハジメはネネの言葉に顔を向ける。


「ねねも、まじゅつが使えるから冒険者になれる?」

「それは出来るだろうけど……どうして?」


 ネネを保護した後にハジメとフランは一応ギルドで年齢制限の確認をしていた。

 人間は八歳から青ランク――白、黄に続く三段階目のランクで一般的に一人前とされる――以上の推薦を受けてギルドに登録することが出来る。獣人などの成長が緩慢な種族は十歳から同じように登録出来る様になる。

 十六歳――人間の成人年齢――からは全ての種族で推薦なしでの登録が可能となる。

 ネネは現在十歳であるためフランの推薦を受ければギルドに登録することが出来る。


「……」


 ネネは再び俯く。ハジメ達は暫く言葉を待っていたがネネは何も言わず、沈黙していた。


「ネネは冒険者になりたいの?」

「……(コクッ)」

「理由は言いたくない?」

「……」

「ネネがやりたいのならそれも出来るだろうけど、僕達が冒険者だからってネネまで冒険者になる必要はないからね?」

「……はじめとふらんと一緒にいたい、から」

「……」

「ねねは天狐の獣人だから……つよくなれる?」

「ええ」


 ネネの問いにフランが答える。

 天狐種は種族としての個体値が高い。魔力でエルフには少し及ばないが、獣人としての身体能力の高さから人間や他の獣人に比べ遥に強くなれる素養を持っている。


「はじめとふらんといたいから。ねねもつよくなりたい」

「……」

「……だめ?」


 ハジメを見上げて首を傾げながら問いかける。

せめて魔術を身に付けるまでは保留にした方がいいし、ハジメとしてはネネを危険な目に遭わせたくないのだが、ネネの気持ちを尊重したいとも思う。


「私たちも居るし、大丈夫でしょう。もう暫く旅はあるし、魔術も道中で教えるわよ」

「……ネネがそうしたいのなら僕は止められないよ」


 結局、首を傾げて少し潤んだ瞳でネネに見つめられるだけで、ハジメは断れないのだった。



ありがとうございました。


社会人ですが纏まった時間を確保して更新間隔十日は最低ラインとして守りたいな……


次は……なんだろ。道中ついでのハジメの依頼か唯の道中で何か起こるか……


はじめての旅の終わりが1章の終わりです。予定

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