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一つの異世界  作者: 南津
はじめての世界編
19/24

第15話<ユメ、カタナ、ハジメ>

 終わりの始まりは突然だった。

 銃で男性が、女性が殺される。子供が、老人が殺される。

 留学先で知り合った友人は、ハジメのすぐ目の前で……逝った。


 ハジメの最後の瞬間はその後にやってきた。


   ◇   ◇   ◇


 目が覚めれば、見覚えのある天井が見えた。

 ハジメ達が泊まった宿『月下美人』の一室でハジメは目を覚ました。隣のベッドにはネネとフランが眠っている。


(結局、しっかりと眠ってしまったな……)


 昨夜は色々と考えてしまったハジメ。フランの話も途中から耳から耳へと素通りしていた気がする。

 久しぶりに死んだ状況を思い出したためか、少し嫌な夢を見てしまったようだ。


(……ギルドの修練場を借りて久しぶりに剣を振るか。結局この武器の性能も確かめていないし)


 サンデダンで購入した武器――今は指輪だが――の使い方をまだ研究していない。正直、道中では風の魔術さえあれば近接戦闘は必要なかった。

 ハジメは通常の魔術にも膨大な魔力を練りこむことで桁の違う攻撃力を発揮できる。打ち消すにも殆ど同等の魔力が必要になるため、街道に出るような魔獣に近接戦闘を仕掛ける必要性が無かったのだ。


(爺さんが生きていた頃は毎日打ちのめされていたからな……。大学に入ってからは偶に帰る爺さんの家で、稽古するくらいだったが)


 ハジメは二人を起こさないよう、静かに部屋を出る。

 外は未だ暗く、町の人間が起き出すにも未だ早い。ギルドは基本的に一日中開いているため今の時間でも修練場は開放してくれるだろう。


「護る者が出来た以上、出来ることは全てやっておくべきだよな」


 ハジメがギルドに入ると、中は閑散としていた。早朝も早朝なので当然だが。

 ギルド職員に修練場の使用を申請すると、問題なく許可が下りた。職員の案内で修練場へ向かう。


「へぇ。修練場というか裏庭だな」


 街の中のギルドには決まって修練場が設置してある。街は基本的に城門が閉じるため早朝や夜間の鍛錬をしようとすれば広い敷地が必要になる。

 冒険者ギルドの修練場は主に剣術・体術・魔術など、一通りの練習が出来る程度の広さを確保してあるものだ。フランが言うには、偶に魔術の使用を禁じた地下の修練場もあるらしいが。


「それじゃあ先ずはこの武器の使い方、だね」


(魔力を通すだけで良いんだよね?)


 武器屋でした様に指輪に魔力を通す。指輪は微かに光を放ち――指輪のまま姿を変えなかった。


「え……魔力を通すだけじゃないのかな?」


 今度は武器屋で持った時の剣を思い出しながら魔力を通した。すると指輪は着いたまま(・・・・・)手の中に剣が現れた。


「……指輪は?」


 剣を壁に立てかけ指輪を弄る。見た目には変化が見られなかったので、一度外してみることにする。


「って、外れない!?」


(呪いの指輪かよ!)


 良くある呪い武器なんじゃないかと思ったが、特に悪い感じはしない。それどころか自分の物だという感覚が微かにあった。


(似たような魔力か能力か……)


 武器屋の店主が誰に聞いたのかは知らないが、それが本当ならこの武器を作った人間とハジメは似ているということになる。


(魔力なら……過去の全属性の魔導師か。能力なら……まだ分から無いんだよなぁ)


 一先ず疑問は置いておき、武器の特性を確認に移る。ハジメは剣を手に取るが微かに違和感を感じた。


「武器の形が微妙に違う?」


 武器屋で確認したこの剣は古びた普通のロングソードのようだった。しかし今ハジメの手の中にある剣の形はその時とは僅かだが異なっている。特に剣に施されていたはずの装飾部分が。


「確か、あのときはもっと違う装飾だった気がするなぁ……正確には覚えてないんだけど」


(装飾が違うのは、僕の魔力の影響か? ずいぶんシンプルになってるけど……)


 それとも、とハジメは考える。剣の装飾がシンプルなのは自分が覚えていなかったからではないか。長さと重さはあの時の感じと同じだが、装飾部分を注意して覚えてはいない。覚えていればその通りの剣が再現されたのではないだろうか、と。


(それなら、少し違った装飾を考えてみるか……?)


「例えば……例えば……桜、とか」


 魔力を込めて桜の装飾の入ったロングソードを想像する。すると、手の中の剣の装飾部分が桜の装飾に変わった。桜の花を想像していたので、一輪の桜が刀身に浮かんでいた。


「変わった……。ということはある程度の形状はイメージで変えられるということかな? ……ということは」


 ハジメは地面に正座し、目を瞑って精神を集中する。過去、祖父との稽古で実際に使用していた刀を思い出す。


(全長一〇八センチ、刃渡り七六センチ、重量七九〇グラム……たぶん)


 その後も刀身の反りや形状、刃文に柄や鍔の形状など覚えている限りの特徴を思い出していく。ついでに材質も可能な限り良質な鋼である、と願いながら指輪と剣に魔力を込める。

 ハジメが目を開くと両手に持って掲げていたロングソードは、一振りの打刀に姿を変えていた。

 柄を持って掲げると刃文などが記憶と違うが、紛れも無い打刀――日本刀であった。


「おー! これはいい! やっぱり武器は持ち手を選ぶ特別製……もとい日本刀だよね!」


(これはかなりいい買い物だったかもしれない……金貨十枚、百万円!)


「おっと、銘は四季一にしておこう。……名刀『四季一』ってね」


 すっかり浮かれてしまったハジメは、沈んだ気分も稽古のことも忘れ、子供が玩具で遊ぶように武器を弄り続けるのだった。


   ◇   ◇   ◇


「ハジメ、何やってるのよ。もう朝ご飯食べちゃったわよ」

「ん? あれ、フランどうしたの? ネネも」

「ハジメが遅いから探しに来たのよ。修練場に行ったって宿屋の店主に聞いたから帰ってくるだろうと思ってたけど、何時まで経っても帰ってこないから先に食事を済ませちゃったわよ?」

「あれ、もうそんな時間なの?」

「そうよ。さっさと買い物を済ませて出発しましょう」

「……ご飯は?」

「無いに決まってるでしょう。もうお金は払ってあったんだから、時間を過ぎたら返金なんて無いからね」

「……おさかなだったよ。はじめ」

「ネネ……」


 朝食を抜くことになったハジメにはネネの報告が地味に利いた。


「で、何やってたの?」

「ああ……武器をね……使い方を調べてたんだ」

「そう。どうだったの?」

「いい買い物だったよ。これで近接戦も昔の感覚で出来ると思う」

「よかったわね。まあ、ハジメなら近接戦をするような状況もあまり無いと思うけど」

「……そうなんだよね」


 魔獣程度なら魔力耐性もあまり高くないため、接近してくるようなら近接戦になる前にさっさと魔術で殺してしまった方が早い。対人戦も盗賊相手なら接近される前に、纏めて殲滅することになるだろう。

 使用するとすれば敵味方密集した場所での戦闘と、魔力耐性の高い、それこそ竜や霊獣相手になるだろう。最も、そのような存在に出会うことは普通の状況では起こり得ないが。


「それが、あの時の武器? 棒みたいだけど……」

「これは打刀って言って、鞘から引き抜くと……」

「わぁ……きれい」

「へぇ、それが日本刀って言っていたハジメの武器ね?」

「うん。……まぁかなり弄っちゃったけど」

「ん?」

「なんでもないよ」


 黒塗りの鞘から抜き放たれた刀身は鈍く、微かに青みがかった輝きをみせている。刃文は一見不規則な互の目(ぐのめ)丁子乱(ちょうじみだれ)だが、ハジメが拘りに拘った神秘的な美しさをしていた。この刃文を作るだけで半刻ほど掛かったことはハジメも認識していないだろう。

 既に何度も指輪から出し入れして調整に調整を重ね、顕現させる度の変化は殆ど無いほどにハジメの脳裏に焼きついていた。

 これで何時でも同じ刀を扱うことが出来ると、ハジメは一人で納得していた。

 またこの武器は、指輪に魔力を通せば顕現した武器の回収や、二本までの刀剣の顕現が可能だった。作った人間は双剣を使用する場合なども想定してこの武器を作ったのだろう。


(にしても、どうやって創ったのかな……やっぱり能力の一つなのだろうか)


 もし、能力で創られたのであれば、ハジメにも似たことが出来るかもしれない。


(絵に魔力を込めるだけだけど……)


「ハジメ、そろそろ買い物を済ませて王都に向かいましょう?」

「そうだね。その前に朝食を――」

「それはまた明日ね」

「うぅ……」

「はじめ……」


 そっと握ってくれたネネの手が暖かく、ハジメの心は少し癒されたのだった。


   ◇   ◇   ◇


 その後、実際にハジメに朝食は与えられず、旅に必要なネネの食器や毛布、カバンなどを買うことになった。

 カバンはハジメが一回り大きな物を用意した。毛布などの重たい物はハジメが持ち、ネネには緊急時の携帯食に衣服など、もし逸れてしまった場合でもハジメ達が見つけるまでの、最低限必要なものを持たせることにした。

 ハジメ達も逸れるつもりは無いが、万が一のことを考えてネネの旅の装備を整えた。


「これで一通り揃ったかな?」

「そうね。後は……はい」


 そう言ってフランが取り出したのは小さな革製の袋だった。


「これにはお金が少し入っているからね。無くさない様にね」

「おかね……」

「そう。これから王都に向かうから、それで何かお買い物しましょう? 旅でお金は大切なものだから、お金を持ち歩くのに慣れておかないとね」

「……うん」


 ネネは真剣な顔で頷いた。お金を持つことなど殆ど初めてだろう。お金になれることも勿論そうだが、何かがあったときお金がなければ対処できないこともある。一人で宿をとるにしてもお金が無いと泊まれない。食事にしてもそうだ。


「お金の価値は道すがら教えてあげるからね」

「うん!」


 そうして三人はメインコルヌ王都へ向けて出発した。

 王都までの道程はゆっくり進んで三日。ハジメ達は途中、街道に現れた魔獣を殺したりしたが、特に問題なく行程は進んでいった。


 三日目の朝。

 ネネが魔力の暴走を起こし、意識を失った。


ありがとうございます。

ハジメが死んだ状況はこれから何度か出てきます。たぶん。

特に伏線とかではないです。たぶん



次回は土曜の朝とかですかね? 予定ですが……

一緒にこれまでの話の誤字やらを修正していきます。


章を書き上げた後に定期で上げられれば良いのですが、

書けばどんどん直したくなるので……話が進まないんですよね;

四章まではなんとなく考えてますので、とりあえず先を考えながら書いては上げ続けていきます。

基本的にほのぼの目指していきますが、何とか(自分含めて)読む方の気持ちが盛り上がって頂ける様にがんばりたいと思います。


各章が閑話を除き二十一話前後の予定です。

閑話含めて100000字位を目標にしております。

各話3800~4800位で閑話は3000以下程度にまとめていきます。

投稿形式上、各章終了後に話の内容を変えないよう、文体等の微修正をすることもあるかもしれません……出来ればしなくて済む様に書いていきますが。



という事で一章はあと五、六話になります。




と宣言して自分を追い込んでみる。……この宣言文が消えないうちは大丈夫なはずです。


あ、のんびり更新です。(宣言ェ……


2012/01/06

第十五話までの数字、誤字、文体及び通貨価値微修正。

通貨価値以外、物語の内容に変更はありません。

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