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一つの異世界  作者: 南津
はじめての世界編
18/24

第14話<ハジメの趣味?>

 街に到着したのは夕刻の鐘まで半刻、という時間だった。

 街に着いたハジメ達は早速、ネネの靴を購入した。街で買い物をするにせよ、何時までもハジメが抱えておくわけにはいかない。街も比較的大きく、衣服や旅用品の購入には困らないだろう。


「次は一旦宿を取りましょう。買い物はそれからね」


 フランの提案で宿を取ることに決まり宿屋を探す。靴屋で聞いておいた宿の名前を頼りに街中を歩く。聞いた話では比較的ギルドに近い位置にあるようだった。


「ギルドには寄らなくて良いの?」

「そうね……ネネの身分証明も無いものね」


 ネネは前の街で暮らしてはいたが、殆ど孤児院から出たことが無く、終いには奴隷として街を去っていたため個人を証明することが出来ない。


「一応ギルドカードを作ったほうがいいのかな?」

「年齢制限があるから一応確認しないと分からないけど……冒険者ギルドに登録するのもね……」

「あーそうだね……」


 特に冒険者として依頼をしない十歳の女の子がギルドに登録するのもおかしな話だ。毎年更新のために一度は依頼をこなさなければいけないため、登録だけ行うというのもだめだ。


「サルクノーレに戻ったら王都で住民登録をしましょうか。後見人には私がなれば良いから」

「住民登録って簡単に出来るんだ?」

「まあね。冒険者は基本的に住民登録してる人は少ないけど、子供は国から出ることも殆ど無いしね……毎年税金を払うことになるけど」

「僕はしてないよね。しなくて良いのかな?」

「冒険者は基本的に国内外で依頼をこなすから普通は意味無いのよね。一応依頼料から税金の換わりに、ギルドが各国を拠点にしている冒険者頭の人頭税みたいな物を国に納めているから」

「へぇ……」

「まあ、冒険者が税金なんて気にしてることは無いでしょうね……カードに拠点が分かるようになってるでしょ?」

「ああ、そういえば」

「あれはギルドが税金を払う際に参考にするものなのよ。ギルド登録後半年はその拠点で。そこからは毎月、過去半年で滞在した国の中から最も日数が多かった所に支払われる」

「そういう仕組みなのか……ってネネには難しいね」


 二人の会話を黙って聞いていたネネは良く分からないという顔をしていた。ハジメとフランに手を引かれて二人の間で交互に顔を見上げていたため、首が疲れそうだ。


「ネネは気にしなくて良いのよ。こういうことは大人に任せておけば」

「……うん」

「お、あれかな……?」


 三人の視界に宿屋と思われる建物が入ってきた。路地の先にはギルド特有の雰囲気を持つ大きな建物が遠くに見える。宿屋の看板には『月下美人』と書かれていた。


「……ここで間違いない、かな?」

「そのようね。とりあえず入りましょう」


(月下美人か……この世界にもあるんだな。良く知らないけど)


 ハジメ達三人は宿の敷居を跨ぎ中に入っていく。カウンターには背の高いかっこいい雰囲気を纏った女性が立っていた。


(月下美人って感じじゃないな……クールなかんじ……だ?)


「いらっしゃい」


 歓迎の言葉を受けて、ハジメの思考は途中で疑問符を投げて停止した。

 美人さんの声がやたらと渋い。まるで男が喋っているかのように。


「あ、え?」

「んーどうしたの?」

「あー……いえ、宿泊したいのですが」

「そう。三名様でよかったかしら?」

「はい……」

「ごめんなさいね。今日は二人部屋が一つしか空いていないのよ」

「あーそうなんですか……どうしよっかフラン。……フラン?」


 振り返るとフランとネネが固まっていた。フランは分かるが、ネネも店主らしき女性に違和感を感じたのだろうか。


「フラン?」

「え、あ。……え?」


 珍しくフランが狼狽している。あまり人と関わらないからこういうことには慣れていないのだろうか。


「二人部屋しか空いてないんだって。他の宿探すしかないかな?」

「あら、泊まって行かないの? 二人部屋だけどその子くらいの子なら一緒に寝られる位には広いわよ?」

「そうなんですか?」

「ええ。どうかしら、エルフのお姉さん?」

「は、はい!」

「そ、決まりね。一泊朝夕の食事つきで千二百エルドね」


 店主の渋い声にフランが反射的に返事をしてしまい、今日の宿が決まった。


   ◇   ◇   ◇


「はぁ……」

「フランってああいう人見たことなかった?」

「当たり前よ。……ハジメはなんだか慣れてたみたいだけど?」

「前にアルバイト――仕事してた店の店長があんな感じだったから。十七の時から通ってて、大学に入ったら毎日顔を会わせていれば慣れない方がおかしいよ」

「……ハジメもあんな趣味なのかしら?」

「え、いやいやいや。たまたま店長があんな感じだったから慣れただけだよ。……まぁ、偶に着せられてたけど」

「……」


 フランは複雑な視線をハジメに向ける。過去自分がどんな思考をしていたか自覚していない。


「つ、次はネネの服かな? まだ時間はあるけど女の子の服は時間を掛けて選ばないとね」

「ふく?」

「うん。今は旅の途中だからあんまり買えないけど、家に帰ったら可愛い服を沢山買ってあげる」

「かわいいふく?」

「そうだよ。ネネは可愛いからどんな服でも似合いそうだね」

「ちがう……ねねはぶすだって、いってた」

「え?」

「みんな、ねねがぶすだ、って」

「それは……男の子?」

「うん。ねねの尻尾ひっぱってぶすって」


(難しいな……男の子は)


「そんなこと無いよ。ネネは可愛いからね。これからはそんな悪い虫が付かないように気を付けないとね」

「むし?」

「そうだよー気をつけないと……って、痛い痛い」


 ハジメがネネに大切なことを教えようとしていた時、後ろから耳を思いっきり引っ張られた。


「馬鹿な事言ってないで早く行きましょう。時間なくなるわよ」

「痛、わ、わかったから、放して下さい! フラン様!」

「ふらん?」

「さ、行きましょう」

「うん……」

「あー、痛い……」


(僕には耳を触らせてくれないのに……)


 注意されたことよりやっぱりフランの耳が気になるハジメだった。


 暫くすると衣料品を売っているお店に到着した。お店の中には街でよく見かけるような服が色々と置いてあった。


「うーん。これが普通なんだよね?」

「ん?」

「ネネに似合うもっと可愛い服は無いものかなって」

「あーはいはい」


(んー……これならネネには自分で作ったほうが良いかもね)


 ハジメはアルバイト時代にも店長の指導の下、女性向けの衣装を作っていた。

 店長はそれなりに有名な人らしく、お店には何時も様々な衣装が並べられていた。店の衣装は殆どが店長のデザインした物だった。弟子の方も何人か居て、デザインのアイデアや試作した衣装に対して意見を交わしたり、指導してもらうこともあった。

 店長はお店のことより服を作っている時の方が幸せらしく、商品にしない物まで大量に製作していた。弟子の方やハジメが止めなければ何時までたっても作業しているような人だった。

 ハジメの住んでいた賃貸マンションも、店を作る際にそこで住めることを大前提として、一階を店兼作業場、二階が倉庫兼店長の住居。そして三、四階が賃貸マンションだった。


「此処で使っているような布は売ってるのかな? 出来ればもう少し上質な布の方が良いんだけど」

「どうしたの?」

「ネネに服を作ろうかと思って」

「……ハジメが作るの?」

「え? うん。……あ、フランにも作ってあげるね」

「そういうことじゃないんだけど」

「はじめ、ふく、つくれるの?」

「そうだよー。家に帰ったらネネにぴったりの衣装を作ってあげる」


 ネネの頭を撫でながら――少し耳に触れるのは大丈夫なはずだ――ネネに似合うのはどんな物か、と妄想もとい想像する。

 そんなハジメにネネは嬉しそうに笑う。ネネも女の子だから可愛い物への憧れくらいあるのだろう。そうと決まれば早速布を――


「はいはい。それは家に帰ってからでしょ」


 最早、衣装作りは前世での唯一の趣味だったといえるものだった。店長ほどではないがハジメにも衣服の創作意欲は人並み以上に存在する。


「……ハジメ性格変わってない?」

「う……そんなことは無い、はず」


 若干店長に似てきているのだろうか、不安になった。


 結局、ネネの服は店の中でも上質な物を三着ほどに、ローブや下着などの必要な物を買って今日の買い物は終了になった。残りの買い物は明日の朝にすることにした。


   ◇   ◇   ◇


「此処から二日ほどで王都みたいだから、余裕を持って三日位かけて行きましょうか。依頼の期日は五日……六日後だっけ?」

「うん。元々十日以内の依頼だったからね」


 買い物を終えて、夜の宿にてついでのような依頼の予定を確認する。ネネを保護した際の急行で、一日程予定より早く王都に着きそうだ。


「いらい?」

「ん? ……ああ。僕とフランは冒険者だからね。依頼をこなしてお金を貰ってるんだよ」

「ぼうけんしゃ……」

「うん。どうかした?」

「……(フルフル)」

「そう?」

「うん」


 ネネが何かを考えていたようだが、言いたい事があれば相談してくれるだろう。

 それから、少しネネについて考えないといけないこともある。


「それと、王都に行ったら王城に投書をしておきましょう」

「投書?」

「ええ。ネネは直接関わりがあるとはいえ、この国の問題はこの国に解決してもらわないと」

「ん? ……ああ」


 どうやらフランも同じことを考えていたらしい。ネネの居た孤児院……何処の街かはネネが覚えていないため分からないが、人身売買まがいの事をやっている場所を放置することは出来ない。ネネはまだ気付いていないが、もう少し成長したら自分と同じ境遇の子供が居たことを嘆くはずだ。


「そうだね。僕達で何とかできれば良いけど、元はまともなところだったかもしれないしね」


 たとえ人身売買をしていても、そのお金は孤児たちに使われているかもしれない。年に数人居なくなっていたらしいので、年に金貨二、三十枚ほど――ネネは特別――で孤児十数人を養うには余り余裕があるとは言えないだろう。

 その孤児院の全てを悪と決め付けることは簡単だが、それでも助かっている孤児たちも居るはずだ。こういう問題は国が対処するべきだとハジメとフランは思う。


(本音を言えば、ネネをあんな目に会わせた奴を殺して……ころして?)


 そこで、ハジメは思考を止めた。


(殺す? ……命の価値観が変わってきたのか)


 ハジメがこの世界に来た原因はテロ。目の前の人たちが一人ずつ銃で殺された。


 ハジメが最初に殺した人間は人を殺すことが目的のような傭兵。祖父のような強さは感じなかったが、それでも加減が出来る相手ではなかった。


 ハジメが殺した盗賊は多くの人間を殺している犯罪者。ネネを助けるためとはいえ、助けた命の数倍の命を奪った。


(すっかり、この世界の人間になってしまったな……)


 人を殺すことに慣れてはいないが、人を殺すことを躊躇う気持ちが薄れている。そんな自分に寒気がするが、この世界で護りたい物を護るためにはそれでいいのかもしれない。そんなことを考える自分にまた少し落ち込んだ。


ありがとうございました。

ハジメの趣味が発覚しました。

その内ネネは着せ替え人形になります。


ちょっと4000を超えました……


次はサンデダンで購入した武器について少し。


2012/01/06

第十五話までの数字、誤字、文体及び通貨価値微修正。

通貨価値以外、物語の内容に変更はありません。

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