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一つの異世界  作者: 南津
はじめての世界編
14/24

閑話<少女の事情>

明けましておめでとうございます。

今年もよろしく。


新ヒロイン(?)登場です。もうヒロインは増えない……かな?

新年早々暗い話で申し訳ない……

新年から暗い話なので暗いのはごめんだという方はお戻りを……

(くらい……)


 一台の馬車に一人の少女が乗っている。少女の様子から、乗せられているが正しいかもしれない。

 手には錠付きの枷が付けられており、鎖で檻に繋がれている。檻といっても馬車の半分ほどに鉄格子が付けられた簡単な物だが、それでも十歳にも満たない様に見える少女にとってはどうしようもない障害だった。

 少女の足にも同様に枷が付けられていた。両足に付けられた枷は短めの鎖でつながれ、歩くことは出来ても走ることは出来ないようになっている。


 そして、首には奴隷であることを主張するように一本の首輪がされていた。


   ◇   ◇   ◇


 少女は親の顔を殆ど覚えていなかった。小さいときに両親は亡くなったため、家の近所にあった個人経営の孤児院に入ることになった。

 孤児院での生活ではとりあえず不自由は無かった。あまり食事は与えられなかったが、それでも飢えてしまうほどではない。他の子供たちも何人も居て賑やかな所だった。皆幼い子供たちばかりで十を超える歳の子供は殆どいない。

 孤児院では常に引き取り手を捜しているらしく、ある程度大きくなった者は何処かで引き取られていた。残っている子供は十五、六の子供が数人と、残りは年端かも行かない子供たちだった。


 孤児院はメインコルヌ王国の南東部にある比較的小さな街にあった。獣人やエルフも僅かながら暮らしており国柄から、差別などもあまり見られない街だった。それでも国を超えた隣街では亜人の差別が行われており、少なからずその影響も見られるが。

 孤児院で暮らす獣人の少女もそんな街で幼少の頃から過ごしていた。孤児院は子供ばかりのため、自分と違う特徴を持つ者は少なからず避けられたり、虐めの対象になったりしている。

 少女は今年の風の季節、空月に十歳になったばかりであった。


 この大陸では四季が四つに分けられている。風の季節(ヴァンテセラ)火の季節(フォティエナ)地の季節(テルトゥリア)水の季節(オーズィオ)。風の季節が三巡月、他が二巡月からなり、一巡月が四十日。各月には風月、空月、無月、火月、光月、地月、時月、水月、影月、隔月(九年に一度数日の調整日)の名前が付いている。


 少女の髪は本来、透き通るような白銀で、獣人の特徴である耳や尾も同様に綺麗な色をしていた。最も、普段からあまり汚れを落とせていないようで、今ではくすんだ色をしていたが。

 少女の瞳は髪とは対照的に金色の瞳をしていた。この世界では獣人にとって金色の瞳は珍しく、特定の少数種族のみが有しているだけだった。

 この世界の獣人は様々な種族が存在している。猫の様な特徴を持つ猫人や、狼の特徴を持つ狼人。また、そこから細かく分けられる。

 件の少女は中でも魔力、身体能力が共に高い天狐種族であった。天狐は銀狼と共に、この世界の二つの月の女神の使いとされており、獣化するとその天狐の姿をとる。月の象徴である銀の毛並みに金色の瞳が特徴で、獣人の中でも魔力は一番高く、身体能力も五本に入るほどだ。

 獣人は人間に比べて魔力が高いため、魔力器官の影響で魔力量により大体の寿命が決まるこの世界では、三百年以上生きる者が殆どだが、天狐種族はその魔力量から最低でも千年は生きると言われている。その分幼少期と青年期が他の獣人より遥に長く、幼少の頃は特に、殆ど親と離れることは少ない。


「これが今回の子供か?」

「ええ、この子供は獣人でも珍しい天狐でして、魔力、身体能力共に高く、見た目もこの通り美しいなりをしていますので……」

「……なるほど。これなら高く売れるだろう」

「……ありがとうございます」


(うれ、る……?)


 少女は目の前で行われている会話を理解できなかった。

 その言葉自体の意味は理解できるのだが、頭が働かなかった。

 朝早くに、他の子供が起き出す前に起こされ、手に枷をはめられた。そのまま孤児院の裏口へ連れて行かれ、そこで目の前の男が立っていた。


九番(ノーノ)、彼がこれから暫くお前を預かってくれる。しっかりということを聞きなさい」

「……」


 男は少女を一瞥するがその目は何処か、汚い物を見るような色が浮かんでいた。


「それではこれが、これの代金だ」

「二十枚ですか? もう少しなりませんか?」

「これでも亜人の中では高い方だぞ? ……此処までだな」


 そういって男は金貨を追加で何枚か孤児院の経営者である男に渡していた。


   ◇   ◇   ◇


 売られた。


 そう理解したのは首輪を付けられてからだった。男はジエイム王国ペイダンの奴隷商の人間で、これからペイダンの街に向かい、そこで貴族に売られることが決まっているらしい。そこの貴族は獣人の美しい少女の奴隷を探していて、ものによっては金貨百枚ほど出すと言っていると言われた。

 あの街の孤児院は定期的に子供を奴隷商に売り、そのお金で経営しているということも男から教えられた。そして、自分の名前……九番(ノーノ)の意味も。

 孤児院の子供には全て番号が付けられている。売れたあとの欠番は新しい子供で補充され、番号で管理される。文字を教えられていないためどのような字か分からないが、九番目でノーノと呼ばれていたらしい。言葉の加護はあるが、ノーノが名前として呼ばれていたため、数字として理解することは出来なかった。


(……な、まえ。……わたしのなまえは?)


 少女は自分のことが分からなくなり、涙を流した。声を出して鳴けば孤児院のときに殴られていたので静かに、涙を流した。

 馬車の片隅で縮こまり、足を抱えて静かに泣いていた。泣きつかれ、馬車に揺られ、硬い馬車の床の上で丸まって意識を手放した。


   ◇   ◇   ◇


「……だ……ッ!」


 街を発ってから数日経ったその日、いつもと違う出来事が起こった。馬車は止まり、外が騒がしくなっていた。


「……ん……?」


 数日泣き続けた少女は既に泣くことを止めていた。街で同じ馬車に載せられていた人間の奴隷は途中の街で殆どが降ろされ、残りは少女を含めて数名のみとなっていた。


「囲まれた! なんとかしろ!」


 護衛に就いていた男たちへ、奴隷商の男が叫ぶ声が聞こえる。何かに襲われているらしい。激しく金属の打ち合う音が聞こえてきた。


(とうぞく……)


 その時、数本の矢が馬車の中まで飛び込んできた。少女はお腹から熱い痛みを覚え目をやると、腹部に一本の矢が刺さっていた。傷口から流れる血は少ないため、それほど内蔵まで傷ついてはいないだろうが、少女にとっては今までにないほどの耐えられない痛みだった。


「あ、あ……い、たい……」


 痛みに耐えられず蹲り、終には横たわりお腹を抱えるように身を縮める。昨日までとは違う痛みに涙が流れる。

 その頃には外の音も殆ど止んでいた。


「ぐああああぁあぁあああーー!」


 奴隷商の男の悲鳴が周囲に響く。それを最後に金属音も完全に止み、話し声が聞こえてきた。


「馬車を調べろ、金目の物を運び出せ!」


 盗賊らしい男の声が聞こえる。次第に足音が近くなり、馬車の荷台の幕が上がった。


「奴隷商か。男と……死掛けの亜人の餓鬼か。金目の物を探せ! 餓鬼は連れて行く!」


 そう言うと、男はいきなり奴隷の男たちを切り捨てた。目の前で起こった惨劇に、少女は腹部の痛みを忘れて固まってしまう。


「や、……やぁぁぁーーー!」


 微かな力を振り絞り、叫ぶ。怪我をして、こんな状況だが、死にたくない。


(たす、けて……!)


「檻か……面倒だな……ッ! どうした!」


 急に周囲が騒がしくなった。外から男たちの叫び声が聞こえてきた。馬車に乗り込んでいた男たちも慌てた様子で飛び出していく。


 やがて、周囲は静まり返り、男女の会話する声が少女に届いていた。


ありがとうございました。

次回は今夜か明日にでも更新できるかと思います。


次何が起こるか○わかりですね……;

この話を後にしようと思いましたが、閑話続きできりがいいので此方を先にしました。


2012/01/06

第十五話までの数字、誤字、文体及び通貨価値微修正。

通貨価値以外、物語の内容に変更はありません。

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