閑話<ハジメとの旅路>
※フランシェシカ視点
「それじゃあ出発しましょうか。国境の町まで二日くらい歩けば着くからそこでもう一度食料を補充することにしましょう」
そういって私は歩き出し、城門を出る。ハジメは私の隣を歩いている。
「この前とは違う町だよね?」
「そうね。少し方向が違うからね。国境の町と言っても国境までは距離があるから語弊があるかも知れないけど」
これから向かうのはメインコルヌ王国。サンデダン王国の西方に位置する、海に面した交易が豊かな国だ。サンデダンと同じく獣人や竜人、私たちエルフ――私は半血種だけど――も暮らすことが出来る。二つの国の間や北には亜人種差別の国もあるのでサルクノーレ王国よりは過ごし難いが海路もあるため様々な人が暮らしている。
とりあえず今回はデルフェノの街へ向かう予定だ。一度行けばハジメにお魚も買ってきてもらえるので丁度良いかな。
「その今回行く港町はどんなところ?」
「そうね……港があるわね」
「……それで?」
「魚が美味しい街ね」
「……」
「……なに?」
何かおかしかっただろうか? お魚が美味しい港町であってるわよね……。
「う、海は綺麗なのかな? 僕の住んでたところはあまり綺麗じゃなかったから」
「さあ。依頼で何度か行った他には偶に魚を買いに行くくらいだからしらない」
「……」
基本的に私は買い物と依頼以外で家を離れることは殆ど無い。学院に通っていた頃は偶にお姉ちゃ……姉に連れられて色んな所を見て回ったから転移先には困らないけど。
デルフェノの街の事も実はあまり知らないのだ。お魚は好きなので偶に買いに来ることはあるが、それもサルクノーレの近くに別の港町があるから其方に行くことが多い。
なんだかハジメの目が冷たい!
「え、えーと。街は結構綺麗だったわね……たぶん。それにお魚も美味しいわ。海は……何処もあまり変わらないんじゃない?」
「そっか。あまり知らないんだね」
「う……」
仕方ないわよね。あまり人間は好きではないし人と関わることも最低限しかしていない……。おね……姉に学院に入れられなかったら何処かで一人で死んでいたかもしれないし。
「それじゃあ、一緒に見て回ろうか。産業排水なんかも無さそうだし綺麗だろうな、海」
「そうね」
考えてみればこうやってゆっくり旅するのも久しぶりだ。依頼で家を離れるときも移動に時間を掛けることもしないし、魔術の研究や魔導具造ったりする以外何もしていない気がする。完全に引きこもっているわ。
ハジメが来てからまだ余り時間がたってないけどすごく時間が経つのが早い。偶に姉が家に遊びに来るときに似ている。姉は結構前に教授になったらしく、忙しいみたいであまりあえないけど。
◇ ◇ ◇
「今日は此処で夜営をしましょうか」
「了解―」
そういって軍でするみたいに足を慣らしてポーズをするハジメ。王国では胸に手を当てるがハジメは額に手を当てている。子供みたいで可愛いかも知れない。
「とりあえず乾いた木の枝なんかを捜してくれる? まだ暖かいけど夜は少し冷えるし、結界があるから実際に魔獣は来ないけど、魔獣除けにもなるわ」
「わかった。どのくらい拾ってくればいいかな?」
「出来るだけお願い。沢山有るようなら何回か行ってね。少ないのはしょうがないから諦めましょう」
とりあえず夕食にしましょう。ハジメは結構食べるから食材は少し多めに買ってきた。旅ではあまり荷物が増えるのは良くないけど、はじめから干し肉や携帯食っていうのは可愛そうだ。
どうせ後半は携帯食か食べられる魔獣を食べることになるんだから。
「ただいま。結構落ちてたからもう一度行ってくるよ」
「お願いね」
調理の準備をして鍋に水を張り、野菜を洗っていたら、ハジメが枝を拾って戻ってきた。とりあえず魔導具で火をおこして新しく張った水を沸かす。
あまり凝った物は此処では作れないから簡単な物になってしまうけど、前に美味しいといってくれたシチューにしよう。
ハジメと食事を終え、食器を片付けてお湯を沸かす。ハジメは紅茶が好きなようで茶葉を持ち歩いていた。依頼の前に買った物に加えて、今朝の市でも幾つか購入していた。私は紅茶の良し悪しはあまり分からないのでハジメにお任せだ。
「紅茶の違いが分かるの?」
「少しはね。飲んだことが無いのは分からないけど。だからこの世界の紅茶を色々飲んでみたいな」
「家は基本的にマリヴェーラの市でしか買ってないからハジメに任せるわ」
「フランはいろんな国に行けるんだよね?」
「そうね。私たちが居られる国の大きな街には大体行ったことはあるかな。エルフの居辛い所は全然行けないけど」
「それじゃあ、また何処かに一緒に行かない? 今日の様子だと唯行っただけみたいだし」
「……」
「あ、そんなに長居しちゃだめ……かな?」
「……別にいいわよ」
少し寂しい気持ちになった。
こんなに人と一緒に居ることが苦痛じゃなかったのは初めてだった。ハジメは何時か私の前から居なくなってしまうのだろうか。
そう考えると胸が痛んだ気がした。
◇ ◇ ◇
ハジメが眠っている。
結界の中で火を囲いながら眠ることになったのだ。少し離れているハジメの寝顔を眺める。本人はあまり自覚が無いようだが、結構整った顔をしている。寝顔は子供のようでなんだか可愛らしいが。エルフの男性とも良い勝負をするのではないだろうか。もしかしたら女性とも……
「ふふ……」
自分の可笑しな思考に笑いがこぼれてしまう。ハジメに聞かれたらいきなり笑い出した私は可笑しな人に見えてしまったかも知れない。幸い、しっかりと眠っているようだった。
ハジメの世界では今の時間はまだまだ眠るような時間ではないらしいが、この世界に慣れてきたのか、それともすることが無いからなのか此方のリズムに近づいている。
まあ朝早く起きるのはあまり得意ではないみたいだけど。
ハジメを保護して今日までのことを思い出しながら、私の意識はゆっくりと沈んでいった。
ありがとうございました。
本文は大体四千字、閑話は半分くらい目安で書いてます。
というのも最初40000字を4000だと思って必死に纏めてたんですが四話位で気付いてしまいました。変えるのもあれなんで暫くはこのくらいで続けます。
あと、webで横書きなので頭を一字空けてませんでしたが少しづつ直します。今回からは最初から空けていきますが。
今年も今日で最後ですね。
よいお年を
2012/01/06
第十五話までの数字、誤字、文体及び通貨価値微修正。
通貨価値以外、物語の内容に変更はありません。