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一つの異世界  作者: 南津
はじめての世界編
12/24

第10話<サンデダン王都>

 三日後、サンデダン王都にハジメ達二人の姿があった。


 依頼はその後何事も無く、当初の予定通り依頼主の身元など明確にされないまま終了した。

 依頼主のリシンと共にギルドへ戻ると解放された奴隷たちの今後などについて確認した後、報酬を受け取り解散となった。今回の依頼は基本的に黒のランク持ちに対してのものだったため、報酬は金貨三百枚――およそ三千万円――だった。複数人で受けた場合は通常、これをチーム単位で分配するらしい。

 相当重要な人物のようで口止め料も内には含まれている。通常、奴隷一人につき金貨十~百枚超で値が付くため奴隷として買いなおした方が良いのではとハジメは思うのだが、一度でも正式に奴隷誓約――契約ではない――が結ばれると刻印として消えない傷が残るらしい。

 奴隷商にいる間や、身売りなどで将来自身を買い戻すことが出来る場合、奴隷契約が適応される。犯罪者たちは殆どの場合一方的な奴隷誓約が結ばれる。誘拐された者の殆どはこの奴隷誓約を交わされ、生涯残る奴隷としての刻印が刻まれる。基本的に購入する主の意向で選択されるためその区別は明確ではないが。


(国の重要人物の身内で合計六千万……高いのか安いのか)


 日本人としては映画などで身代金が億単位で要求されることを考えると安いのかもしれないが、此方の世界では日本の金銭感覚は通用しないのだろう。


「ホントに半分も貰っていいの?」

「いいわよ、別に。お金なんて余ってるし、受けなくてもよかったのよ。ハジメもしっかりやっていたわ」

「……ありがとう」

「……そ、それじゃあ買い物でもしましょうか。デルフェノまでの食料なんかも買っておかないとね」


 先日のことを思い出して少し落ち込んだハジメに若干焦って話題を変えるフラン。ハジメも大分落ち着いたのでフランに気を使わせてしまったことに焦った。


「そ、そうだね。……もう一度ジエイム国内を通るんだよね?」

「ええ。最短距離ならそうなるわ。依頼もあんなだったし面倒事があっても困るから飛行魔術で一気に通過しましょう」

「飛行魔術なら半日もかからない距離なんだっけ?」

「そうね。魔力の関係も有るからそれだけ飛んだらその先で夜営する必要が有るけどね。転移したら旅って感じじゃないし、夜営も旅の醍醐味なんでしょう?」

「馬車での旅もよかったけど、お尻が痛くなるのはつらかったな。夜営も殆ど無かった様な物だし」


 日本にいたときも幼少の頃に家族とキャンプに行った記憶があるが、良い思い出はない。祖父に引き取られてからはひたすら稽古の思い出ばかりだった。


「今回は馬車もテントなんかも用意しないから毛布だけよ。結界があるから外敵に気を使う必要は無いけど、夜営をするなら寝ていても気配を探れるようになっておいたほうがいいわね」


 起こしても起きないときもあるし気を付けなさい、とハジメは注意された。


「気を付けます……」

「次はどうしようか……ハジメは剣術が出来るのよね?」

「うん。子供の頃からやってたからそこそこね。爺さんには最後まで勝てなかったけど」

「それじゃあ武器買いましょうか。今ナイフしか持って無いでしょ」

「うーん……此処には刀ってあるのかな?」

「刀? サーベルみたいな物?」

「うん。片刃の剣で反りがあって刃文があるのが特徴かな」

「刃文ねぇ……見たことはない、かな」

「やっぱり? ……片手剣でも持っておいたほうがいいかな」

「両手剣は使えないの?」

「日本刀は……って打刀だけど、それは一応両手剣になるのかな? それを使ってたから使えないことは無いと思う」

「一応?」

「偶に二刀で使ってたから」


 武器屋に着くとその外観に驚いた。


「……ここが武器屋?」

「そうみたいね。ギルドマスターに聞いたから来てみたんだけど……」


 街の隅にひっそりと建っていた武器屋――だという建物――は外からだと怪しい店にしか見えない装いをしていた。人が入ることを拒んでいるような入り口には店の名前【月風華】と書かれていた。


「月風華……風の季節に咲く白い花の名前ね。この国の周辺には生えていないけどもう少し南にいけば生息しているわ……なんでこの国で月風華なんだろ?」

「フランの家の周りには生えてる?」

「ええ、あの辺りの地域から北にかけて一番の生息地かな。風の季節になれば実際に見られるわよ。白くて綺麗な花よ」


 建物の中に入ると外観から受ける印象と同じような雰囲気の店だった。壁には武器のほかに魔導具らしい杖なども置いてある。店の奥にはフードを被った店主と思われる男性が座っていて、ハジメ達をみていた。


「……いらっしゃい」

「見てもいいかしら?」

「どうぞ」


 店主にことわって店の中の武器を見る。


「バスタードはこの辺りね。その、打刀? っていうのに似た物はある?」

「ん、……この中じゃサーベルがやっぱり一番近いのかな。形は」

「その、刃文がないといけないの?」

「あ、いや。使い慣れた物がいいからね。形は似てるけど、っと重さも違うね」

「そっか。その打刀ってのも見てみたいけどそれはまたね。あとはこの辺りの両刃の剣がいいんじゃないかしら?」


 フランが手にしたのは刃渡り八十ルーデ――八十センチ――ほどの幅広の片手剣だった。刀身は微かに赤く、神秘的な雰囲気を醸し出していた。


「刀身が紅い? 何でできてるの?」

「これは火の属性付与がされているわね。だから微かに赤いのよ。魔力を通すと火属性適性が無くても恩恵が受けられる……魔導具の一種ね。魔導剣と言った方がいいかな」


 フランが魔力を通すと刀身が鮮やかに紅く染まった。炎を纏っている訳ではないが熱を感じる。


「これは……燃えているの? 熱くなってるね」

「刀身が熱くなってる訳じゃないの。刀身が燃えると脆くなるでしょ? 触れた物が高熱に熱せられる。魔力を解くと……触ってみて?」

「え、熱そう何だけど……」

「大丈夫よ、ほら」


 フランが刃の部分にそっと触れるがどうやら熱くは無いようだ。どうやら刀身に触れた物に高熱を付与するものらしい。


「こんなのは一般的なものね。火属性は刀剣との相性がいいから比較的良くあるものよ。でも結局魔力を使うから魔力の多い人しか使わないけどね。高熱を付与する物だから普通の人間だと数分くらいしか維持できないんじゃないかしら」

「斬る瞬間だけ使えばいいんじゃない?」

「魔術が使える人間なら可能でしょうけど、自分で魔術を組んだほうが効率いいわ。魔術が使えない人間は普通そこまで魔力操作できないし、ちょっとの時間しか練習できない技術をそこまで鍛えるには相当時間が要るでしょうね」

「そういうものか……」

「……ハジメはその魔力があるから何度でも練習できるけど、魔力が低い人は一日にそう何度も練習できないのよ?」

「……そうでした」


 確かにハジメは魔術を殆ど二日でかなり扱えるようになったが、それは膨大な魔力が有ってこその荒業だ。一日で全ての魔力が回復するわけではないのだから、上級魔術などは数回使えば簡単に魔力は底を尽き、魔力量にもよるが全快まで回復するには数日かかる。

 保有魔力量が多いほうが回復速度も速く、消費した状態ではその速度も遅くなる。魔導師は魔力が底を尽くまで魔術を行使することは殆ど無いのはこのためだ。

 魔力が無い状態の魔導師は身を守るすべがなくなってしまう。


「ハジメなら今言った、斬る瞬間に魔力を込めるってのも出来るんじゃない? 普通の魔導師は剣は使わないからね。剣を使うハジメは少し練習すれば出来るようになるんじゃないかな?」

「それなら最初から付与しておけばいいんじゃないかな……」

「ええ」

「……」


 結局練習するメリットはあまり無いようだ。


「……?」


 ふと、気になってハジメは店の中に飾られている一本の剣を手に取った。


「これは……?」


 見た目は普通のロングソードに見えるが込められた魔力が気になった。


「店主さん、これは幾らですか?」

「……分かるのかい?」

「んーなんとなく?」

「それはかなり昔の物だよ。一人の能力者が創り上げたと言われているが、どうやら持ち手を選ぶようでね。似た波長の魔力か能力が無いと使えないらしい」


 そうだ。どこかで感じたことがある。


「使い方は?」

「魔力を込めるだけだ」


 ハジメは言われたとおり魔力を込めると、剣は淡い光を放ち指輪に変形した。


「……これは?」

「……驚いた。どういうこと?」

「どうやら、お客さんは前の所有者に近い魔力をもっているようだね? 実際に持ち手が現れたのは初めてだが、指輪になるとは……」

「これは幾らで譲っていただけますか?」

「……これは持ち手を選ぶからな……もう八十年もこの店に置いてあったんだよ。……金貨十枚でいいよ」

「あの古そうなロングソードにしては高くないかしら?」

「いいよ。これを頂きます」


 フランが少し値段に文句があるようだが、これは唯のロングソードではない。なんとなくだが、この刀剣はこの世界の中でも特殊な物のように感じた。


「ありがとうございました」

「……まいど」


 剣? を購入したあとはいよいよ旅の支度だ。この剣の使用方法は街を出てからでいいだろう。


「よかったの? その剣で?」

「うん。なんとなく、役に立ちそうな気がしたんだ」

「まあ、いいけど。……金貨十枚もするとはね」

「使う人間によってはもっと価値があるかもしれない。僕にとっては……どうだろう?」

「そんなことも分からずに買ったのね……」

「う……。でもなんとなく僕の力に近い気がしたんだ。それに……」

「それに?」

「こういう持ち手を選ぶ武器ってカッコいいよね」

「……」


 少しフランの視線が痛いが気にしない。


(やっぱり武器といえば持ち手を選ぶ物だよね)


 激しく勘違い甚だしいが、普通の剣より特殊な剣の方が愛着が湧くというものだ。武器屋を紹介してくれたギルドマスターに感謝を捧げる。


「……あ!」

「な、なに?」


 大変重要なことを聞いておくのを忘れていたのだ。もちろん剣の使いか――


「お店の名前の由来を聞き忘れてた……」

「……どうでもいいわよ」


ありがとう御座います

持ち手を選ぶ剣は有りがちですね?喋ったりはしません


2012/01/06

第十五話までの数字、誤字、文体及び通貨価値微修正。

通貨価値以外、物語の内容に変更はありません。

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