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一つの異世界  作者: 南津
はじめての世界編
10/24

第8話<依頼>

 ギルド員に案内された応接室にはこの街のギルドマスターと、冒険者らしい男女が五人に、依頼主らしき男性が集まっていた。依頼主は身なりの良い格好をしており、貴族かそれなりの生活をしている者のようだった。

 メンバーがそろったところでギルドマスターが話を切り出した。


「全員揃った様なので改めて。俺がサンデダンギルドマスターのグロンドだ。これから話す内容は外部に洩らすことが無いように。依頼終了後も同様だ。いいかな?」


 黒以上の冒険者のチームに指名で依頼が来る場合、その多くが機密事項を多数含む場合がある。それは国家の機密に属するものであったり、個人、他のギルドなど様々だ。もちろん依頼する際にギルドマスター以上、またはギルド本部の審査は必要となる。他国の権利を侵すような行為は認められていない。

 ここに居る皆、それを分かっているため黙って頷いた。


「ん。それでは依頼の内容はこちらのリシンさんからお話いただく」


 グロンドに目線で促されたリシンはゆっくりと話し始めた。


「このたびは依頼を受けて頂いてありがとう御座います。私はとある高貴なお方に御仕えしております。先日お嬢様が街の様子を見ると仰られ、護衛数名を連れてお忍びで街にお出掛けになりました。お嬢様はしばしば街の様子を視るとお出掛けになるのでその日も何時もの様に御帰りになるのをお待ちしておりました。暫くして、護衛の遺体が街の外れで見つかったとの報告がありました。我々は全力を持って捜索を行いましたが、出てくるのは他にも数名の少女や女性が行方不明になったと言う情報だけでした」


 そして、行方不明になった女性の中に無属性だが属性を持っていたものがいた。その人間から家族が念話で連絡を受け、現状が把握できたと言う。女性は現在サンデダンの北西に接するジエイムの国のペイダンの街に向かっていると言うことだった。一緒に捕まっている女性の中に依頼人の探している女性がいたという事でギルドに今回の件を依頼。

 女性たちは奴隷の首輪を填められていて、今回の依頼内容は女性たちの解放及び奴隷商人の確保。敵国であり、兵士を動かすことは出来ないと言うことで、他国でも自由が利く冒険者による速やかな奪還を希望しているらしい。女性は重要な人物であり万一にも危害が加えられてはいけない。

 また、奴隷にされたなどと言われることが無いよう秘密の厳守が求められる。


「私は移動の補助と、万一そのお嬢様に危害が加えられた場合の保険と言うことですね」

「はい。首輪により行動の制限がされており、目的がばれた場合人質にされる可能性もあります。その場合最悪……。それと今朝、女性の中に一人酷い怪我をしている者が居ると報告がありました。そちらの女性の治療もお願いしたい」

「分かりました」

「我々は奴隷商人の確保と護衛の討伐及び女性たちの安全の確保、ですね。護衛の騎士が殺されていたところを見ると、かなり腕の立つものが関わっている可能性も有りそうですね。」

「その通りです」

「分かりました。直ぐにでも出発した方が良さそうですね。馬の用意はお願いできますか?」

「既に馬を用意させております。換えの馬も国境付近の町で用意させておりますので、そこで乗り換えてください」


 同行するチームと簡単に自己紹介を済ませると、直ぐに出発することになった。ギルドから出る際気になったことをフランに聞く。


「……フラン」

「なに?」

「馬なんて乗ったこと無いんだけど」

「……そうだったわね。私の後ろに乗るか、飛行魔術で向かいましょうか。……ハジメの魔力なら大丈夫だろうけど目立たないよう馬に乗った方がいいわね。私の後ろで減重の魔術を使って摑まっていなさい」

「……お願いします」


 街の外には五頭の馬と馬車が用意してあった。ハジメは馬車があることに安心したが馬車と馬には交代で乗ることとなる。ハジメは馬には乗れないため馬車のほうに軽量化の魔術をかけて乗ることになり、三人が馬に、依頼人を含めた五人が馬車に乗り込んだ。準備が整うと早速サンデダンの街を出発する。

 ハジメは御者台にフランと乗り込み、馬車の操縦を学んでいる。


「馬に乗れなくても馬車なら直ぐ操縦できるようになるんじゃない? 馬の練習は……馬を買うか何処かで借りるしかないから今は無理ね。移動には困らないし、世話も面倒だから私は持ってないのよね」

「でも、馬は乗れるようになっていた方がいいよね?」

「そうね。依頼なんかで移動手段が馬しかないときもあるかもしれないから。乗馬の練習はそのうち機会を見てやりましょうか」

「ありがと」


 暫く走ったところで一旦馬を休憩させることになり、街道を少し外れた水場に馬をとめる。街道の近くを小川が流れており休憩所としては最適な場所のようだ。

 フランと携帯食で昼食を摂っていると、二人に声がかかった。


「ちょっといいかな?」


 声のかかった方を見ると同行チームのリーダーの男と、メンバーの女性が立っていた。男性は茶色の髪に薄茶色の瞳をした三十過ぎ程の外見で、引き締まった体格をしている。確か、バランと名乗っていた。


「なんでしょうか?」

「いや、少し話しをしてみたくてね。黒のランクはあまり多く無くて、中でもソロで活動している黒は其方のフランシェシカさんだけなのでね」

「そうですか」

「それが今回、二人で依頼に参加している。珍しいと思って、君と話をしてみたかったんだ」

「僕……ですか?」

「ああ。聞いてもいいかな?」

「そんなに面白いこともありませんが……」


 それから休憩を終えるまで、ハジメはフランとの関係について、異世界の内容などを伏せて、話した。一緒に居た女性は魔導師らしく、フランとなにやら話をしていた。


   ◇   ◇   ◇


 その日の内に国境の町で馬を乗り換え、次の街へ駆ける。夜間も交代で馬を駆りながら奴隷商の馬車を追う。奴隷商がペイダンの街に到着する前に目標を確保することが最良だ。街に入られて貴族にでも買われてしまえば、問題が更に深刻になってしまう。

 腕の立つものも居る可能性が有るため、一度は本格的に休憩を取る必要がある。朝方街道から外れてフランが風の結界を張り休息を入れた。

 国境を越えて馬車で凡そ二日の距離を一日遅れで急行したため、ペイダンの街に到着したのは夕刻過ぎ。城門が閉じる少し前に、奴隷商隊を追うような形で街に入ることになった。

 チームから二人、念話を繋げた者が奴隷商の監視を行い、残りのメンバーで奪還作戦の立案を行うことになった。


「街に入られたのは悔やまれるが、夕刻過ぎと言うのは好都合だったな。夜間の内に速やかに対象を奪還。奴隷の首輪を解放し朝方にでも街を立つべきだな」

「そうね。出立は二手に分かれたほうが良いかしら。これ以上人数が増えて、共に行動しているとなると目立つからね」

「ああ。街の外で合流するようにした方が良い。進入方法だが、フランシェシカさんには建物周囲と建物に結界を張ってもらいたい。我々が街を出るまで騒ぎが起きないほうが良いからな」

「それは考えていたわ。進入の際は建物周囲に防音と逃走防止用の結界と……念話の妨害もした方がいいかしら? 進入中に念話が使えなくなるのが難点だけど」

「そうしてくれ。先ず対象が捕らわれている所まで行き、そこにも進入禁止の結界をしてくれ」


 黒のランクの二人が代表して話を進める。

 第一目標の対象確保を最優先に行い、護衛の排除と奴隷商人の確保を行う。最悪商人の殺害も、第一目標を確保した場合許可されている。奴隷商と第一目標の二人は確保した後、直ぐにサンデダン王都のギルドに引き渡すことに決め、残りの対象は護衛をしながら王都へ向かうこととなった。

 フランも二人を抱えての転移は二度程が限界で最低限の輸送しか出来ない。その後は大きな魔術をあまり行使できなくなるので、結界の一部はハジメが行うことが決定した。


「それじゃあ明け方近くの暗い内に開始しましょう。制圧後は三、四名で馬車と馬の確保して近くで待機。後は開門時間まで警戒することになります」


 街からの脱出はチームごとに別れて行うことに決定し、フランとハジメのチームが依頼人と共に少し多めに護衛を引き受ける。

 街内、室内では大規模な戦闘は出来ないため、従来の予定通りバランのチームがメインで行うことになる。バラン達は室内や、洞窟内での戦闘も幾度か経験したことがあるらしく、問題は無いそうだ。


 ハジメは魔術の訓練で鳥などの動物を殺しているが、人間との命をかけた戦闘は初めての経験になる。一度戦闘と言うより殺戮テロを経験して死んでいるため、自身の死への恐怖心は体験済みだ。いざとなれば自分を生かすために、相手を殺すことも今のこの世界では可能だろうと思えている。

 この世界では殺さなければ殺される状況は沢山存在するし、遭遇する。魔獣に盗賊、今は活発ではないが戦争などもあると言う。


「大丈夫?」


 考え事をしていると、心配そうな顔がハジメの視界にうつる。ハジメが深刻な顔をしていたのだろう。


「貴方は今回の戦闘に参加する必要は無いわ。殺された事は有っても、人間を殺したことは無いのでしょう? 珍しい体験だけどね」


 そういって微かに笑うと、今度は顔を引き締めて向き合う。


「人を殺すことになれる必要は無い。けれど、自分が生きるためには躊躇っていてはいけないわ。間違った力を振るうことは罪だけどね」

「……うん。大丈夫だよ……ありがとう」


 自分の考えていることを正確に理解して声をかけてくれるフランに、ハジメの心は少しだけ落ち着いていた。


 作戦開始まで後半刻ほど。ハジメの、異世界での、命を奪うための戦闘が始まろうとしていた。


ありがとう御座います

次回最初の戦闘なので僕が色々と不安です。戦闘描写は控えめになるかも?


最初がこの依頼で大丈夫かな……


2012/01/06

第十五話までの数字、誤字、文体及び通貨価値微修正。

通貨価値以外、物語の内容に変更はありません。

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