珍しい光景
私、髙橋日奈子は、自分の席からそっと大地君と鈴木君を眺めていた。
最近、大地君が毎日鈴木君に話しかけているのを見ていた。
最初は鈴木君が「うるさい」「いらない」と冷たくあしらっていたのに、
ここ数日、少しずつ会話が続くようになっていた。
心臓がドキドキする。
……鈴木君が、男の子と普通に話してるなんて、本当に珍しい……!
この学校で男子が二人同時に話している姿なんて、
ほとんど見たことがない。
女子の視線が集まるのもわかる。
私も、胸が熱くなって、足が少し震えていた。
(どうしよう……私も話しかけたい。
でも、男の子に声をかけるなんて……
もしセクハラだと思われたらどうしよう……
大地君とも鈴木君とも、ほとんど話したことないのに……
私みたいなのが混ざったら、きっと迷惑だよね……
でも……今しかチャンスないかも……)
私は深呼吸を一つして、
震える足で立ち上がった。
弁当の包みをぎゅっと握りしめ、
ゆっくりと二人の席に近づいた。
大地君がちょうど笑いながら何か言っている。
鈴木君も、いつもの冷たい顔じゃなくて、少しだけ眉を寄せながら返事をしている。
私
「鈴木君が話してるなんて珍しいね……!
何の話?」
声が少し上ずってしまった。
自分でもわかるくらい、明るく振る舞おうとして、
でも心の中はバクバクだった。
大地君が驚いた顔で振り向いた。
鈴木君も、眼鏡の奥から私をじっと見つめる。
私
「大地君、ほとんど初めましてだよね?
私、日奈子!
あの……大地君が毎日鈴木君に絡んでるの見てて、
最近ちょっと話してるみたいだから……
私も混ぜてもらってもいいかな?」
(やだ……声が震えてる……
笑顔、笑顔でいこう……
私みたいな目立たない子が急に話しかけたら、
絶対に引かれるよね……
でも、二人とも優しそうな顔してる……
少しだけ……少しだけでいいから、話してみたい……!)
鈴木君はいつものように小さくため息をつきながら、
明らかに嫌そうな顔で、
鈴木
「……邪魔。」
と言った。
その一言で、私の胸がちくりと痛んだ。
大地君が素早く間に入ってくれた。
大地
「いいよ! 座って座って!
鈴木が意外と話してくれるようになったんだよ。
日奈子も一緒に話そうぜ!」
私は、ほっと胸を撫で下ろしながら、
空いている椅子に座った。
まだ手が少し汗ばんでいるけど、
顔は精一杯の笑顔を作った。
私
「えへへ、ありがとう!
鈴木君が話してるの見るの、初めてかも……
どんな話してたの?」
大地君が明るく説明を始めてくれる。
鈴木君は渋々ながらも、たまに相槌を打つ。
私は、内心で何度も「やった!」と叫びながら、
精一杯明るく相づちを打った。
(怖かった……
私みたいな子が急に割り込んでも、
二人とも優しくしてくれてる……
この世界で、男の子と普通に話せるなんて……
思わなかった……
でも、きっとすぐに飽きられるよね……
それでも、今は……嬉しい……)
教室の春の陽射しが、
三人の席を優しく照らしていた。
私の学校生活に、
小さな光が差したような気がした。




