31話 導かれて
俺はおじいちゃんと別れてからずっと悩んでいた。
少し暗い顔をしているらしい。
母さんも心配してる。
食卓でも。風呂でも。布団でも。
おじいちゃんの変わりようと言葉が脳裏に映される。
「もう立派な漢になったな。」
「お前は学校で、友達と笑って、
女の子と話して、体を鍛えて、
そんな普通の毎日を楽しめ。」
思い出しているうちに日付は変わり、
学校に登校する時間だ。
横の席にはすでに鈴木がいた。
俺は教室に着くなり鈴木に挨拶だけ交わし、
カバンを置いて机に伏せる。
そして伏せる俺と本を読む鈴木の間に無言の空間が生まれる。
鈴木が気まずそうに振り返る。
鈴木
「‥‥どうした。今日はずいぶん静かだな。」
俺は無視をした。
無視をしたかったわけじゃない。ただ、なんて言っていいかわからなかった。
別に気を使って欲しかったわけでも、
構って欲しかったわけでもない。
ただただ考えがまとまらなかった。
鈴木は前を向き、そっとしておいてくれる。
日奈子や佐藤も声をかけてくれいてるが、
挨拶程度で会話が続かない。
俺がトイレに行ってる頃、
後ろの席から鈴木に話しかける佐藤。
佐藤
「大地さん、どうかしたんですかね?」
鈴木
「何かあったんだろ。教頭の話の後も悩んではいたが明らかに様子が違う。」
歩いて近づいてきた日奈子。
日奈子
「何かあったのかな、大地くんのお母さんに聞いてみようかな?」
鈴木
「やめておけ。そっとしておいて欲しいんだろう。今は間をおくのがいい。相談されたら答えてやれ。」
トイレから帰ってきた大地。
3人は席に座り伏せる大地を見守るしかできなかった。
大地の心の声
(これからどうしたらいいんだ。
世界を変えるなんて大それた事はできないにしても、少しずつでも動きたいと考えていたはずなのに。今はおじいちゃんが心配で、動くに動けない。公園に行けばまた会えるのかな?)
頭の中で考えを巡らせていたら授業が全部終わっていた。
昼に何を食べたかも覚えていない。
大地はとりあえずプールに顔出した。
今日もテスト前で人は少ない。
更衣室に向かうと女子更衣室から水樹主将が出てきた。
水樹
「おはよう、大地くん。」
大地
「おはようございます。」
やっぱり挨拶以上は続かない。
着替えた俺は準備運動もほどほどにプールに入る。
無心で泳ぎたかった。
3往復した頃、横のレーンで水樹が待っていた。
水樹
「大地くん。いつものやろっか。」
大地
「よろしくお願いします。」
大地と水樹は顔を合わせたら競争するのが日課になっていた。
2人合わせてスタートを切り、泳ぎ始める。
水樹は壁を蹴り、長い潜水から綺麗なフォームで泳ぐ。
俺は多分いつもより息継ぎが多かったかも。
今日は完敗だった。
一度の全力で相当息が切れた。
プールサイドに座り込んで肩で息をつく俺に水樹主将が話しかけてくる。
水樹
「私、昨日来れなかったけど、何かあった?」
俺は口からスラスラと言葉が出た。
負けた言い訳をしているかのように。
疲れていたから考えずに出てしまったのか、誰かに聞いて欲しかったのかはわからない。
厳正おじいちゃんとの出会いと昨日の出来事を水樹に話した。
大地
「俺、中学卒業前まで高校は行かなくてもいいやって思ってました。
精子提供でお金入ったし、家計は助けれると。
でも1人のおじいちゃんと出会って変わったんです。
その人の教えで1年間体鍛えて、自信もついて学校に来れるようになりました。
今笑って友達と過ごせてるのはその人のおかげなんです。
でもその人と会う機会が減っていって、昨日久々に再会したら、病気で別人のように細くなってました。」
長めの自分語りを吐露する。
それを横に座って黙って聞いてくれる水樹。
大地
「俺、心配で。でもおじいちゃんは俺を気にせずに学校を楽しめって。約束だから。学校に来たけど、友達とも会話が弾まねぇ。」
少し興奮して声がでかくなっていた。
雑な敬語も若干抜けていた。
屋内プールに自分の声が反響する。
水樹は俺の濡れた頭をポンと叩いて立ち上がる。
水樹
「学校を楽しめか。大地くん。私ももうすぐ卒部だから少しその気持ちわかるかも。
今しかない。だからこそ楽しんで欲しいんじゃないかな?
大地くんは楽しみたいって思ってる。
それを邪魔したくないおじいちゃん。
でもつっかえてるものがあるなら会いにいったっていいんだよ。気にしたっていいんだよ。
そして会いにいって、今日も楽しかったんだって、あなたのおかげで友達と楽しくやれてるよって伝えてあげようよ。」
優しく答える水樹の顔を見上げて、大地のモヤが晴れる。
そうだ。会いにいったっていいじゃない。その方が1番楽しくやれるってそう思ってしまったのだから。
答えは出た。
大地
「ありがとうございます!主将。また、手合わせお願いします!」
大地にいつもの覇気が戻った。
水樹も微笑みながら競争に付き合ってくれる。
いい先輩を持った。このことすらも厳正おじいちゃんに話そう。
2人は水飛沫を上げながら、日が暮れるまで競走した。
大地は母には心配かけたくない。
鈴木は答えをくれそうだけど、頼りっぱなしになりたくない。
佐藤や日奈子にも重しになりたくない。
頼れる先輩がいるっていいですね。
なぜか身近な先輩にだけ話せるってことないですか?
俺もよく酒の席で愚痴ってます。




