30話 再会
教頭先生との話を終えて、
俺たち3人は誇らしさを感じながら、1日授業を受けた。
あの自習室の会話が、
本当に社会を動かしたんだって実感が、
まだ胸に残っていた。
放課後、
日奈子が加わり4人で話す。
教室で日奈子の声が響く。
日奈子
「えーっ!嘆願書!?あの教頭先生が?」
佐藤
「うん……教頭先生が、
3つの省庁に送ってくれたんだって……
僕たちの話が少しだけ届いたみたい……」
鈴木
「まだ一部だけどな。
法案改正のニュースが出たのは事実だ。」
日奈子が目を輝かせながら話を聞いている。
そんな最中珍しく静かな俺は、何か考え事をしていた。
日奈子
「どうしたの?大地くんは嬉しくないの?」
俺は腕組みしながら眉間に皺を寄せる。
大地
「いや、嬉しいんだ。
俺たちの考えが人伝にえらい人に伝わって、世間が変わる一歩になった。
でもここから俺には何ができるかって、少し考えてんだ。」
そんな話をして4人は解散。それぞれの活動を行っていた。
プールには誰もいなかった。
水樹主将も学期末のテストに向けて休んでる。
相談相手はいなかった。
大地は貸切のプールで
自分のやりたいことはなんなのか考えながら
淡々と泳いでいた。
俺は部活の後、
誰かに話を聞いてもらいたいと考えながら歩く大地は、
自然と公園へ足が向かっていた。
厳正おじいちゃんとの思い出の公園だ。
1ヶ月ほど来てなかったからな。
公園に入り、
ふとベンチに目を向ける。
そこには、古臭いジャンパーを着て缶ビールを飲んでいる老人がいた。
大地
「おじいちゃん!」
駆け寄る俺に、
厳正は缶ビールを一口飲んでから顔を上げた。
厳正
「おう。まだ来とったんか、大地。
制服着てるってことは学校行っとんか。
だいぶ筋肉もついてもう立派な漢になったな。」
俺は久しぶりに厳正に会えたことが嬉しかった。
会えてなかった期間を思い出すように話し始める。
学校に通い始めたこと。
友達ができたこと、男も女も関係なく仲良くできていること。
そして、自分たちの話が少しだけど世界を変えたかもしれないこと。
日が暮れるまで自語りをつづけた。
厳正はずっと話を聞いてくれた。嬉しそうに。
まるで孫の成長を見守るように。
日も落ちて街灯が点灯して2人を照らす。
俺は夕日の影で気づかなかった。
街灯の光に照らされた厳正は、
少し頬がこけていて、出会った頃の覇気は少し陰りを見せていた。
そして座ってる姿も猫背だ。
大地
「おじいちゃん。体調悪いのか?」
厳正はビールを煽って俯いて答える。
厳正
「あぁ。もうガタがきててな。
末期らしい。今は余生じゃ。」
大地
「そんな……」
俺は家族は母だけ。
人死にあったことがない。
実感が湧かない。
でも治療がどうかと言えるほど知識もない。
厳正は辛そうな俺の顔を見て、
重い空気をぶった斬るように言った。
厳正
「大地。考えを言葉にすることは大事なことだ。
それは今回のことでよくわかったろ?
だから胸を張って、どんどん輪を広げていきなさい。
お前には人を引っ張る力がある。
まるで古の男達のように。」
そう言って優しく笑いかける厳正は、
出会った当初の男らしさとは全く違う、
優しいおじいちゃんの雰囲気を纏っていた。
話を続ける厳正は
余命やなんの病気かは言わなかった。
大地が調べてしまうから。
自分に時間を使ってしまうから。
そんなことより青春を送ってほしい。
己はフラッといなくなってしまうかもしれないから、今の大地の邪魔はしたくない。
厳正にはそんな願いがあった。
だから、大地が心配そうに聞いてきたときも、
厳正はただ笑って缶ビールをもう一口飲んだだけだった。
厳正
「心配すんな、大地。
俺はまだまだ生きとる。
お前は学校で、友達と笑って、
女の子と話して、体を鍛えて、
そんな普通の毎日を楽しめ。
それが一番の薬だ。」
大地はおじいちゃんの言葉に
少しだけ胸が軽くなった気がした。
でも、
どこかでわかっていた。
この別れが、
いつか来るかもしれないことを。
厳正はベンチに座ったまま語りかける。
厳正
「大地。
お前はもう一人前だ。
俺が教えてやれることは、
もうほとんどない。
これからは、お前自身で道を切り開け。
……俺は、ここで見守っとるからな。」
大地は小さく頷いた。
大地
「……また来るよ、おじいちゃん。」
厳正は優しく笑って缶ビールを掲げた。
厳正
「ああ、待っとる。」
厳正は、大地の背中が遠ざかるのを静かに見送った。
心の中で、ただ一つだけ願った。
(大地……お前は
普通に幸せに生きろ。
それが、俺の最後の願いだ。)
1人歩く街路には、
公園で鳴く夏虫の声が静かに響いていた。
‥‥重いか?
by作者




