28話 波の果て
大地は教室に着くと、
先に登校していた鈴木に話しかけた。
2人とも席について、大地が話しかける。
大地
「昨日のニュース見たか?妊娠促進委員会の会見。」
鈴木
「ああ。あの日話したことが一部とはいえ現実になるとはな。」
大地
「でもなんで、教師の嘆願がーとか本国の男子生徒がーとか言ってたからな、
俺たちのことだと思うんだけど。」
鈴木
「思い当たるのは……あの日の自習監督、教頭か。」
大地
「でもなんで……聞いてただけで動いてくれたってことか?」
鈴木
「かもな。時間取れたら聞きに行ってみるか?」
大地
「もちろん!」
会話も一区切りついて、2人はそれぞれ準備をしていた。
遅れて登校してきた佐藤が慌てて駆け寄ってきた。
佐藤
「大変だよー。今朝のニュース見た?」
大地
「妊娠促進委員会のやつだろ?今話してたんだよ。」
佐藤
「ちがうよ!厚労省の会見だよ!」
大地・鈴木
「は?」
佐藤が見せてきたスマホの画面で、
厚生労働省局長山田誠一(62歳)が辞職を発表していた。
次代局長には、出産・育児経験のある50代の政治家が就任し、組織は再編されると発表された。
女性社会化が進んだ現代において、男性政治家は珍しい。
厚労省の男性官僚が辞職するとあって、
世間のニュースは厚労省再編一色になっていた。
山田は会見を開いて語った。
山田
「これまで私が就任中に進めてきた政策についてですが、どれも一定の効果はあったと感じています。ただその一方で、今の世の中に本当に必要なものは何か、改めて考えさせられました。
私自身の考えに基づいた、いわば少し固くなってしまった施策よりも、現場で日々子どもたちと向き合っている母親の皆さんの声、そしてこれからの時代を担う若い世代の柔軟な発想こそが、今はより重要なのではないかと感じています。
そうした思いから、このたび私は職を退く決断をいたしました。ただし、世の中をより良くしていきたいという気持ち、その行動理念自体はこれからも変わることはありません。立場は変わりますが、別の形で社会に貢献していきたいと考えています。
最後になりますが、今回の気づきを与えてくれた、嘆願書を送ってくださった現職の教師の方、そしてそこで学ぶ男子生徒の皆さんに、心から感謝をお伝えしたいと思います。本当にありがとうございました。」
俺たち3人はことの大きさに静かに見つめ合うことしかできなかった。
配信が終わった後、
俺たちの耳には蝉の鳴き声だけがこだました。




