波の果て
大地は教室に着くと、
先に登校していた鈴木に話しかけた。
2人とも席について、大地が話しかける。
大地「昨日のニュース見たか?妊娠促進委員会の会見。」
鈴木「ああ。あの日話したことが一部とはいえ現実になるとはな。」
大地「でもなんで、教師の嘆願がーとか本国の男子生徒がーとか言ってたからな、
俺たちのことだと思うんだけど。」
鈴木「思い当たるのは……あの日の自習監督、教頭か。」
大地「でもなんで……聞いてただけで動いてくれたってことか?」
鈴木「かもな。時間取れたら聞きに行ってみるか?」
大地「もちろん!」
会話も一区切りついて、2人はそれぞれ準備をしていた。
遅れて登校してきた佐藤が慌てて駆け寄ってきた。
佐藤「大変だよー。今朝のニュース見た?」
大地「妊娠促進委員会のやつだろ?今話してたんだよ。」
佐藤「ちがうよ!厚労省の会見だよ!」
大地・鈴木「は?」
佐藤が見せてきたスマホの画面で、
厚生労働省局長山田誠一(62歳)が辞職を発表していた。
次代局長には、出産・育児経験のある50代の政治家が就任し、組織は再編されると発表された。
女性社会化が進んだ現代において、男性政治家は珍しい。
厚労省の男性官僚が辞職するとあって、
世間のニュースは厚労省再編一色になっていた。
山田は会見を開いて語った。
山田「これまで私が就任中に進めてきた政策についてですが、どれも一定の効果はあったと感じています。ただその一方で、今の世の中に本当に必要なものは何か、改めて考えさせられました。
私自身の考えに基づいた、いわば少し固くなってしまった施策よりも、現場で日々子どもたちと向き合っている母親の皆さんの声、そしてこれからの時代を担う若い世代の柔軟な発想こそが、今はより重要なのではないかと感じています。
そうした思いから、このたび私は職を退く決断をいたしました。ただし、世の中をより良くしていきたいという気持ち、その行動理念自体はこれからも変わることはありません。立場は変わりますが、別の形で社会に貢献していきたいと考えています。
最後になりますが、今回の気づきを与えてくれた、嘆願書を送ってくださった現職の教師の方、そしてそこで学ぶ男子生徒の皆さんに、心から感謝をお伝えしたいと思います。本当にありがとうございました。」
俺たち3人はことの大きさに静かに見つめ合うことしかできなかった。
配信が終わった後、
俺たちの耳には蝉の鳴き声だけがこだました。




