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波打つ世界

厚生労働省の執務室。

朝の日差しが

机の上に庭木の影を落としていた。

担当官僚の山田誠一(男性、62歳)は、

教頭からの嘆願書を読み終え、

ゆっくりと書類を閉じた。

山田はこの省で長年働き、

局長を務めた経験を持つベテラン。

白髪を短く整え、深い皺の刻まれた顔は、

多くの政策と現実の狭間で苦悩してきた証だった。

今は定年を控えた立場で、

後進の指導と眼前の仕事に取り組んでいる。

山田(心の声)

(……母親たちの労働環境、

この女性中心の社会で

働きやすい政策を

本当に取れていたのか。

出産後の復帰支援、

時短勤務、

ポジション保証……

現場の声が、

こんなにも痛いとは……)

彼は、書類を指で軽く叩き、

静かに息を吐いた。

山田

「私は……

母親の立場に、

寄り添えていなかった、か。」

秘書(女性、30代)が、

静かにドアを叩いて入ってきた。

秘書

「局長、

次の会議の資料ですが……」

山田はゆっくりと椅子に体を沈め、

嘆願書を指差した。

山田

「いや、ちょうどいい。

これを見てくれ。」

秘書は書類を受け取り、

数分で読み終えた。

彼女の表情が少し硬くなる。

秘書

「……出産・育児支援の不十分さ、

孤児増加リスク……

これは、

私たち女性が一番痛いところを突かれていますね。」

山田は窓の外を見ながら、

低く、重い声で語り始めた。

山田

「私は、

もうすぐ定年だ。

長年、この省で働いてきて、

男性保護も育児支援も担当してきた。

だが、母親たちの苦労に、

本当の意味で寄り添えてこなかった。

……だから、

私は引退する。

最後に、現場の声に耳を傾け、

政策を少しでも動かす手助けをしたい。」

秘書は驚いた顔で局長を見た。

だが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。

秘書

「……局長らしい決断ですね。

私も、応援しています。」

山田は嘆願書をもう一度手に取り、

静かに頷いた。

山田(心の声)

(……この手紙が、

少しでも誰かの未来を変えるなら。

俺はそれで十分だ。)

官僚は自身の足で、女性社会の現場を回る。

何か一つ、残していけるなら。と

1人の官僚の覚悟は一つの手紙により決まった。


他2通の手紙の行先でも、波が広がり始めていた。


時刻は進み、

教育委員会の会議室。

午後の陽射しがブラインド越しに差し込み、

机の上に細長い影を落としていた。

委員長(女性、50代)は、

教頭からの嘆願書を手に、

静かに読み上げた。

委員長

「……男子生徒の不登校率が極めて高い。

単位免除制度が背景にあるが、

学校という社会の縮図の中で男子が自然に溶け込める環境を整えることが、

将来の社会参加意欲に直結する……

復学した男子生徒がクラスメイトと会話できる空間を支援・啓発せよ、

ですか。」

隣の委員が眼鏡を押し上げて口を開く。

委員A

「これは……

かなり具体的な現場からの声ですね。

最近、男子生徒の復学事例があった、という報告はありましたが、

ここまで『自然な会話』という点に焦点を当てた嘆願は珍しい。」

委員長

「彼らの視点は

単なる教育論ではなく、

社会全体の歪みを反映しているのかもしれません。

……この嘆願、本部に上げるべきでしょう。」


さらに後日、

妊娠促進委員会の会議室。

窓から見える街並みは、

曇り空でどんよりしていた。

委員会長(女性、40代後半)は、

嘆願書をゆっくりめくりながら、

ため息をついた。

委員会長

「出産後の社会復帰支援が不十分で、

女児を孤児院に預けるケースが後を絶たない……

育児休暇後のポジション保証、

時短勤務の義務化……

これは、私たちの委員会が一番痛いところを突かれているわね。」

委員B

「補助金は妊娠直後が手厚いのは事実ですが、

その後が厳しいという指摘は、

内部でも何度か上がっていました。

実際、孤児院からのデータを見ると

女児の割合が年々増加しています。」

委員会長

「この教頭先生は元孤児としての視点を語ってくれています。

この嘆願は、現場の声として重いわ。

私たちの委員会としても、

復帰支援プログラムの拡充を上申するべきね。

……これをきっかけに少しは動けるかも。」


ここ数年で安定施策とされてきた法案が、

まだ練り直せると各上層部に伝わる。

出生率は増えていたが、

まだまだ足りないんだ、と。

そして1ヶ月後、法案改正と厚労省官僚の代替わりがニュースになった。

高齢者の勤め先や、

孤児達が親世代になった時、

そうなると社会はまだ荒れる。

そんな形で世界観を練り直さないといけないと

反省中の作者です。

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