氷のマスク
俺、鈴木優太は
幼い頃から「男」として生きることを強いられてきた。
一つ下に妹が生まれた日、
母親は喜んだらしい。
補助金が増えるから。
でも、男に比べて女児の手当期間は短い。
妹・ひかりが小学生迎える頃には
母親の心は冷めたかった。
「また男を産めばいい」
そう言ってひかりを孤児院に預けようとした。
小学生だった俺は、
ひかりの泣き顔を見て初めて親に逆らった。
「預けるなら、
俺も一緒に行く。」
母親は呆れた顔をした。
でも、俺は本気だった。
自力で入試を突破して特待生になり
中学から精子提供の稼ぎを約束した。
「俺が稼ぐから、
ひかりは家に置け。」
そう説得して、
今もひかりと一緒に暮らしている。
俺はひかりを守るために感情を押し殺した。
ひかりさえいればいい。
だから、他人には冷たくあしらう。
それが、俺の生き方になった。
学校でも女子生徒に絡まれても
無表情で切り捨てる。
「冷徹メガネ」
そう呼ばれても構わなかった。
近寄らせなければ誰も傷つかない。
高2の春。
ひかりは俺と同じ高校に進学した。
俺を「お兄ちゃん」と呼ぶ。
ひかり
「お兄ちゃん、学校楽しい?」
優太
「あぁ、楽しいさ。勉強も捗る。」
ひかりの頭を撫でる。
ひかり
「でも、バレー部の美月先輩がお兄ちゃんは寡黙でいつもひとりぼっちだって。」
春から同じ学校に通い始めた妹に冷たい側面がバレ始めた。困った。
美月って誰だ?会話しないから顔と名前が一致しない。
それから1週間が経った頃。
荒木大地という熱血系筋肉バカと出会った。
最初は見下していた。
騒がしくて、
熱くて、
周りを巻き込むタイプ。
俺のペースを乱す存在。
でも大地は毎日俺に絡んできた。
「一緒に帰ろうぜ」「一緒に飯食おうぜ!」
うるさい。
面倒くさい。
でも大地の熱血は、
俺の氷の壁を少しずつ溶かしていった。
そして、日奈子が混ざってきた。
最初は大地の隣にいるだけの存在だった。
女の子。
近づかせたくない。
でも日奈子は、明るく、自然に、
会話に割り込んでくる。
「鈴木君、
話してるの見るの初めてかも!」
そんな言葉に、
俺は初めて「案外悪くない」と思った。
今、佐藤も増えた。
今日の自習室、3人で精子提供の話をした。
俺は妹との過去を語った。
大地は悩みを吐露し
佐藤はそれに静かに共感した。
俺は大地を諭した。
「お前の理想論は武器だ」
自分でもこいつをこんなに認めてるなんて思いもしなかった。
放課後、自習を終えて帰ると、
日奈子が靴箱の前にいた。
日奈子
「なんの話してたの?」
大地
「男の務めの話だよ。」
俺は、淡々と続く。
鈴木
「お前には理解できん。
これ以上聞くとセクハラだ。」
佐藤
「そんなに……言わなくても……」
日奈子は少し不貞腐れた表情で
でも、すぐに笑顔に戻って手を振った。
日奈子
「そっか……
じゃあ、
また明日ね!」
俺は日奈子の後ろ姿を見送った。
こんなにも笑い合える日々が、
楽しく思えた。
帰宅後、自室で勉強していたら
部活終わりの妹が帰ってきた。
ひかり
「ただいま!今日も練習きつかったー。」
俺のベッドに倒れ込む妹。
優太
「楽しかったか?」
ひかり
「うん!最近お兄ちゃんも楽しそうだよね!」
俺は頬杖をついて返事した。
優太
「そうかもな。」
(……大地、
お前のおかげだな。
俺も少しだけ
変われたのかもしれない。)
夏が近づき暑くなった。
氷のマスクなんて溶けてしまいそうなほどに。




