自習室での会話
佐藤がクラスになじみ始めた。
初めて教室に来たあの日から3日が過ぎ、
週明けの学校。
佐藤はまだ前髪で目を隠しがちだったけど、
大地や鈴木と話すときは
少しずつ顔を上げられるようになっていた。
元々女キャラは苦手じゃなかったんだ。
トラウマさえ想起させなければ
大地や鈴木より女子と話せるくらい
人懐っこいところがある。
大地は鈴木とばっか絡んで関わりづらかったし、
鈴木に至っては言わずもがな。
冷徹メガネの名を体で表してた。
このクラスには佐藤の方が自然と溶け込んでいた。
そんなある日、
今日は男3人とも自習室にいた。
女子生徒は別カリキュラムでいない。
10年前に発足された妊娠促進委員会の制定した授業——
妊娠・出産手当、補助金、人工授精、性教育、妊娠期間の注意など、
妊娠への意欲を高め、出産の恐怖を無くすための内容だ。
男子は男性保護法のセクハラ関連に該当するため受講せず、
この時間、男子生徒は自習や部活動練習に充てられる。
各クラス担任はカリキュラムの講師として立つため、
自習監督官は時間に空きが出来た教頭だった。
思案、勉学、暇つぶし。
三者三様に過ごしていた。
大地が鉛筆を弄びながら口を開く。
大地
「今月の精子提供いった?」
鈴木
「先週行った。」
佐藤
「今週末初めて行きます。」
大地
「そっかぁ……」
俺は大きなため息をつきながら机に顔を伏せた。
鈴木が眼鏡を軽く押し上げた。
鈴木
「まるで話を聞いてくれと言わんばかりの反応だな。」
佐藤
「そんなに悩んでどうしたんですか?」
俺は顔を伏せたまま、重い口を開いた。
数日間悩んでいたことを、
とうとうぶちまけた。
大地
「俺たちの精子で孤児が増えてるかも知れないって考えてんだ。」
鈴木は冷静にペンを走らせながら。
鈴木
「ない頭使ってんな。珍しい。」
佐藤
「でも……そんなことあるんですかね。」
佐藤はそこまでピンときてない。
大地
「精子提供で出生率は増えるが、男女比は変わらない。
比例して男女共に増えていくだろ?
そうなると補助金が出ない女の子は孤児院に預けられるケースが多いらしい。」
鈴木
「……誰に聞いた?」
俺は間を置いて答えた。
大地
「日奈子が。
そうだったらしい。あいつ孤児なんだよ。」
佐藤
「日奈子さんが……!?
そうだったんですね。」
大地
「身近にもいるんだよな。
多分もっと‥‥。
どうにかならないのかな。
俺たち、ただ精子提供して金もらってるだけじゃ……意味ないよな……」
今思えば日奈子の時折見せる自信なさげな表情
私なんかという自己肯定感の低さ
捨てたれた過去からきているのか?
あの明るさは孤児院で周りを心配させないように振る舞ううちに染み付いたのもなんじゃないか。
あの日の食卓の日中の涙が頭から離れない。
鈴木はノートを書く手を止め、
静かに語り出した。
声はいつも通り淡々と、
でもどこか抑揚が少なく、
感情を押し殺したような響きだった。
鈴木
「そういう社会なんだろ。
俺も経験がある。」
俺と佐藤が顔を上げた。
鈴木
「昔、妹が捨てられそうになったことがある。
俺の補助金で家計が潤ったのをいいことに、
親はまた男を産んで金を稼ごうとした。
女の子が生まれて、
補助金が出るギリギリ、
小学生に上がる頃に孤児院へ預けようとした。
話を聞いた妹は俺に泣きついてきた。
小学生だった俺は孤児院に預けることに反対した。
自力での入試で特待生合格と、
中学以降毎月の精子提供での稼ぎを作る……
そう説得して、
今も俺は妹と一緒に暮らせている。」
一瞬だけ鈴木の瞳が遠くを見た。
いつもより声が少し低く
感情を押し殺したような響きだった。
でも、
「俺が説得して」
という一言に、ほんのわずか
妹を守った兄としての決意と、
その重さを噛み締めた人間味が滲んでいた。
自習室に静かな沈黙が落ち、
時計の秒針の音が遅く聞こえた。
ここのために日奈子の自己肯定感の低さを書いたつもりだったんですけど、
内心でしか表せてないので大地はどーやって感じ取ったんでしょうね。
鈴木のシスコンっぷりが発揮!
保護対象として妹を溺愛してますね。
全然絡めてないのでいつか出したいなと思ってます。
バレー部の彼女と一緒に。




