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男の務め。

この世界では、男性出生率の低下が深刻化したため、

政府は50年前に「精子提供制度」を導入した。

健康な男性は月1回、病院の個室で自慰を行い、精液を提供可能。

量と質に応じて報酬(5〜10万円程度)が支払われ、

男性の主な収入源となっている。

個室は完全予約制で、ブッキング防止のため原則月1回。

貢献度が高い場合は臨時で月数回許可される。

提供された精子は人口妊娠に使用されるが、

結果として女性出生率がさらに上昇し、

男性はますます希少になった。

皮肉にも、この制度が孤児増加の一因と指摘されることもある。

日曜日。

都心の総合病院、精子バンク棟は

いつも通り静かだった。

私はここで勤務する看護師、

佐田美咲、28歳。

この部署は男性患者がほとんど来ないから、

患者の顔と名前を覚えやすい。

特に、荒木大地くんは提供ドナーとしては優秀だ。

量、質ともに高くて、体も健康体。

毎月欠かさずに来るので私も自然と顔と名前を覚えていた。

今日は大地くんの予約日。

午前10時枠。

いつも通り個室の鍵を渡し、

カップと説明書を渡した。

佐田

「大地くん、

いつも通りでいいわよ。

ゆっくりで大丈夫だから。」

大地くんは、

少し疲れたような顔で頷いて、

個室に入っていった。

(……今日はいつもより元気がないみたい……

何かあったのかな……)

個室のブースは防音で完全個室。

男性が自慰をして射精しカップに精液を入れるだけ。

量はグラム数で管理、質は後日検査。

報酬は量と質で変動するけど、

大地くんはいつも上位。

5〜10万円くらいは確実に入る。

時間はかかる。

今日はなんだか長く感じた。

40分以上経って、

ようやくドアが開いた。

大地くんはカップを持って出てきた。

顔色が少し悪い。

いつもより出も悪そうだった。

佐田

「ありがとう、大地くん。

秤に乗せて確認するわね。」

カップを秤に乗せ、

グラム数をチェック。

ギリギリ、基準量クリア。

質も問題なさそう。

佐田

「OKよ。

今回は5万円ね。

いつも通り口座に振り込むわ。」

大地くんはカップを渡しながら、

ふと小さな声で呟いた。

大地

「お姉さん。

もしこの精子で孤児が増えてるとしたら、

僕たちはなんのために頑張ってるんでしょうか。」

私は、一瞬、息を飲んだ。

(……大地くん……

そんなこと考えてるの……?)

彼の目はいつもより暗く、

どこか遠くを見ていた。

私は、言葉を探した。

佐田

「……大地くん……それは……」

大地くんは答えを待たずに、小さく頭を下げて病院を後にした。

私はカップを片手に

しばらくその場に立ち尽くした。

(……私たち、看護師として

精子提供を管理してるけど……

大地くんたち、本当は何のために……

この精子を……

出してるんだろう……)

胸がざわついた。

大地くんの言葉が、

頭の中で繰り返される。

この世界で男性は希少で、

精子提供は「稼ぎ」であり、

「義務」のようなもの。

でも、

大地くんはただの義務じゃなく、

もっと深いところで悩んでいるんだ。

私はカップを検査室に持ちながら

静かに思った。

(大地くん……

あなたは、

きっと、その誰かを守りたいと思ってるんだね……)

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