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食卓

夜、母の包丁とまな板の音が

リビングまで心地よく届いてくる。

俺は自分のセーブデータで先を進めて、

その膝に日奈子がいた。

頭を俺の腿に乗せ、

静かに寝息を立てている。

髪が少し乱れて、

頰が柔らかく押しつぶされている。

フライパンで肉の油の弾ける音が鳴った。

日奈子は音に反応したのか目を覚ます。

俺は日奈子が動いたのに気づいて、

優しく声をかけた。

大地

「おはよう、日奈子。

よく寝れたか?」

日奈子はゆっくり目を開けて、

俺の顔を見上げた。

少しぼんやりした表情から、

すぐに申し訳なさそうな顔に変わる。

耳が赤くなっていた。

日奈子

「……ごめん……

寝ちゃってた……

膝、痛くなかった?」

俺は笑って首を振った。

大地

「全然。

疲れてたんだろ?

ゆっくり寝ててよかったよ。」

そこに母さんがキッチンから顔を出した。

母さん

「日奈子ちゃん、

起きたのね。

今日夜ご飯食べていきなさいよ!

たくさん作ったから。」

日奈子は目を丸くして、

すぐに嬉しそうな笑顔になった。

日奈子

「本当ですか!?

ありがとうございます!

嬉しい……!」

日奈子は、

スマホを取り出して、

家に電話をかけた。

少し緊張した声で、

「ひな、

今日はお友達の家でご飯食べるから……

遅くなるよ……

うん、大丈夫……

おやすみ……」

と話して、

電話を切った。

母さんは満足げに頷いて食卓を準備し始めた。


食卓でご飯を待ってる間に、

母さんが俺の学校での話を日奈子に根掘り葉掘り聞いてきた。

母さん

「日奈子ちゃん。大地、学校でどう?授業サボってない?ちゃんと聞いてるかな。」

日奈子

「大地くんはすごいんですよ!

鈴木くんは元々“冷徹メガネ”って呼ばれてたんですけど、

今は大地くんのおかげか優しくなって。

大地くんも授業に集中しないと

鈴木くんに怒られるのでちゃんと聞いてますよ!」

母さんは目を細めて、嬉しそうに頷いた。

母さん

「よかった……

大地、本当に変わったわね。」

日奈子は隣で俺の話をめっちゃ褒めてくれる。

日奈子

「大地君、

本当にすごいんですよ!

水泳部入ったり、

みんなを引っ張ったり、

熱血で優しくて……

ひな、大地君のこと

大好きだよ!」

俺は少し照れながら笑った。

大地

「日奈子、ありがとう。」

食器を並べるのを手伝う日奈子は、

とても柔らかく、

いつもの元気っ子とは違う。

お淑やかさがあった。

皿を丁寧に並べ、箸を揃え、

母さんに「ここでいいですか?」と確認する姿が、

なんだか新鮮だった。

食卓にハンバーグと白ご飯が並んだ。

母さん

「いただきます。」

大地

「いただきます。」

日奈子

「いただきます……!」

美味しいと頬張る日奈子。

ハンバーグを一口食べて目を輝かせた。

日奈子

「おいしい……!

お母さんのハンバーグ、

本当に美味しい……

ひな、こんな家庭の味、

初めてで……」

その瞬間、日奈子の瞳から一雫の涙が垂れた。

大地

「大丈夫?

水いるか?」

俺は焦って聞く。

日奈子は涙を拭きながら、

笑顔で首を振った。

日奈子

「家庭の味って初めてで。

本当に嬉しくて。

笑って食べようと思ってたんだけどな……

おいしい……」

優しく見つめる母と、

少し心配そうに見つめる俺。

大地

「日奈子、よかったら聞かせてくれない?

無理のない程度に。」

日奈子は語る。

「ひなは、生まれてすぐに母に捨てられました。」

日奈子は孤児だった。

幼くして母に捨てられている。

それ自体は珍しいことではない。

世間では、男が生まれなければ捨てられる。

そんなことも多いと聞く。

人工授精で子供を持つ母たちはほとんどが独り身。

男の子が生まれたら、大人になるまで

年額と月々で相当の補助金が出る。

補助金が出ない女の子を女で一つで育てるのは難しいという判断だ。

このご時世、全国に孤児院が増え続けている。

日奈子はその中でも、

最も早く見切りつけられ、

母から名前すらもらえていない。

日奈子という名前は

院長先生がつけてくれた名前だという。

俺と母さんは言葉を失った。

そんな空気を察してか、

日奈子はフォローする。

日奈子

「今の環境が嫌とかではないよ。

むしろよくしてもらってる。

姉妹がいっぱいで楽しいし……

ただ、

家族で食卓を囲むのに憧れていただけ……」

それ以降日奈子は明るく振る舞ってた。

楽しんでくれていただろうか。


俺は夜遅いので日奈子を家まで送ることにした。

孤児院の入り口で日奈子を待ってた院長に、

遠くから会釈して「おやすみ。」

挨拶を交わして帰る。

街灯も少なく、

月明かりが照らす路地は、

虫の声だけが響いてた。

俺は、

一人で家路につきながら、

日奈子の涙を思い出していた。

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