3バカのゲーム予習。
佐藤は初日ということもあり昼で帰った。
部活終わりの俺は、水泳部の更衣室で着替えてから、
自習室の前を通りかかったところで鈴木と出くわした。
鈴木はいつものように無表情で
鞄を肩にかけながら歩いてくる。
大地
「お、鈴木。
一緒に帰るか?」
鈴木
「……別に。」
それでも鈴木は俺の隣を歩き始めた。
俺たちは並んで靴箱に向かう。
靴箱の前で日奈子が立っていた。
いつもより肩を落として
少し凹んだ様子で靴を履き替えている。
鞄の紐を指先でぎゅっと握りしめ、
視線を床に落としている。
いつもの明るさが、
今日は影を帯びていた。
大地
「日奈子、どうした?
なんか元気ないぞ。」
日奈子は少し無理に笑顔を作って
俺たちを見上げた。
でも、瞳の奥に後悔の色がチラリと見えた。
日奈子
「……うん、ちょっと……
佐藤くんのこと、昼休みに話しかけすぎちゃったかなって……
怖がらせちゃったかも……私、
また迷惑かけちゃったよね……」
指先が鞄の紐をさらに強く握りしめ、
肩が少しだけ落ち、
視線を逸らした。
彼女は、自分の行動が佐藤くんを傷つけたかもしれないと心の中で反省しているようだった。
俺はすぐに励ました。
大地
「大丈夫だよ。
佐藤は最初から緊張してただけだ。
日奈子が悪いんじゃない。
少しずつ慣れていけばいいんだよ。」
鈴木はため息をつきながら、
淡々と口を挟んだ。
鈴木
「……お前が騒がしいからだ。
もっと静かに話せば、佐藤は怯えなかったかもしれない。」
日奈子は肩をさらに落として、
小さく頷いた。
指先が鞄の紐をぎゅっと握りしめ、
視線を床に落としたまま。
日奈子
「……うん……
そうだよね……
私、もっと落ち着いて話せばよかった……
ごめんね……
私、いつもこう……
みんなに迷惑かけちゃう……」
鈴木は、
少しだけ目を細めて、
続けた。
鈴木
「……まぁ。
共通の話題を持つのがいいんじゃないか。
ゲームとか。」
俺は鈴木を見て
少し驚いた。
大地
「お前、そんなこと言うなんて優しいな。」
鈴木
「……うるさい。」
俺は日奈子を見て笑顔をつくる。
大地
「そうだな。
佐藤の好きなゲームの予習しようぜ。
今日、俺の家で一緒にやろうぜ。
鈴木も来いよ。」
鈴木
「……面倒くさいが、
まあいいか。」
日奈子は目を輝かせて
少しだけ元気を取り戻した。
指先の力が少し緩み、
肩も少し上がった。
日奈子
「本当!?
陽菜も行っていい?
佐藤くん、
ゲームで話せたら、
少し安心してくれるかも……!」
俺は頷いた。
大地
「もちろん。
みんなでやろう。」
俺の家に着くと母さんが玄関で迎えてくれた。
母さんは友達を連れてきた俺を見て、
目を細めて優しく微笑んだ。
母さん
「ようこそ、
鈴木くん、日奈子ちゃん。」
母さんの声はいつもより少し弾んでいた。
大地が友達を連れてくるのは、
中学の頃からほとんどなかったことだ。
母さんはその喜びを隠しきれずに、
少し頰を緩ませていた。
鈴木は無表情で頭を下げ、
日奈子は明るく手を振った。
日奈子
「お母さん!
いつも大地君をありがとうございます!」
日奈子、保護者みたいな言動だな。
母さんは優しく微笑んで、
リビングに案内した。
母の目には、
「大地がこんなに友達を連れてきてくれる日が来るなんて……」
という静かな喜びが溢れていた。
俺たちはリビングのテーブルに座り、
鈴木が持ってきたFC1を繋げた。
大地
「お前、
0おすすめしてたくせに、
1から持ってくるあたり、
佐藤の流れでやらせようとしてくれてるんだな?」
鈴木
「うるさいさっさと繋げ。」
俺は、
笑いながらコントローラーを握った。
ゲームが始まると、
すぐに指示厨モードが発動した。
鈴木
「ここでバフ入れとけ。
切れるまで1番効果がデカい。」
日奈子
「この子可愛いから召喚しようよー!」
大地
「いや、
今は火力優先だろ!
召喚は後でいい!」
日奈子
「でも可愛いよー!
ひな、この子好き!」
鈴木
「可愛いかどうかは関係ない。
性能で選べ。」
俺たちは、
そんなやり取りを繰り返しながら、
ゲームを進めていった。
佐藤はいない。
でも、この予習が
佐藤が安心して話せるきっかけになるといいなと思った。
母さんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。
母さん
「みんな、
ゆっくりしてね。」
母さんの声はいつもより少し柔らかく、
喜びに満ちていた。
友達を連れて帰ってきた息子を、
静かに、でも心から喜んでいる。
楽しい時間は過ぎていく。
この楽しさを佐藤に届けるために。
俺はコントローラーのボタンを操作する。




