オルゴールと風鈴
小学六年生の夏休み明け、自由研究の発表会の時間。
「ねぇ、太田君。その木箱には何が入ってるの?」
隣席のクラスメイト石井春香が不思議そうな顔で僕の机に置かれてある、ぶさいくな怪獣のイラストが描かれた木箱を指さした。
「これはオルゴールだよ。こうやって、ネジを回すと音楽が流れるんだ」
そう言ってネジを回すと箱の外見とは対照的に優しい音色が流れ出す。
「わー、素敵な音ね。それ欲しい」
「あげるわけないだろ」
「じゃあ交換しない?私の作った風鈴と」
そう言って向日葵がデザインされた風鈴をランドセルから出してチリンと鳴らす。
「そんな安っぽい物となんて釣り合わないよ」
「えーひどい!私頑張って作ったのに!」
「それは俺だって同じだよ!」
そうやって取っ組み合いの喧嘩に発展した。
だけど、僕はすぐに後悔することになる。
「石井春香ちゃんが転校することになりました。彼女は今日で最後の登校になります」
先生の横に立っている石井は泣きそうな顔をしていた。
「今までありがとうございました。みんなと過ごした時間は一生の宝物です」
その日の彼女は有名人みたいに周囲に女子の壁を作っていて話しかけることもできなかった。
放課後、石井が僕に何も言わずに教室を出て行ったのに腹を立てて追いかけた。
「交換だ!オルゴールやるから風鈴をくれ!」
「釣り合わないから嫌よ」
「お、お前が欲しがったんだろ!」
「私と太田君とじゃ釣り合わないの!勉強ができて、足も速くて、手先が器用で、カッコよくて、みんなに優しくて。だから、もし私がオルゴールもらっちゃったら、罪悪感で毎日苦しくなるから!」
「なら担保だ!オルゴールを貸してやる代わりに風鈴を人質にとる!もし、返さなかったら風鈴もらっちゃうからな」
「返せないよ……だって、遠くに行っちゃうんだよ」
「小学校の近くにある一番大きい公園。そこで待ってる」
「……約束だよ」
そうしてオルゴールと風鈴を交換した。
月日は流れ、成人式を終えた僕は小学校近くの大きな公園のベンチに座っていた。
手提げ鞄に付けていた風鈴を人差し指でチリンと鳴らす。
「彼女いなかったな」
そう呟き目を閉じると、どこからか懐かしいオルゴールの音が聞こえてきた。
その優しい音色に涙がにじみ出る。
「待ちくたびれたよ」
ベンチから立ち上がり音の鳴る方へ向くと、
「人質を返してもらいにきたわ!」
ぶさいくな怪獣のイラストが描かれた木箱を持った女性が立っていた。




