Start 003 こぼした本音
「それって幸せなん???」
たかゆきからの返信に楓は一瞬、スマホの画面を二度見した。
"幸せ"って聞かれただけなのに、答えようとしても言葉が浮かばなかった。
朝は家族の弁当、朝食、後片付け、昼は会社の非コミュニケーションに耐え、夜は帰宅した夫の透明交流に耐え、心の行き先は、はるか遠くにある。
そんな日々を"幸せ"と言えるだろうか?・・・
"わからんなぁ"それが最も近い精一杯の今の楓の出した答えだった。
「僕なら楓さんを大事にするよ、今のままじゃ楓さん、壊れちゃうよ」
シャボン玉の中に包まれたような言葉が心の的で、パチンと割れた。
スマホの向こう側にあるその傘の下が、現実よりも思いやりが注がれているように感じていた。
「九州に来たらいいよーぉっ、海が見れて景色がキレイ、俺のところに」
その一節が届いた時、シャッターを閉じたイメージが迫ってきた。
その裏で、首を振る自分を心の奥で眠らせていた。
「疲れたら、逃げたらいいんだよ、俺が守るから」
楓は画面の光を見つめながら、静止した。
今のままでいいのかと問われ、"逃げる"という方法もあることに気づいた。けれど、『俺が』という、言葉が戸惑いと困惑を混合していた。