Start 002 傘の下の言葉
「今日は仕事どうだった?」
たかゆきからのメッセージは、毎晩決まった時間に降る小雨のようで、親しみやすい分、毎日続くとどこか、機械的に感じる。
楓は、いつものスタンプと「無事就業してきたよ」と送信した。
でも、その日はついほろりと本音を漏らした。
「正直疲れた 上司にまた言われた 家でも話聞いてもらえないし・・・」
送信したけど、ちょっと後悔がよぎった。たかゆきからはすぐに返事が届いた。
その後悔を抹消するような返信だった。
「楓さんはすごいよ、そんな中でも頑張っているんだから、俺はわかるよ」
肯定してもらえる、そう思った。
誰にも話せない心の濁りを、たかゆきには話せる・・・
「旦那は無関心でアニメ・ドラマの鑑賞・ミニブロックをしてるだけ、子供は何か私がしゃべると、"うるさい"と遮断される 家族って何、って思うわ・・・」
そんな言葉まで吐き出してしまっていた。
「俺だったら、絶対そんな思いさせないのに・・・」
スマホ画面にポツンと浮かんだ文字は、まるで傘の中にいる恋人同士のように感じた。
優しいのか、上辺なのか?、装いなのか?
楓にはまだ判断できずにいた。
けれど気が付かぬうちに、傘の中に深く入りすぎていた。