第9話 拝殿の亡霊『ヴォルス大王』
――荒廃した拝殿。
かつて人がお参りに来たであろう拝殿。今は荒廃し木は腐り果て石畳には苔が生え揃え、見る面影すらなくなりつつある。
外に生えていた樹木は手入れが無く、自然の赴くまま成長している。中は雨風に荒らされ、植物が生えている。
拝殿の外、そこに一つの大きな影がある。それはかつて王と呼ばれ、戦でこの地に眠った亡霊、『ヴォルス大王』。手には身の丈以上の十字槍を持ち、全身に纏う鎧は返り血で赤黒く染まっっており、亡霊の名の通り死してもなお守り続けるその身はゾンビの如く腐り果てている。
〈拝殿の亡霊『ヴォルス大王』の討伐任務を開始いたします、制限時間は5分です〉
各自、ゲームの仕様で別々の場所にスポーンされる。
位置は決まって、全員ヴォルス大王が確認できる位置にいる。
〈カウントダウン始めます。3〉
「諸君、作戦は今まで通りヴォルス大王に攻撃しつつ、俺の合図で動きを止めてくれ!『死の奇跡』でスコアを稼ぐ!」
その言葉に全員頷く。せっかく買ってもらった高級品だ、存分に使い果たしてミスが無いようにしたい。
〈2〉
状況に気が付いたヴォルス大王が辺りを一周見渡す。
もし、現実にこんなのがいれば震え上って動けなくなりそうだ。
〈1〉
ヴォルス大王は槍を構え、狙いを定める。狙われているのはダラモンダさんだ。
幸い、ダラモンダさんは防御型だ。見た目に反してガードが堅い、それ系のスキルをたくさん持っている。
〈任務開始します〉
合図とともに雷を纏ったヴォルス大王が一直線にダラモンダさんへと突っ込んでいく。
前にも言ったがヴォルス大王はアナザーワールドきっての最高難易度であり、一部のマニアからクソゲーの称号をもらえるほどの仕様だ。当然、一撃の威力はだてじゃない。
「見えざる盾!」
防御魔法を使ったが攻撃を受けたダラモンダさんは飛ばされる。
鬼畜要素その1、ゲーム開始度同時に高火力の一撃が飛んでくる。これで大抵のプレイヤーは瀕死状態となり、他のメンバーが回復又は攻撃に専念する。
初心者なら一撃でゲームオーバーだ。
「あっぶねー、HPが半分になったぞ」
防御系に振り切っているダラモンダさんですらHPが半分になる程の一撃、調整前は瀕死になっていたが脅威であることには変わりない。ならば……。
「千刃の暴風」
風属性の攻撃魔法を使い、全身へ攻撃する。
全身にダメージを与えておいて、その後の攻撃が楽になる様にしたい先日行った討伐作戦でもこれは有効だった。
「ガイストさん!」
「憤怒の星!」
ガイストさんは種族の通り死霊魔法が得意だが、イベント作戦ではほぼほぼ使えない。そのためヴォルス大王の様な同族のアンデットに対して有効な魔法やスキルも保持している。これはそのうちの一つだ。
上空から真っ赤に染まった隕石がヴォルス大王に直撃する。大ダメージと共に頭部が露出する。
「諸君!」
アニメ大好騎士さんから合図が出される。
死の奇跡は装備するのに10秒間、動けなくなる。そのかわり使用可能時間は長く、1分程の時間使用が可能だ。その1分以内に攻撃を当てなければいけない。
「閃光爆裂」
モフモフさんが聖炎魔法を使い援護する。
真っ白に輝く炎がヴォルス大王の肉体を焼き、持ち合わせているスキル『妖艶の色火』で炎属性の魔法の威力を上げる。
「鉄の王」
その攻撃に怯んだヴォルス大王から金属魔法で武器である槍を奪い取る。
後はアニメ大好騎士さんが死の奇跡を叩きこめば終わる。制限時間は残り3分40秒。
「天界の雷」
次の瞬間、一瞬にしてヴォルス大王は消えた。
それは討伐されたのではなく、姿を消したと言う意味だ。
前回のイベントとは違い、雷魔法を使った移動攻撃をしたヴォルス大王は槍のある僕自身の所へと向かってきたのだ。
激しい衝突音と共に激突する。ギリギリの所でかわしていたのが良かった、もしぶつかっていれば1人だけゲームオーバーになっていた。
「くらえええええっ!」
そんなことは関係ないと言わんばかりにアニメ大好騎士さんは死の奇跡をヴォルス大王に当てる。
まばゆい白い光に包まれる。死の奇跡の効果は直撃した対象に既存のイベントクエストで叩き出した最高記録を上乗せする。
〈討伐成功、帰還します〉
任務終了の合図が鳴る。
後はもう一度結果を見て、ランキングを確認するだけだ。
――――
キングバット城へと帰還し、記録を確認する。結果はランキング1位。
2位と十分な差をつけての1位だ、さすがは課金アイテムを使っただけのことはある。
「よし、もう一度行こう」
「……え?」
「これじゃあ前回みたく塗り替えられる可能性だってある。それに、さっきは使うのが速すぎた気がする」
な、なにを言ってるんだこの人は、まさか本当にイベントギリギリまでやるつもりなのか、あんなに集中したのは久しぶりだってのにか!?。
「イベントギリギリまでやるぞー!」
「「おー!」」
ダメだ、完全にこの人たちのペースに乗せられている。
だが、残り1時間ちょっとだ。やるからには最後までやるか……。
隣にいたモフモフさんを見る、どこか楽しそうな表情をしていた気がする。