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第7話 ご機嫌とりのデート


 翌日の放課後――。


「ねえねえ相馬!どこ行くどこ行く!」

「落ち着いて下さい、真優さん」


 先日、真優と約束したデートの真っ最中だ。今は街中を適当にぶらついている。

 集合時間より少し早く着いたのだが、それでも遅いと怒られたときは理不尽だと感じた。


(デートとは言え具体的に何かしないと機嫌が悪くなる、ここは無難に……)

「映画を見に行きましょう」


 プランはない。

 元々は真優の機嫌を取る為だけに約束したデートだ、予定なんてものは初めから立ててなどいない。ぶっつけ本番で考えるしかない。


 映画館に着いたが……。


(何を見ればいいんだ?!)


 何も考えずにデートの定番、映画館に来たは良い物の本当に何も考えていないため何を見ればいいかわからない。というか女の子が見るような映画がなにかわからない、さすがに女児が見るようなものを映画で見るわけでもなさそうだし……困った。


「あ!アタシあれ見たい!」


 指さす先には広告でよく見かける有名な作品だ、これなら時間も潰せるしなにより本人が見たいと言うのならこれでいいだろう。内容は知らないが。


「ではチケットを買いますので真優さんはポップコーンなどを……」

「ダーメ!2人で買いに行くよ!」

「ちょっ!真優さん!」


 腕を引っ張られて連れていかれる。

 結局、真優の勢いに押されて腕を組みながら2人でチケットとドリンクを2つとポップコーンのキャラメル味を1つ購入して映画を見ることにした。


(き、気まずい……)


 映画を見るは良い物のまさか恋愛物の映画だとは知らなかった。

 作品自体は物凄く面白いのだが、それはあくまで個人の感想でありデートとして来ている今の状況では話が違う。周りもカップルだらけで女性経験のない自分からするれば、なんかそういう雰囲気になりそうだ。

 今の場面は物語の大詰め、主人公とヒロインがキスをする場面だ。


(だが、この時間ももうすぐで終わる)


 恋愛映画で大詰めと言ったらもうすぐで映画が終わることを意味する。もう少しだけ、この時間を耐え抜けば気まずさから解放される。

 その時、相馬の手に温もりを感じる何かが重なった。

 そっと手を見ると隣に座っている真優の手が上に重ねられギュッと握られていたのだ。


(真優さん……寒いのか?)


 少し震えている真優の手をもう片方の手で握り返すと先程より熱く温もりが感じられる。

 映画を見ている相馬には見えないが、この時の真優の顔は恥ずかしさで真っ赤に染まっており、映画に集中できないでいた。

 映画の雰囲気になんとなく手を握ってしまい、相馬が恥ずかしがればいいな程度に思っていたが、まさか握り返されるとは思ってもいなかった。


(~っ!なんで相馬を脅かすつもりがアタシが恥ずかしがってんの!?)

(やっぱり寒いのか?もし次のデートがあれば映画は除外しておこう)


 相馬は心の中でそう決意した。


 2時間に及ぶ映画は長いようで短く感じられた。思っていた以上に映画が面白かったのもあるだろう。

 さて、時刻は午後1時。お昼の時間だ、無論この後の予定は何も考えていない、とりあえず無難にフードコートで昼食をとる事にした。


「真優さん、どこのお店にしますか」


 フードコートと言っても種類は色々ある、ハンバーガーに麺類、牛丼に串屋、他にもあるがここは真優に決めてもらおう。後で駄々をこねられても困る。


「んーとねー」


 3階のフードコートをぶらつきながら真優は考え込む。

 2階にもあるのだからそこでもいいのだが、映画館から一番近かった3階から見て回っているのだ。

 今の時間帯はお昼時と言うのもあってどこも混みあっている。それでもいつもなら3階より2階の方が空いていそうなのだが、子供連れが多い休日の今日は別だろう。


「アタシ串屋に行きたいけど、相馬は?」

「でしたら、僕もそこに賛成です」


 3階から降りて2階の串屋に向かう。

 数分並んだがお昼時にしては空いている方だ。席に案内され、バイキング形式の材料を取りに行く。


「相馬は串から行く?それとも米から行く?」

「そうですね」


 無難に串から取っていくのも良いが米から行くのも良い、日替わりの麺類も気になるが、ここはメインである串から行こう。


「僕は串から行きますね」

「じゃあ一緒に選ぼ!」

「嫌です」

「えぇ!?なんで!」


 真優は驚愕ているが前に出かけた時、あれもこれも頼み最終的には食べきれずにこっちに渡してきたからだ。

 結果として食べきれたがお腹がはち切れそうだった。


「前回の事を思い出してください、あと声が大きいです」

「あー、ね……でも今日はバイキングなんだし、前みたいな事はないよ!」

「本当ですか」

「本当だよ!」


 ここで断っても良いが今日の目的を忘れてはいけない。ここに来た目的は真優のご機嫌取りだ、ギリギリのラインで機嫌を良くしよう作戦に失敗は許されない。


「……わかりました、では一緒に選びましょう」

「うん♪」


 機嫌を取り戻した真優は何故か腕を組んでくる。

 そのことに触れたいが、作戦が上手くいっているのに機嫌を悪くされては困るのであえて無視することにした。


 席に戻り油に串を入れ揚げていく。

 傍から見ればカップルの様に見えたかもしれないが仕方ないことだ。このまま機嫌よく過ごしてくれれば今日のデートは平和に終わる、そうすれば明日にはいつも通りの毎日が戻ってくるのだ。


「相馬、口開けて」


 揚げ終えた串カツを手に取り、真優は相馬の口へと運ぶ。

 なんだ、いつもと違う行動だ。機嫌が良くなって行動が変わったのか?それとも何か別の……どちらにせよ断る理由はない。


「はい、あーん」

「あーん」


 運ばれてきた串カツを口に入れる。

 出来立てと言うこともあってかアツアツの状態で口の中に熱が伝わる。


「あっつ!」

「相馬!」


 熱と共に肉汁の油が口の中に広がるせいで逃げ場がない。

 肉汁の美味さと串カツの熱が嚙み合って最高に美味しいのだが痛い。


「ごめん、大丈夫だった?」

「なんとか、でも美味しかったです」


 その日の機嫌取りデートは機嫌が良くなった真優と少し負傷した相馬で決着がついた。


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