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第6話 嫉妬


 ――屋上。


 衝撃の事実が発覚してから数時間後、今は昼休みだ。

 いつも通り、時雨と一緒に解放されている屋上でコンビニ飯を食べる予定だったのだが……。


「美味しいですね、相馬さん」

「そうですね……」


 何故か花恋さんもいる、っていうか全校生徒のほとんどがいる。全員が花恋さん目当てだ、昨日見たく教室にいれば入りずらいが今日は違う、花恋さんが移動して屋上に居るのだ。

 異世界の令嬢、、しかも美人な獣人にお近づきになりたいと考える人は当然いるだろう。僕だって何も知らなければそうしたい、だが実際にこうも距離が近いとどうすればいいのかわからない。変な汗だって出てくる。

 一挙手一動すべてが周りの視線を釘付けにする。


 時雨が気まずそうに小声で囁く。


「なあ、花恋さんって相馬の言っていたネットの友人なんだよな 距離が近くないか」

「それについては同意だ」

「それに周りの視線が凄いことになってるぞ、あとお前だけ知り合いなのずるい」


 確かにネットの友人としては距離感も近すぎるし周りの視線もすごい。

 確かに傍から見ればイベントか動物のショーみたいに見えるだろうが、当事者のこちら側からすればたまったもんじゃない。


「どうかしましたか」

「いや、ちょっと距離が近いかなって思いまして……はい」

「そうですか?いつもと変わらない気がしますが」


 ダメだこの人、ゲームの時と同じように接している……距離感がバグり散らかしてる。傍から見ればラブコメの幼馴染の距離感だ、ただのネットの友人なんだけどな。


「ほら他の皆ださんってもっとお話ししたいでしょうし、ね?」

「わ、わたしもっと花恋さんのこと知りたい!」

「あたしも異世界の事とか聞いてみたい!」

「俺も!」


 周りに集まっている生徒たちに促す、少し動揺している物もいるが全員が口々に賛成する。

 独り占めするのは良くない、皆表には出さないだけで異世界に興味はあるのだろう。漫画やアニメの様な出来事が起こっているんだ気にならない方がおかしい。


「そうですか」

「そうです」

「でしたら、また今夜お話ししましょう」


 コンコンさん……特大の話を爆発させないでください。こっちの被害は甚大(じんだい)ですよ。明日から、いやこの後とてつもないことになりそうですし。


 その場の視線が花恋さんから一瞬にしてこっちに切り替わる。え、なに、やだ怖い。ゲームでしかこんな場面見たことないよ。


「どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ それより花恋さん、花恋さんのお国ってどんな文化があるんですか!」

「文化ですか、私に国は日本の文化と――」


 花恋さんは天然なのか鈍感なのか被害を最小限に抑えてくれた。爆破したのは花恋さんだが、ひとまずこれで話題は逸れた。

 花恋さんに集まる人混みの中から真優が出てきてこちらに向かってくる。


「相馬!相馬!」

「痛いです真優さん」

「花恋さんとどういう関係なの!」

「どう、と言うのは」

「なんか、その、えっと……あ、あれ!友達とか!」

「ええ、よくわかりましたね」

「でしょー…って、ええ!合ってたの!?」

「はい、前に言っていたネットの友人が花恋さんです」

「あー昨日の!それなら早く言ってくれればよかったのにー」


 それは無理な話だ。昨日、ネットの友人が花恋さんであることを初めて知った。真優とは連絡先を交換しているが教える理由はないし確証したのも今朝の事だ。


「もしかして好きだったり」

「……どうでしょうね」

「え」


 いたずら心が芽生える。いつも揶揄ってくる真優を少し驚かせてみたい、そんな気持ちが生まれる。どれ少しからかってみるか。


「花恋さんは美しくて魅力的な人ですからね、現実でお会いしたのは初めてですがネット上でも素敵な方でしたよ もしかしたら好きになっているのかもしれませんね」

「え、あ、、え……」


 どうだ!驚いただろ!これに懲りたらしばらくは揶揄わなくなるだろう。

 毎日毎日会うたびに気さくに接してくれるのは良いことなのだが、揶揄ってくるのは少し控えてもらいたい。


「そ、そうなんだ……」

「ええ、ですからあんなに人気ですと少し妬けてしまいます」

「っ///」

「花恋さん!どこに行くんですか花恋さん!」

「おや、どうやら聞かれていたようですね。耳が良いようです」

「…………」


 こちらの会話が聞こえていたのか花恋さんは頬を赤く染め、中へと戻ってしまう。それに続くようにほとんどの生徒が追いかけて行く。

 そして何故か真優は俯き黙りこくってしまう。どうした?体調でも悪いのか。


「真優さん?」

「相馬、、、」

「なんだ」

「お前も乙女心を理解しないとな」

「は?」

「…………」

「とりあえず何とかした方がいいぞ」

「何とかって、なにかしたのか僕」


 言っている意味はわからないが何かやらかしたらしい。

 これは怒っているのか、怒ってらっしゃるのか!だとすれば不味い、機嫌を治す方法を考えないと気まずさを極めることになるぞ!。


「すみません先程のは嘘です。花恋さんは魅力的で素敵な女性ですがそういう目では見ていません。あくまで一友人としてしか見ていません。 なので揶揄ってしまい申し訳ございませんでした!」

「…………」

「あ、あちゃ~こりゃ不味いな」


 頭を下げる。とりあえず揶揄っていた事を謝罪したのだが機嫌が治る気配が感じられない、それどころか顔色一つうかがえない。時雨は時雨で諦めて飯を食い始めたしどうすれば……。


「………ト」

「はい?」

「デートしてくれたら許す……」

「デート……ですか」

「明日してくれたら許す」


 機嫌が悪いのか揶揄っているのかはわからない、だが立場や状況を(かんが)みるとこの提案は素直に受け取っておいた方がいいだろう。


「でしたら喜んでお受けします!」


 どうやらこれで手を打ってくれたらしい。

 よかったと内心安堵した瞬間真優の顔が一瞬見える。その顔は怒りではなくいつもの揶揄っている顔でにやけていた。


「ぷ、ぷぷぷ、アッハハハ!相馬ったらマジで焦っててホント、フフフ」

「…………」

「アタシがこんなことで起こると思った?残念でしたー」


 大笑いしながら揶揄ってくる。やばい、キレそう。

 さっきまで焦っていたのがバカらしくなってくる。一発くらいブン殴ってもいいかな。


「……性格が悪いですね真優さんは」

「相馬だって中々だと思うけどなー」

「僕のはいつも揶揄ってくる真優さんのをまねしただけです」

「アタシのはそんなにひどくありませーん」

「真優さんはそうかもしれませんが僕はそうではありません」

「むぅ…そう言われると悪い気がして来た、ごめんなさい」

「構いませんよ、その代わり今度からは僕も揶揄いますから」

「アタシを揶揄えるかな~?」

「さっきまで拗ねてた人が何言ってるんですか」

「なんだとー!」


 くだらない会話だ。こうして今日も学校生活は1日を過ぎて行く。こういう日常も悪くない、いつもの日常に少しの特別な幻想的な日常も。



――――



 ログインしてキングバット城の最下層にスポーンする。前回もここにスポーンしたのだが花恋さん……モフモフさんが驚いてログアウトしたため僕もここでログアウトしたのだ。

 目の前にプレイヤーがログインする。


「あ」

「学校ぶりですね、モフモフさん」


 モフモフさんはなぜか少し慌てているように見える。

 きっとリアルで出会うとは思っていなかったと言うのと本物の自分を知られたと言うので恥ずかしいのだろう。


「シロシロさん、あの、えっと、そのですね……」

「モフモフさん、こちらからお話ししてもいいですか」

「あっ、はい!」

「実はですね昨日幼馴染の時雨がラブレターをもらっていてですね、告白されてたんですよ」

「時雨さんはモテるんですか」

「あいつ顔は可愛いのでモテるんですよ。それでですねその告白を振ってしまって、これで――」

「フフフ」


 モフモフさんは楽しそうだ。だがどうしてか頬が少し赤く染まっているように見えた。


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