第4話 ゲームで!!
投稿スペースは遅い方だと思ってください。
教室全体がざわつく。当然だ、いくら異世界の事に興味がなくとも教養があればドラシー条約のことくらい知っているからだ。
ドラシー条約。異世界との問題を起こさないたまに世界中で異世界との間に取り決められた条約だ。
ドラシー条約第3条、異世界との交流。その中には互いの世界に行き来する場合、その世界側と異世界側との両方からの許可と絶対とも言える安全の確保が必要だからだ。
これは、複数の国家が入り乱れる両世界にとって難しい問題の一つだ。異世界が繋がっている場所はどの国の領土でもない、これを理由に過去一度だけ強行突破しようと試みた国家がいたが全世界からの制裁に加え、異世界側との緊張を高めた責任として没落し、条約がさらに厳しくなった。
だが、今ここに異世界人がいる。その事実に全員が動揺しているのだ。
(ま、まさかモフモフさん!?)
内心かなり動揺している。
昨日こっちの学校に転校してくるとは聞いていたが、まさかこの学校だとは……いや待て。
(もしかして、似ているだけの他人と言う可能性もある)
雰囲気こそ似ているが、ゲームとは違い人の見た目をしている。
「花恋さんの席はあそこの開いてるところです」
(な、なんだと)
先生の指さす先は窓際の後ろから2番目の席、つまり目の前の席だ。
これは非常にまずい。
なにがまずいかと言うと転校生の席が近いと言うことは、休み時間は辺り一帯クラスメイト達で占拠されると言う事だ。
そんな事態になれば移動教室はもちろん、休み時間にトイレに行けなくなる可能性だってある。
(さ、最悪だ。休み時間の間、転校生の質問でここら一体が混雑するぞ!)
それに加えて相手は異世界から来たとなれば、今日……いやここ1週間は休み時間が潰れるかもしれない。
下手をすれば学校中の生徒たちが集まってくる可能性だってある。
(なんとか、休み時間の間だけ席を外さねば)
「おはようございます」
「お、おはようございます……」
「……」
前に来た花恋さんが挨拶をし席に着く。
見た目や雰囲気だけ見ればモフモフさんだ、昨日の話からしてこっちの世界に来ているのは間違いない。確証を得られない、今夜ゲームであったら聞いてみよう。
――昼休み。屋上。
コンビニで袋を持ち時雨と共に屋上で昼食をとる。これが日常だ。
「なあ相馬、異世界から転校生が来たってマジなのか?」
「ああ、マジだ」
「どんな見た目だったんだ」
「獣人だったよ、狐の」
「狐の獣人か……ケモ耳少女、いいな!」
「可愛かった……と言うより、綺麗だったぞ」
「じゃあ、帰りに相馬の教室によるわ」
「それじゃいつも通りだろ」
ハハハッと時雨は嬉しそうに笑う。
内心かなり嬉しいだろうに、前にも言ったが時雨はモテる。だが誰も攻略できていない、その最大の原因は”興味が無い”ことだ。
時雨は重度のオタクでかなりこじれている。見た目でカバーされているが中身は変態に近い、フィギュアのパンツを1時間眺めていたのを見た時は引いたものだ。
かく言え僕も異世界の事となるとそれなりの知識を持っている。時雨と仲良くなれたのも似た者同士と言うのかな。お互い好きなものが似ているのだ、幻想と言う夢の世界が。
「てか、教室ヤバくなかったか。俺の所の教室まで人混みができてたぞ」
「それに関しては同意見だ。おかげで昼休み以外、全部教室で待機する羽目になった」
予想通り休み時間になると学校中の生徒が一目見ようと廊下に集まり、教室にいる皆が花恋さんに質問攻めをしていた。
真優や里奈さん含めた一軍女子たちのおかげでまとまりがついているが、それでも学校中の注目は変わらない。
「あの様子だと、1か月はあのままだろうな」
「昼休み以外にトイレは行けそうにないな それで、相馬は話したのか?」
「花恋さんとか」
「花恋さんっていうのか」
「話してねえよ、てか話せねえ。目の前の席だが人が集まりすぎて見えない」
「目の前なのにか!」
席が近いからと言って動けるかと言われれば違う。皆が聞きたいことがあるのもあって、集まるせいで壁の様になってしまうのだ。
「だから今度――」
「――いたよー」
屋上の扉が勢いよく開き、真優が入ってくる。
「どうしたのですか、真優さん」
「ねえ、敬語やめてって言ったじゃん」
「相変わらず仲がいいな」
「そうですか?」
「そうですかじゃない、あと今日は時雨くんに用事があって来たの」
「俺に?」
「そう、昼休みになっても来ないからって」
時雨はキョトンとした顔をする。どうやら心当たりがないらしい。
よく見ると真優の後ろにはもう一人誰かいる、その状況から察するに今朝のラブレターの送り主だろう。
「あー、手紙の送り主じゃないか?」
「手紙……ああ、下駄箱の」
「下駄箱かどうかは知らないけど、この子から話があるって」
「……」
真白の後ろから出てきたのは暗い雰囲気の大人しそうな女子生徒だ。靴の色からして1年生だろう。
その生徒は時雨の前に近づき愛の告白をする。
「あの!ボク……時雨さんのことが好きで!!」
「ごめん、興味ない」
結果はあっさり撃沈した。さすがに可愛そうだ。
時雨に近づき、小声で耳打ちをする。
「おい、もっと振り方と言う物があるだろ!」
「そんなこと言われても……俺、ギャルゲ以外恋愛ものなんてやったことないし、今までだってこうして断って来たし」
「じゃあ、その経験を活かせよ!」
「でも、その主人公だってこういう事わり方してたし」
どんなギャルゲだよ、とツッコミたくなる気持ちを抑える。
「ごめん、興味ない」が許されるのなんて相当好感度が低いかクソゲーかのどっちかだろ。
「う、う、うわーん!」
「あ、ちょっと!」
女子生徒はそのまま走り出してしまった。
こうして一日が終わり、時雨の二つ名である『二次元王子』は1年生の間で広まったのであった。
――――
帰宅してすぐにゲームにログインすると既にモフモフさんがログインしていた。
「こんばんは、皆さん」
「こんばんは、シロシロさん」
モフモフさんに挨拶する。
やはり花恋さんに似ている、見た目は全身がモフモフの女性アバターだが人間要素を組み合わせると花恋さんにしか見えない。
(確かめるんだ、モフモフさんが花恋さんなのか……!)
「あの、モフモフさん」
「はい」
「昨日言っていた、こっちの世界に転校した話なんですけど どんな感じの学校でしたか」
「とても楽しい所でした!皆さんとても良いかたで、色々な事を教えてくれるんのですよ」
「それは良かったです」
「それで、同じクラスの――」
モフモフさんは楽しそうに話す。どれもこれも確信をつけるものではないが楽しそうに話すモフモフさんを見ていると考えが少しずつ変わる。
(詮索するのはよそう、僕たちはネット上での友人だ 私生活にまで踏み込むのは失礼か……)
いくら似ているからと言って私生活の事まで聞くのは間違っている。
そう感じてしまうほど、楽しそうに話すモフモフさんに申し訳なくなる。
「それでですね、同じクラスの真優さんがですね」
「はは、、、は?」
「どうかしましたか?」
今、真優って言った?この人。
真優と言うのは全国で見ても珍しい名前だ、もしかしなくとも僕の知っている多喜川 真優のことなのか?そうなると……。
「モフモフさん。もしかしてですけど、転校した学校って星丸学園っていうところですか」
「わっ!どうして、わかったんですか!」
「えっと……後ろの席にいるのが、たぶん僕です」
「え」
先程まで楽しそうだったモフモフさんが固まる。
ついさっき詮索するのはやめようと決意したのに確信を突かれると聞いてしまう。人と言う物は実に愚かなのかもしれにない。
「もしかして、今日あいさつした人ですか」
「……はい」
「……」
呆然とする。
「――ログアウトしました――」
「あっ、え……」
シロシロさんは返事もせずにログアウトしてしまった。
やはり私生活について聞くべきではなかったか、明日からどうしよう……。