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第3話 転校生


「行ってきます」


 朝。カバンを肩にかけ家を出る。

 自転車通学や車、電車などの乗り物での通学が多い中徒歩で学校へ向かう。家から学校までは30分ほどの距離だ、これなら自転車に乗れば早いのだが歩くのには理由がある。


「よっ!」


 少し歩くとコンビニが見えてくる。そこには金髪ハーフの男子生徒園崎 時雨(そのざき しぐれ)がいる。

 徒歩の通学の理由はこれだ、幼少期からの幼馴染である時雨と一緒に登校するためだ。


「今日は早いな」

「いつも遅れたらさすがに悪いと思ってな」

「そう思うなら早く来てくれ」


 時雨は毎回10分遅れてくるのだ。それがわかっているので毎日コンビニでお昼を買うのだが今回は失敗だった。


「あれ?学校はこっちだよ」

「昼飯の買い物」

「じゃあ俺もついてく!」


 コンビニでおにぎり3つとパン2つを買う。

 いつもより少し多い。普段はおにぎり2つとパン1つで足りるのだが、何故か多く買いすぎてしまった。


「相馬、今日はなんだか気分がよさそうだね」

「そうか?」

「いつもならもう少し少なく買うのに、今日は多く買ってるからさ」


 気分がいい。確かにそうなのかもしれない、多く買いすぎたのも気分がいいことが原因だと考えると納得がいく。思い当たる節もあるしな。


「そうかもな」

「で、で、なにがあった」

「言わねえよ」

「え~」


 つまらなそうな顔をする。長い付き合いだからか、こんなに腹を割って話せるのはこいつだけかもしれない。



 学校に着き、校門前で挨拶運動をしている生徒会長に挨拶する。


「「おはようございます」」

「おはよう!」


 学生服を着たガタイのいいキリっとした人だ。このご時世に校門前で挨拶運動とは……しかも日本有数の金持ち学園でだ、生徒会長と言うのも大変そうだ。


 学校玄関に行き、下駄箱を開き靴をしまう。


「どうした、時雨?」

「あれ?なんか入ってる」


 下駄箱の中から出てきたのは白に植物の模様をした手紙だ。


「手紙?」


 状況から察するにラブレターだろう。

 時雨は言動や性別こそ男だが見た目は完全に女の子だ、それもあってか男女問わず人気者だ。今回はどっちかな。


「えーと、園崎くんへ――」

「ストーップ それ多分ラブレターだから他人に見えないようにな」

「ごめんごめん つい」


 さすがにラブレターを読み上げるのはまずい、勇気を出して書いた本人に悪すぎる。


「それは休み時間あたりに読んだ方がいい」

「そうするよ」


 カバンに手紙をしまい教室へと向かう。

 時雨はモテるが鈍感……と言うより乙女心や恋愛心そのものをわかっていない節がある。ラブレターを受け取っても何故好きになられたのかがわかっていない。

 だから全員振られている。僕だったら返事を返すのに数日は掛かるのを時雨は数秒で決める、その能天気さはある意味尊敬の域に達している。


「じゃあ相馬、また休み時間な」


 時雨と別々の教室に入る。

 去年までは同じクラスだったのだが、今年は違った。


「……」


 特に挨拶もなく教室に入り、自分の席に着く。

 中高一貫の学校だが元々人見知りな性格もあり、あまり話したことのない相手には話しかけられない。

 こうして、いつも通りの日常が始まる。


「おっはよう!相馬!」

「いっ!……おはようございます、真優さん」

「ねえ!また敬語!」

「何か問題でも?」

「アタシ、それ嫌って昨日も言ったよね!」

「言いましたね」

「もー!!」


 ドンドンと机を激しく叩く。これは彼女なりの必死の訴えだろう、だが机を叩くのはやめてほしい。机の中身が出てきそうだ。


「真優さん、机の中に入っている道具が出てくるのでやめてください」

「う~」

「うなだれないでください」


 真優はしゃがみ込んでうなだれる。

 ハッキリ言って邪魔だが原因は自分なので何も言えない。そんなことを思っていると真優はいきなり立ち上がりこちらに話題を振る。


「あっ!そう言えば今日転校生が来るの知ってた?」

「転校生ですか?」

「そう、なんかすごい所からくるんだって」

(転校生……いや、流石にないか)


 昨日のモフモフさんの会話が頭をよぎるが、そんな都合のいい展開があるはずない。


「だから、今日のホームルームは早いらしいんだよね」

「そうですか」

「?どうしたの、なんかちょっと嬉しそうだけど」

「そう見えましたか」

「うん」

「昨日、ネットの友人が転校すると言っていたのでもしかしたらと思ったのですが……そんな都合のいいこと起きるはずありませんね」

「お!もしかして女の子だったり」


 ニヤニヤと笑い、揶揄(からか)う様に言う。

 そう言えば、モフモフさんの性別は聞いていない。基本敬語での会話しかしていないため言動から推測することも出来ない。


「さあ、性別までは知りませんよ」

「そ、そっか、女の子だってわかったら揶揄おうと思ったのに」


 言葉では強がっているが、声色から安堵しているのはわかる。と言うか一瞬ホッとした表情をしていたのも見えていた。


(こいつ何で安堵してんだ?)


 まさかとは思うが、友人の少ない僕に交友関係が増えたことに安堵したのか?確かに基本は敬語で話しているが、それは人見知りだからであって時雨くらい仲がいいとため口だぞ。


「はーい、皆席について 今からホームルームを始めますよ」


 教室のドアが開き担任の先生が入ってくる。

 真優も席に着き、待機する。既に転校生が来ることを知っているからか、皆集中して話を聞く。


「いきなりですが、転校生を紹介します 入ってきていいですよ」

「失礼します」


 教室のドアが開き廊下から姿を見せる。


「っ!!」


 その姿に教室全体がざわつく。無理もない僕自身も驚かされている。

 黒い髪色にすらっとした高身長。妖艶な雰囲気に学生とは思えないほどの発育の良さ、そして何よりも目立つケモ耳と大きな尻尾。まるで創作物から飛び出したような見た目に全員が動揺していた。


「それじゃあ、自己紹介を」

「はい」


 教室に入り、全員の注目を浴びる狐の少女は自己紹介をする。


御孤々尾天 花恋(ごここびあま かれん)と申します」


 その姿は昨日アナザー・ワールドであった友人、モフモフさんその人だった。


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