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第2話 異世界の話


 ――グランドクローバー――


 グランドクローバー。数ある娯楽施設の内の一つだ。ある複合型娯楽施設だ。

 ここは賭博から宿泊施設、さらには経験値ダンジョンまでもが付いているアナザー・ワールド史上最大の複合型娯楽施設だ。

 その中の一つオークション会場にスポーンする。


「グランドクローバー?」


 モフモフさんはキョトンとする。

 クエストと聞いて戦闘に向かうものだと思ったらオークションに連れてこられてきたのだ当然の反応だ。


「欲しい物ってオークションで出品される物なんですか?」

「そうです、ただこのオークションでしか出ない上に極まれにしか出てこないので それまでは基本暇です」


 そう、今回のお目当てはオークションと言う形でしか手に入らないレアアイテムだ。

 低確率でドロップするとは言ったがあれは出品されると言う意味だ。倒したら出てくると言う意味ではない。マルチ報酬と言うのは仲間には落札したものが別で同じものが貰えると言う意味だ。


「ちなみに、出ない場合もあるんですか」

「あります」


 既に12個持っているが、それまでに30回以上はオークションに出向いている。

 事前に説明しなかったモフモフさんには申し訳ないが一緒に粘ってもらおう。


「その欲しい物って言うのはどんなアイテムですか?」

「『王の盃』って言うトロフィーの形をしたコップです ギルドのイメージにぴったりかなと思いまして」

「なら、全員分欲しいですね!今は何個、持っているんです?」

「今は12個で、今回出品した場合2個手に入ります」


 今回一人でクエストを受け1つ手に入ったら、次回からは1人で行こうと思っていたがモフモフさんが付き合ってくれたおかげで、その可能性は低くなった。


 明るかった会場の照明が消え、目の前の舞台に司会者が現れる。


「――皆さま、大変お待たせしました これより!オークションを開始いたします!」


 会場が一斉に沸き立つ。ここに居るのは大半がCPUだ、それ故いつもこの盛り上がりが継続されている。

 何回来ても慣れないものだ。


「では、1つ目の商品は――」


 司会者が解説と共にスタッフが商品を次々に運んでいくが、王の盃はレアアイテムだそう簡単に出る物じゃない。


「暇ですね~」

「ですね」

「そう言えば、シロシロさんって私と同じ高校生でしたよね」

「そうですよ」

「ここ最近なにか楽しいこととかありました?」

「楽しいことですか」


 ここ最近はずっとテスト勉強をしていたせいか楽しいことは特になかった。


「特にはないですね。いつも通り友達と喋って授業を受けて帰ってくるだけですね」

「いつも通りですか」

「ただ……」


 いつも通りの日常の中、今日は特に考えていた事がある。


「異世界って楽しそうだな……とは思いましたね」


 いつもはあまり気にしない様にしているのだが、今日は何故か気になった。異世界のことを考えるだけで悲しくなるくらいには気になった。

 モフモフさんは少し驚いた顔をしてこちらを見ている。


「モフモフさん、僕の顔に何かついてましたか?」

「いや、少し意外だなーって」


 モフモフさんは困った様に頬に指をあてる。


「私、異世界出身で異世界の高校に行ってるんですけど、そっちの世界の方が楽しそうだなーって思いますね」

「……え」


 不意に発せられたその言葉に衝撃を受ける。

 異世界……出身!?ってことはモフモフさんって、人間じゃなかったりする?どちらにしろ異世界の事が聞きたい。


「あの!」

「わっ!いきなりなんですか」


 興奮のあまり大声を出してしまう。

 仕方がないだろ?だって目の前に憧れていた異世界で暮らしている人がいるんだから。


「異世界ってどんな事があるんですか」

「どんな事、と言うのは?」

「例えば魔法が使えるとか!アナザー・ワールドみたいな亜人がいるとか!」

「あー、亜人種とか異業種とかは普通にいますね、魔法が使える人もたまにいます」


 夢みたいだ。今、僕の目の前には幻想的な話がある。

 異世界と繋がったあの日から心の底で思っていた変わらない日常、つまんない日々。それらとは違う求めていた幻想的な話が今、当事者から聞けているのだ。


「他にはどんな事がありますか!」

「他には……魔道具とか色々ありますけど まあ、大体アナザー・ワールドみたいな感じですね」


 異世界に夢見て始めたアナザー・ワールドだが、まさか異世界人にも遊ばれていて似た様な世界観だったとは。

 憧れの世界の話に興味が止まらない。今のうちに聞けることは聞いておこう。


「通貨とかってどんな感じですか!やっぱり金貨とかが主流なんですか!」


 異世界の情報はある程度世間に知られているが、通貨など政治に関与する話は一部以外興味を持っていない。ドラシー条約よりも幻想的な話の方が面白からだ、それ故に政治の話はあまり注目されない。現代娯楽の弊害でもある。

 僕も例外ではない。


「そうですね、私の国も金貨とか銀貨が主流ですね 紙ですとエルフなんかがボロボロのを出してくるので」


 金貨。電子決済が主流のこっちの世界では行事ごと等の特別な理由が無ければめったに作られない。だが異世界では主流と聞いていたが本当だったとは…。


「今度、お会いできる機会があれば見せていただくことってできますか!」

「ええ、構いませんよ。その代わりそちらの世界の通貨も見せてください」

「わかりました、日本ので良ければ」


 なんたる幸運だろう。ネットで調べたりすれば見ることは可能だが実物を見れるのは博物館以外ではない、しかも触れるのだから博物館より価値がある。


「それと言い忘れていましたがサキュバスなどの魔族もいますね」

(な、なんだと)


 あまりの衝撃に意識がすべて持っていかれる。


(さ、サキュバスって……あの、エ〇同人に出てくる、あのサキュバスか!)


 サキュバス、創作物ではR18なことが主食な魔族として書かれている存在だ。そのせいか見た目もかなり際どい姿で描かれることが多い。

 もし現実にそんな者がいれば大変な事になる。


(どんな見た目か知らないが、もし僕の想像通りなら歩く公然わいせつ罪みたいな姿だぞ!)

「あ、でも安心してくださいサキュバスも服は着ています 小説に出てくるような見た目ではありません」

「そ、そうですか ならよかった」


 ホッと息を吐く。流石に想像通りの見た目だったら男女関係なく釘付けになるだろう、それに魔族と言う種族を以前調べた時は全員が魔法と特殊な力を持っている出てきた、それが本当なら今頃世界はどうなっていたのやら。


 そうなるとなぜ創作では際どい見た目なのかが気になる。やはりエッチな事が主食だからなのか、それとも……


(サキュバスってどんな見た目なんだ)

「今、エッチな事を考えましたね」


 不意に耳元で囁かれる。

 驚いて隣を見るとモフモフさんがこっちを見つめて腕に抱き着いている。


「え!あの!その……はい」

「いいんですよ 私、シロシロさんとなら――」


 そう言ってモフモフさんは顔を近づけてくる。普段はネットの友人程度にしか思っていなかったのだが話題のせいか目の前には一個人の女性にしか見えない。


 アバターの見た目も相まって色気が凄い、興奮で胸の鼓動が速くなるのがわかる。

 まずい、このペースに飲み込まれたら……。


「――なーんて、冗談ですよ。フフフ」

「は、はは、心臓に悪い冗談ですよ……」


 本当に心臓に悪い、いきなり至近距離で誘惑されれば誰だってドキドキする。アバターの顔が人間よりの美人なのもあって余計興奮する。

 もしこれが異業種などの人間から離れた種族だったら別の意味でドキドキしただろう。


「それよりいいんですか?」

「なにがですか」

「『王の盃』今、出品されてますよ」


 オークションを見ると『王の盃』が出品されている。現在の落札価格は18万ゴールド、残り時間30秒。

 手元の台にある液晶画面に数字を入れる。

 

「20万ゴールド!」


 急いで、落札価格を引き上げる。このオークションは落札価格が20万ゴールドに到達すれば即落札なのだ。


「おめでとうございます!『王の盃』をみごと落札したのは17番様です!」


 会場は拍手喝采に包まれる。このクエストでは何かを落札するたびにNPCが演出をするのだ。


「あ、危なかった」


 あやゆく目当ての商品を逃すところだった、さすがにもう一度モフモフさんを誘って2回目のオークションに参加できない。


「よかったですね これで全員分そろいましたね」

「ええ クリア条件である商品の落札も終わりましたし拠点に戻りましょうか」


 ――キングバット城・地下9階――


 財宝が飾られている数々の部屋を渡り、食器が並べられている場所に『王の盃』を2つ収める。これで14個ギルドメンバー全ての数が揃った。


「これで全部揃いましたね」

「ええ モフモフさんがいてくれたおかげで早く済みました」

「私は前回のお礼をしただけですので」


 本人はこう言っているが本当に感謝している。1人だと虚無の時間だったが今日は楽しかった、それに異世界の話を聞けて少し人生が色づいて見えた様な気がした。


(もし、異世界の話が嘘でも今日は楽しかった)

「じゃあ私はそろそろログアウトしますね」

「はい、それでは また今度、異世界の話を聞かせてください」


 そう言って見送ろうとしたがモフモフさんは「あっ」と何かを思い出し振り向く。


「実は私、明日そっちの世界に転校するんですよね。だから、もし同じ学校でしたら仲良くしてくださいね」

「もちろんですよ」

「それじゃあ、また明日」


 ニコッと少女の様な笑顔を見せ手を振る、その姿はアバターの大人っぽさからは想像できない河くぃさだった。

 モフモフさんはログアウトする。


「また明日」


 メニュー画面を開きログアウトをタップする。


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