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第1話 変わらない日常


 5年前。太平洋沖に突如として出現した謎の穴、異世界の扉(ワールドゲート)の出現するゲート事変が起き、現代と異世界が繋がった。


 当時は前代未聞の出来事として様々な都市伝説などが取り上げられ世界中で話題になっていた。


 だが、都市伝説の様に侵略など起こるはずもなく、世界中で異世界側との友好関係の構築や条約などの締結により大事には至らなかった。今では少し変な日常の一部として機能している。


 互いに干渉する場合は国家と言う組織を通してのやり取りが基本な為、今のところ犯罪などの問題は起きていない。


 これは、治安や法等の問題がある為、国家を通さざる負えない。もし、それらを無視して拉致や拘束などすれば国際の域を超え世界問題になる。そうすると何が起こるのかわからないため、ドラシー条約と呼ばれる条約が結ばれている。

 名前の由来は異世界の大連合国家ドラシー連合国から来ている。


 まあ、そんなこんなで色々あったが特にこれと言った変化はない。

 異世界との干渉と言う、創作にありそうな展開になって何か特別な力や変化が起こるのではと期待していたが、現実問題そんなことは起きない。

 もし、そんなことがあれば世界中が混沌の渦に巻き込まれていただろう。

 第一そんな事が起きても自分が望んだようになれるとは限らない、それに世界中にある国家と言う組織はそれを許さないだろう。


 だから、こうして何も変わらない日常を過ごしている。平凡で創作のようなことはない、変わらない毎日を過ごしている。


「おっはよう!相馬!」


 教室の窓側で外の景色を眺めながら退屈していると、背後から思いっきり背中を叩かれる。

 あまりの痛さに顔でも拝んでやろうと振り返る、そこにいたのは隣の席の女友達多喜川 真優(たきがわ まひろ)が笑顔で挨拶していた。


「いってー、おはようございます。真優さん」

「ねぇ~、敬語やめてって前に言ったじゃん!」

「僕は誰に対しても敬語ですが?」

「アタシはそれ嫌なの!」


 プンプンッ!と言った感じに頬を膨らませ拗ねる。

 その姿はとても可愛いのだが、背中を思いっきり叩かれたせいで帳消しにされている。


「すみません、以後なるべく気を付けます」

「そうじゃないー!むしろさっきより他人行儀になったよ!!」

「いえ、ワタクシは普段よりこのような対応させていただいております」

「…………怒るよ?」

「ごめんなさい」


 少しからかってやろうかと思ったがそうはいかなかった、どうやら向こうの堪忍袋の緒が切れそうなようだ。

 前に同じことをしたときは「そんなわけあるか、バーカ!」と思っていたが、機嫌が直るまでの一週間ずっと同じ質問をされて同じ回答をされたときは流石に心配した。

 あれは、本当に怖かった違う反応や答えをしても同じことを繰り返す様は怖かった。


「それで、なに考えてたの?」

「不思議だなーって考えてた異世界の扉(ワールドゲート)が出現してもう5年になるのに世界は何事もなかったかのように過ぎて行く、そう考えてた」

「もうそんなに経ったんだっけ。ホントあの時は怖かったなーいきなり世界が変わっちゃってさ、うちの家族も大騒ぎでこっちに引っ越してきたし」


 真優はしみじみと昔を思い出す。


 ここ、星丸学園は日本有数のお金持ちが通う学校であり、中高一貫のエスカレータ式になっている。

 5年前の異世界と現代が繋がるゲート事変が起きた時、父親が国会議員の真優は仕事の為、地元を離れこっちに引っ越してきた。

 転校してきてからは慣れない生活に悩んでいたらしいが今ではそんな素振りすら見えないくらい元気に過ごしている。


「あの頃は大変だったな、相馬が声を掛けてくれなかったらアタシ独りぼっちだったし……」

「知りませんね」

「ねー、また敬語使ってる」


 真優は不貞腐れるが本当に知らない。

 5年前、通っていた小学校に転校してきたのは知っている。だが、初めて喋ったのは高校生になってからだ、それまでは顔すら合わせたことが無い。

 言えないが、向こうの接し方との距離感がわからないせいで少し苦手意識を持っている。


「ていうか 本当に覚えてないの?」

「本当だよ」

「あの時――」

「おっはよう!まーひーろ!」


 真優が何か言いかけた時、突然背後から誰かが抱き着いた。


里奈(りな)!」

「ねえねえ、私とも話そうよー」


 東浦 里奈(ひがしうら りな)いつも明るく元気な性格でクラスの一軍に分類される陽キャだ。両親はブランド会社を経営しており、業界では大手と呼ばれている。

 当然そんな彼女に声を掛けられる真優も一軍に分類される陽キャである。


「えー、もー それじゃあ相馬、また後でね」


 そう言って真優は手を振って女子グループの輪に入る。

 去っていく後ろ姿に手を振り返す、そうして少しの間一人の時間が続く。平凡だ。

 もう少しすると別の友人が来てホームルームまでダラダラと話し、いつも通りの日々が過ぎて行く。こうして一日が終わり明日からまた似たような日々が続く。



「つまんねえな」


 学校が終わり家に帰る、自室のベットに寝っ転がり満足のいかない現実に小さく呟く。

 傍から見れば裕福な家庭で育って何が不満なんだと怒られそうな状況だ、確かに親は世界有数の大企業の経営をしていて何不自由なく過ごしてきた。


 でもアニメや漫画、小説と言った創作物にある特別なものに憧れているんだ。誰だって夢や憧れは止められない。それと同じで僕も夢が見たい、アニメの主人公みたいに特別な力や自分の信じる行動で認められ誰かを救いたい、そんな憧れが止められないんだ。


 スマホを取り出し、ネットに転がっているお気に入りアニメのカッコイ切り抜きを見る。


「カッコいいな……」


 そのアニメは主人公が異世界に転移して不安定だった世界を救うと言う物だった。それを見ているとなんだか悲しくなっていく、目の前に映る幻想的なカッコよさと似たような状況なのに現実では何も起こらなかった。


 ――ピコンッ!。悲しみに飲まれそうになっているとスマホに一つの通知が入る。通知を見てみるとアプリのサーバーチャットのアイコンからだ、チャットを開くと一件メッセージが来ていた。


「『シロシロさん、もしかして今日はお休みですか?』……あ」


 時刻は17:10、約束の時間から10分過ぎている。


(すっかり忘れていた)


 今日はVRゲームで遊ぶ予定だった。去年発売された最新型のフルダイブVRゲーム『アナザー・ワールド』シロシロと言うのはゲームで使用しているニックネームだ、本名の明城 相馬(あけしろ そうま)から取っている。


 1週間前までは毎日の様にログインしていたがテスト期間だった為、しばらく起動していなかった。


「よいしょっと」


 部屋の角に置かれている大きな球型ポッドの中に入る。これが新感覚フルダイブ型機器『イオーン』だ、内装されているクッションに沈み中にあるヘッドギアを被ってポッドを閉じることで起動する。


「っと、ゲームは……あったあった ログインっと」


 フルダイブすると自動的にホーム画面が展開される。その中からフルダイブ型仮想世界(VIRTUAL)RPG『アナザー・ワールド』を見つけ出しゲームにアクセスする。


――――


 豪華に彩られた一室にスポーンする。

 場所はキングバット城、ダサい名前と言われるかもしれないから先に言っておくが由来はさっき見ていたアニメから来ている。

 外観や内装も全く同じものにしている、長い時間をかけたが同じアニメが好きなギルド仲間と共に作ったものだ。地上5階建て、地下9階の『アナザー・ワールド』史上最大の城だ。大きすぎて山林地帯にしか建てられなかった。


「お、来た来た」

「ごめんごめん、遅れた」 


 ダラモンダさんが挨拶する。

 アバターは亜人種である魚人族だ、外見はタコの様な姿で複数の触手とトーガを身にまとっている。


 こっちのアバターも亜人種である吸血鬼だ、人の形ではあるものの顔は角の生えた鬼の顔に黒い羽と尻尾、黒い鎧の姿だ。

 吸血鬼だと言わなければ悪魔と間違えるような見た目だ。


「それじゃあクエストに行こうか」

「あ、ダラモンダさん今日はどのくらい遊べますか?もしよかったら周回を手伝ってほしいんですけど……」


 このゲームは一種のオンラインRPGだ、プレイヤー数も多く毎月イベントやギルドランキングを競い合っている。今回受けるクエストは最低2人以上、最大6人で受けられるマルチクエストだ。


 ギルド『異形妖魔群(いぎょうようまぐん)』に在籍しているメンバーは全員で14名いる。

 キングバット城が全14階なのは14名全員で管理するためだ、そのため本来の5階層に加え地下に9階層増築している。

 今日は皆忙しいのかログインしているのは僕とダラモンダさんだけだ。


「今日は18:00までだな、明日は朝早くに出ないといけないから ごめんな」

「いえいえ、こっちこそ急に言って申し訳ないです それじゃクエストに行きましょう」


 そうして、クエストに向かう。今回の内容は拝殿の亡霊『ヴォルス大王』の討伐、今やっているイベントクエストのボス戦だ。

 既に一度討伐しているがこのボス戦はかなり苦戦する。過去に行われた同イベントでは最高スコアを出したが、終了10分前に記録を上書きされ結果は2位それが悔しいのか復刻した今のイベントでその記録を書き換えたいらしい。

 ハッキリ言って無駄だとは思うが、まあ気が済むならそれでいいか――。


 17:55、クエストが終わり戻ってくる。結果は――。


 ――記録更新ならず。はじめっからわかっていた事だが勝てただけ良しとしよう。


「あー!もうっ!強すぎるんだよアイツ!!なんだよ、一撃でHPの9割持ってく全体攻撃って!!」

「まあまあ、勝てただけでもよかったじゃないですか 今度は6人で行きましょう、そうすればまた最高記録を叩き出せますよ」


 正直言ってその気持ちもわかる。このボス戦は『アナザー・ワールド』きっての最高難易度であり、一部のマニアからクソゲーの称号が与えられるほどの鬼畜使用だ。

 それに加えて運営からの優しさなのか攻略法が出されたが、最強の一撃『大王の慟哭』が来るまでのタイムアタック式のやり方しか書かれておらず炎上した。

 今回は調整が入ったのか前回よりは勝ちやすくなった。


「ぐぅ~っ!」

「それに大丈夫なんですか?明日早いんですよね いま18:00ですよ」

「そうだった!」


 悔しそうな顔をしていたダラモンダさんだったが、時間を聞いてすぐに切り替える。社会人と言うのは想像よりも大変そうだ。


「それじゃシロシロさん、また明日会いましょう!」

「ええ、また明日」


 ダラモンダさんのログアウトを見送る。


「それじゃ、一人で周回に行くか……ん?」


 一人残った拠点の中で周回に行こうとメニュー画面を開く。

 すると、フレンド欄に赤い印が付いている。これは現在フレンドがログインしている状況を示すのものだ、フレンドはギルドメンバーしかいないので誰かが拠点のどこかにスポーンしたと言う事だ。


「誰だろう えっと、モフモフさんか」


 フレンド欄を確認するとモフモフと言う名前に赤い印が付いている。

 モフモフさんとはネットで知り合った友人だ、出会って半年しか経っていないがお互い年齢が近いのもあってか仲良くなるのに時間は掛からなかった。


(挨拶ついでに周回も誘ってみようかな)


 拠点マップを見ると場所は地下9階、ここ地上5階からだと一番遠い最下層に位置している。

 モフモフさんとは先月のイベント周回以来だ。


 マップ移動を使い、最下層に転移する。

 そこには獣人族の女性アバターがいる。モデルは狐、黒い毛色にアイシャドーをした妖艶な雰囲気を漂わせるスーツを着た巨乳の九尾だ。


「お久しぶりです、モフモフさん。またイベントアイテムの周回ですか」

「あ、シロシロさんお久しぶりです。そうなんですよ昨日やっと終わりまして」


 最下層である地下9階にはイベントで獲得した特典や限定アイテム等が管理されている。

 ここに来るのはアイテムを収めるか回収くらいだそれ以外では管理者である『アニメ大好騎士(だいすきし)』さんしかいない。

 ちなみに、キングバット城の拠点建築の提案に乗ってくれたのもアニメ大好騎士さんだ。この人がいなければキングバット城が完成しなかったと言っても過言ではない。


「お疲れ様です」

「それと、前回はありがとうございました。おかげで欲しかったものも手に入りました」

「お目当ての物が無事に手に入ってなによりです」


 先月のイベント『乙女の羽衣』では低確率でドロップする『天女の羽衣』を手に入れた。モフモフさんがどうしても欲しいと言うので、時間は掛かったが友人が喜んでいたので疲れが吹き飛んだような気がしたのを思い出す。


「お詫びと言ってはなんですが何か手伝ってほしいクエスとか欲しいアイテムはありますか?」

「それなら、イージークエストの周回を手伝っていただけませんか」

「イージークエスト?大丈夫ですけど何か欲しい物でもあるんですか?」

「低確率でドロップする小道具が欲しくて……」


 このクエストは簡単なのだが、低確率でドロップするコップがある。

 そのコップがどうしても欲しいのだ。欲しい理由は単純にキングバット城に似合いそうな黄金の盃だからだ、現在は12個持っているので残り2つギルドメンバーと同じ数だけ欲しい。

 誘ったのはマルチ報酬が加えられるからだ。


「なら今すぐ準備して行きましょう!」

「準備の方はもうできてます」

「でしたら、今!行きましょう!」


 モフモフさんが張り切っている。

 このクエストは戦闘ものではないのだが、本人がやる気に満ちているので水を差すのはやめよう。


「では、移動しましょうか」


 メニュー画面の任務一覧からマルチクエストを選択しクエストを受注する。

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