第3話
はっと目を開ける。
世界は朝の色で満たされていた。
「…………」
わたしは横向きのまま、視線だけを彷徨わせてみた。
見慣れた自分の部屋。ちゃんと現実だ。
腕が痛い、と思って、思いきり枕にしがみついていたことに気がつく。
その力をほどくと、どっと疲労感がのしかかってきた。
そろそろと身体を起こしてみる。
ベッドの上に座ったまま、袖をめくってみた。
(傷……4本ある)
少し待ってみたけれど、昨日のように消える気配はない。
『……この傷が何なのか考えてた。ひとつ減った意味も』
高月くんの言葉を思い出す。
この傷が示唆するリミットは結局、日数なのか、残機なのか。
「減ってないってことは……残機?」
そう考えて、昨晩の“最後”が蘇った。
柚とともに屋上から転落したわたしは、果てしない闇に飲み込まれた。
延々と落下し続け、気がついたら意識をなくして朝を迎えていた。
この傷が“残機”なら、わたしは昨晩、死なずに生き延びられたということなのだろうか。
だから減っていない?
ただ、仮にそうだとしても、屋上から飛び降りることそのものが悪夢を終わらせる方法にはなり得ないみたいだ。
腕の傷は残ったまま。
つまり、まだ解放されてはいない。
飛び降りることは、その日を生きて終わらせる手段に過ぎないらしい。
「みんなはどうなったんだろう……」
柚はともかく、解散して以降一度も見かけなかった高月くん、追われていた夏樹くんや朝陽くんは────。
ベッドから下りたわたしは支度を整え、慌ただしく家を出た。
◇
教室で4人と顔を合わせたけれど、みんなひどい顔色をしていた。
わたしも例外じゃない。
夢を見ている間、自分はどういう状態になっているのだろう。
目覚めるたび、眠気はないけれど、すっきり寝られた気もしない。
ただただ気が滅入っていく。
「あの……。わたし、今朝は腕の傷減らなかった」
誰も口を開こうとしない中、重たい沈黙を破るようにおずおずと言った。
「あたしも」
「……うん、俺も減ってない」
柚と朝陽くんが同調した一方で、夏樹くんは青い顔のままはっとする。
「マジで……? 俺、また減ったんだけど」
差し出された彼の腕を見ると、確かに赤い線は3本しか刻まれていなかった。
「僕もだ」
高月くんも同様だったけれど、彼はどこか淡々としている。
そのことに対してさして驚いてもおらず、ただ事実として受け止めているみたいだ。
「おまえらは昨日、生き延びたのか?」
「たぶん。柚と一緒に屋上から飛び降りて、いつの間にか朝になってた」
少なくとも“死んだ”という自覚はない。
腕を切りつけられたものの、致命傷には至っていなかった。
「屋上出られたのか!」
夏樹くんが意外そうに言うと、朝陽くんが頷く。
「あ、1階の事務室で鍵見つけたんだ。屋上開けたのは俺。追われたけど、このまま殺されるくらいなら、ってそのまま飛び降りてみた」
彼が追われていたところは確かに見た。
屋上が開いていたのも、彼の姿がなかったのも、そうやって逃げきったからだったんだ。
「……なるほどな。じゃあ推測は正しかったわけだ」
高月くんが納得したように数度頷いて続ける。
「僕は殺された。乾もそうなんだろ?」
「あ、ああ……」
夏樹くんは答えた。
そのときのことを思い出したのか、うつむきながら顔をしかめる。
「これではっきりした。“屋上から飛び降りること”が唯一の脱出方法」
一拍置いて、確かめるように高月くんは言った。
それは当然ながら、校舎からの、そしてあの悪夢からの、という意味だろう。
「それと腕の傷だけど、残機と考えてよさそうだな」
こんなふうにばらつきが出た以上、各々の“残機”を表していると見て確定だ。
「生き延びても……増えはしないんだね」
柚が自分の腕を眺めながら呟いた。
確かにそうみたいだ。
失った残機は戻らない。
これから夢の中で、うまく死線を潜って、鍵を発見して、屋上から飛び降りて、殺されずに済んで────そんなことを繰り返したとしても、それは所詮“延命”に過ぎないのだ。
「……はぁ。もうやだ」
息をついた夏樹くんが、項垂れるように頭を抱えた。
腕や髪の隙間から見えるその顔色は、先ほどよりも悪くなっている。
「いつまで続くんだよ……。このままじゃマジで死ぬって」
ひび割れた声で言う。
その手は震えていた。
いや、いらついたように貧乏揺すりをしている振動が伝わっているだけかも。
いずれにしても、彼の心は恐怖に染まりきっている。
「…………」
それを見て昨晩のことを思い出し、いたたまれない気持ちになった。
わたしのすぐ近くまで迫っていた化け物は、ワープしたあとに夏樹くんを追っていった。
『あああぁっ! くそ! 何で俺なんだよ!!』
わたしはただ運がよかっただけだ。
彼もまた、偶発的に狙われてしまっただけ。
だけど、何だか自分の生存はその死の上に成り立っているように思えた。
誰が悪いわけでもないのに、責任を感じてしまう。
「……そういえばさ、昨日おかしかったよね」
鬱々と雰囲気が沈んでいく前に、柚が話題を変えた。
同意を求めるような眼差しに気づき、わたしは頷く。
「あ……うん。チャイムって1時間に1回のはずだよね? それで1階が崩れる」
「そうそう。なのにさ、昨日は1階だけじゃなくて2階も崩れ落ちたの! てか、3階も4階も」
チャイムとともに崩落が始まったものの、なぜかそれは1階だけに留まらなかった。
あれはどういうことだったのだろう。
「……妙だな」
思案するように顎に手を当てる高月くん。
やっぱり、わたしたちの憶測が間違っていた?
「あと、非常ベル。あれも何だったんだろ」
朝陽くんが訝しげに眉を寄せる。
「あー、それあんたが鳴らしたんじゃなかったの?」
「いやいや、俺じゃないって。あのときは……鍵見つけて、そしたらいきなり鳴り出して。廊下に出たら化け物がいたから逃げたんだよ」
意図的に鳴らしたわけでも、事故的に鳴ってしまったわけでもないようだ。
「何だそれ? じゃああの化け物が鳴らしたってこと?」
夏樹くんが不思議そうに首を傾げる。
「んー、でも校舎には化け物以外にもやばい何かがいるんだもんね。それの仕業かも」
「あ! あの笑い声のやつか」
職員室へ向かう前、聞こえた奇妙な笑い声と“こっち”とささやく声。
あれが化け物とはまた別の怪異なら、その可能性はありえそうだ。
そう思うと、嫌でも3年C組の教室で体験した奇妙な出来事が蘇ってきた。
「それと関係あるかは分かんないんだけど……」
ぎゅ、と無意識のうちに両手を握り締めてしまう。
「教室で鍵探してるとき、机の中からいきなり手が現れたの。掴まれて……本当にびっくりした」
「うえ、何それ。気持ち悪いな」
「大丈夫だったの?」
朝陽くんに心配そうな表情を向けられ、慌てて頷いた。
「あ、うん。そのときは一応それだけで済んだけど……みんなも気をつけて」
そういった怪異があの化け物と関係しているのか、わたしたちに対して悪意を持って脅かしているのか、本当のところはまだ全然分からない。
ただ、警戒しておくに越したことはないだろう。
「ま、とにかく化け物とそのよく分かんないやつに注意しつつ鍵探しってことね」
「あとチャイムも……結局、謎に戻ったし」
「いや、そうじゃないかもしれない」
黙していた高月くんが口を挟んだ。
「1時間経過で1階ずつ崩落する。チャイムはその合図。この前提は間違ってないはずだ」
「じゃあ何なんだよ?」
「昨日のチャイムは……たとえば、屋上が開いたことを知らせる合図だったとか」
全員の顔に戸惑いの色が浮かんだ。
屋上を開けたことが原因でチャイムが鳴り、崩落が始まった……?
「てことは、脱出にも時間制限があるってこと?」
「ああ。屋上が開いたら、校舎が崩れ去る前に急いで飛び降りなければならない。そういうことかも」
何となく腑に落ちる考察ではあった。
屋上の鍵を探す時間も有限で、脱出口が開いている時間も有限なのだ。
「なるほど……。確かにそうかも」
朝陽くんも神妙に頷いた。
鍵を見つけて追われた彼は、最上階へ逃げていった。
チャイムが鳴ったタイミング的にも“ドアを開けた瞬間”というのはありえそうだ。
ちょうど1時間の経過が迫っていた頃でもあったから、はっきりとは言いきれないけれど。
「じゃあ、まあそれは……今夜確かめてみるってことで」
どことなく強張った声色ながら、普段通りの軽い口調で夏樹くんがまとめた。
それから、ちら、と黒板の方に目をやる。
「あの文字は? “人殺し”ってやつ」
思わずわたしも黒板を一瞥したけれど、当然そこには何も書かれていない。
「どう考えても“人殺し”はあの化け物の方だっつーの」
柚も眉をひそめ、不可解そうに腕を組む。
わたしも同感だ。
実際、全員が一度以上殺されている。
(何かを伝えたがってる、とか……?)
あれがあの化け物の言葉なら、という前提は伴うけれど、そう考えられなくもない。
それとも意味なんてなくて、単に脅かしたいだけ?
あの笑い声や机の中の手と同じように────。
「…………」
みんなが口をつぐんで、また沈黙が落ちる。
どれもこれも憶測の域を出ないことばかりで、結局は不確実な可能性の中から淘汰していくしかない。
だけど、少し疲れてきてしまった。
冷静なふりをしていても、端の方へ追いやっていた不安がふと息を吹き返すたび、落ち着かない感情に苛まれることになる。
「……残機」
ぽつりと夏樹くんがこぼした。
落とした視線の先に、袖口をまくり上げた自身の腕がある。
引っかき傷みたいな鋭い赤色の線が3本、視界に飛び込んでくる。
「増やす方法ないのかな」
「そんなことしたって……」
口にしかけた言葉を、柚はためらいがちに飲み込んだ。
そんなことしたって、やっぱりそれはただの延命に過ぎない。
根本的な解決にはならない。
きっとみんながそう思ったし、彼自身も分かっていると思う。
「それだったら、終わらせる方法考えた方がいいよね。この悪夢自体を」
朝陽くんの言う通りだ。
実際のところ、それが最優先事項だろう。
残機は5で、死ねば減るけれど生き延びても増えはしない。
鍵を見つけ出して夢から脱出することは確かに大事。
だけど、それだけを繰り返していても結局は時間の問題だ。
いつまでも都合よく生きながらえたりはできない。
そのうち残機を失って死ぬだろう。
わたしたちはじわじわと死に近づいている。
じわじわと、殺されている。
「どうしたら終わらせられるんだろう……」
「“囚われた”って言ってたよな、朔。それって……俺たちは悪夢に閉じ込められたってこと?」
そう尋ねた朝陽くんをしばらく見据えていた高月くんは、ややあって何も言わずに目を伏せた。
積極的に肯定はしたくないけれど、否定できない。
彼の言葉を認めたことを意味する反応だった。
「なに……。つまりあたしたちは呪われた、みたいな話?」
柚が視線を彷徨わせながら言う。
その言葉にぞくりと背筋が冷たくなった。
「そんな」
「え……。で、それなら結局どうしたらいいんだよ」
困り果てたように夏樹くんが尋ねる。
「何か、しないといけないことがあるんだろうな」
高月くんは視線を落としたまま言った。
彼にしては珍しく曖昧なもの言いだ。
「それって……?」
「さあ。正直、いまの段階では見当もつかない」
当然と言えば当然なのだけれど、そうも言っていられないだろう。
時間は待ってくれないし、あの化け物もわたしたちの心情なんて顧みてはくれない。
死ねる回数には限りがあって、暢気に構えていたらあっさりと命を削りとられる。
どうしたって“残機”に焦らされた。
ストレートにいくとあと4日、夏樹くんや高月くんに至ってはあと3日で、本当に死んでしまう。
そういう意味では、夏樹くんの言っていたような“残機を増やす”という延命措置は、案外有効なのかもしれなかった。
少なくとも考える時間を稼ぐことはできる。
「あー、やっぱ残機増やせたらいいのにね!」
同じことを考えたらしい柚が言った。
「何だよ、おまえもそう思ってんじゃん」
すかさず茶々を入れる夏樹くんの声を耳に、わたしは眉を寄せる。
半信半疑だった。
(本当にそんな方法あるのかな?)
“呪い”だと言うのなら、そんな救済が用意されているとは考えづらい。
もっとも、永遠に夢に閉じ込めて殺し続けることが本望なら、ありえるかもしれないけれど。
「……そうだ」
はたと思い出して、小さく呟く。
「どうかした?」
「昨日、朝陽くんが言ってたこと思い出したの。眠らなかったらどうなるのかな、って」
眠らない限り、夢を見ることはない。
そうすればやっぱり、殺されずに済むのではないだろうか。
「あー、それで死ななきゃ残機が減ることもないもんな! じゃあ俺、今日は寝ない」
ずっとは無理でも、一度や二度なら何とかなるだろう。
強行突破であの悪夢を拒否するわけだ。
「え、マジで? どうせ寝落ちするよ」
「しねーよ。絶対、今日はもうガチで寝ない」
“寝落ち”という言葉にもうひとつ思い出した。
「ねぇ……。昼間に寝たらどうなるのかな?」
そう言うと、柚がまじまじと見返してきた。
「どうなるっても……一緒じゃない? 夜と同じように夢の中で化け物に追われる」
確かにそれ自体はそうだろう。
そんな方法であの悪夢を回避できるとは、わたしも思えない。
「でも、何かちがいがあるかもしれない」
たとえば、校舎の外側が明るい、とか。
もちろんあれが夜の暗さでないことは分かっているけれど、もしかしたらそういうこともあるかもしれない。
そうだったら怖い気持ちも半減するし、鍵も探しやすくなるだろう。
その分、化け物に見つかるリスクも上がるけれど。
「それに授業中とかだったら、周りの人が起こしてくれるかも。そうやって起こされたら夢から覚められるのか、確かめてみたい」
夢の中で殺されそうになっても、強制的に現実へ戻ってこられるのなら、それはある種の“希望”になりうる。
あの悪夢が脅威じゃなくなるかもしれない。
眠ることを恐れる必要はなくなる。
「どう、かな」
窺うようにそれぞれを見やったけれど、大半は煮え切らない態度だ。
そんな中、朝陽くんと目が合う。
「……うん、俺もそう思う」
「本当?」
「試す価値はあるんじゃないかな」
控えめながらはっきりと賛成の意を示してくれた。
ふっと全身の強張りがほどけていく。
「……確かにな」
吟味するように黙り込んでいた高月くんも頷いた。
「それが有効なら、殺されるリスクを負わずに睡眠をとれる」
残機を増やすことには直結しなくても、減らさずに済むのは大きい。
「……ねぇ、花鈴。もしかして次の授業中とかに試そうとしてる?」
そんな柚の問いかけに「うん」と頷いた。
不確かなことは早いうちに答えを見つけておくべきだろう。
そうしないといつまで経っても前へ進めない。
いくら真剣に悪夢や呪いと向き合ったところで、分からないと行き詰まってしまう。
「お、俺はパス。死にたくないし!」
身を逸らせた夏樹くんが首を左右に振って全力で拒絶した。
「ああ、何があるか分からないから全員で試すのはやめとこう。僕はやるけど、あとは?」
「わたしも」
言い出したわたしが二の足を踏む理由はない。
「俺も寝てみる」
朝陽くんもまた、そのスタンスを貫いてくれた。
「んー……。あたしはやめとく」
苦く笑いつつ柚は拒んだ。
夏樹くんも断固拒否といった具合にもう一度かぶりを振る。
こく、と高月くんは眉ひとつ動かさずに頷いた。
「分かった。じゃあ僕と日南と成瀬で試すから、もし様子がおかしかったらすぐに起こして助けてくれ」
◇
授業が始まると、わたしはすぐに目を閉じた。
どこか緊張が拭えなくて眠れないのではないかと思っていたけれど、どうやらその心配は必要なさそうだ。
────10秒くらいそうしていただけで、明らかに周囲の空気感が変化した。
いつの間にか先生の声は聞こえなくなって、人の気配も薄れている。
肌に触れる温度は冷たくなり、ぞくりと背筋が凍てついた。
澄んでいるのにざらつくような、不快で重たい空気。
(夢だ)
眠りに落ちた感覚はないけれど、現実じゃないことは確かだ。
ゆっくりと目を開けた。
──キーンコーンカーンコーン……
ノイズ混じりの、錆びついたような不気味なチャイムが鳴る。
「え?」
きょろきょろとあたりを見回して驚いた。
ここが教室で、自分の席にいるのは同じなのだけれど、空間が明るい。
窓の外は闇ではなく、眩しいくらいの白色に染まっていた。
射し込む光でものの輪郭が淡くぼやける。
(本当に明るいなんて……)
ふと、窓の向こうを眺めるふたつの背中を認めた。
「……日南の言ってた通り“ちがい”があるみたいだな」
振り向きつつ言う高月くん。
「ああ……。これが悪夢で、この校舎が空間に浮かび上がってるのは同じだけど」
外の光景を見たらしい朝陽くんも続いた。
「鍵を探して屋上から飛び降りる、っていうのは一緒かな」
わたしは静かに席を立ちながら呟く。
何気なく黒板に目をやって、はっとした。
「あれ? 何も書かれてない」
なぜかまっさらな状態だった。
いままでみたいに“飛び降りて死ね”とも書かれていないし、血で“人殺し”と書かれていた形跡もない。
「そうなんだよね。もしかしたら、夜の夢とはまったくの別物なのかも」
そんな朝陽くんの声を耳に、戸惑いながら教壇の方に足を向けた。
黒板へたどり着く前に、ふとあるものに気がつく。
「何これ……?」
教卓の上に紙が置いてあった。
ノートを1枚、破ったものだ。
刻まれているしわや折り目は、たぶんそのときについたのだと思う。
「何だ?」
彼らもこちらへ歩み寄ってきた。
紙を持ち上げると、かさ、と乾いた音が鳴る。
「“死んだら終わるのかな”……」
そこに書かれていた内容を読み上げた。
不安定な心情のままに書いたのか、文字が震えている。
だけど筆圧は強くて、計り知れないほどの激情が窺えた。
「どういうこと……?」
不穏で不可解な文章に、朝陽くんが困惑をあらわにした。
わたしも、恐らくは高月くんもまったく同じ気持ちで、推し量るように文字を見つめる。
「意味不明だな」
高月くんはすぐに打ち切った。
スマホを取り出して時刻を確かめる。
「12時……」
「え、12時?」
耳を疑ったものの、確かに画面にはそう表示されていた。
12時6分。
おかしい。
わたしたちが眠りについたのは1時間目の授業が始まってすぐだ。
「時間の流れは完全に狂ってる」
壁かけの時計を見上げると、それは夜と同じだった。
ぐるぐるとでたらめに針が回り続けている。
時計や現在時刻からしても、夢の中は現実とは異なる時間が流れているのだろう。
「とにかく、急ごう。手分けして鍵を探さないと」
「それなんだけど、本当に夜と同じなのかな……?」
明らかなちがいを目の当たりにして、怯んでしまっていた。
朝陽くんの言う通り、これが夜に見る夢とはまったくの別物だったら────。
一番引っかかっているのは、黒板に何も書かれていないことだ。
代わりにあるのはこの紙だけれど、これはヒントにもなっていない。
夜と同じように“屋上から飛び降りること”で、本当に夢から抜け出すことができるのだろうか。
「分からないが、とにかくやってみるしかないだろ」
「だな。飛び降りるかどうかは鍵を見つけてから考えよう」
「……分かった」
崩落までのカウントダウンは既に始まっている。
人数が少ない分、なおさら時間を無駄にはできない。
不穏な可能性と向き合うのも、この文字の意味を考えるのも、ひとまずあと回しにするしかない。
かくして、1階を朝陽くん、2階を高月くん、3階をわたしがそれぞれ探索することになった。
西階段から3階へ上がると、まずは一番近いお手洗いを探してみることにした。
いまのところ、化け物の気配はない。
もしかすると、夜とちがって襲われることはないのかもしれない。
そうだったらいい。
そうであって欲しい。
そんなことを考えながら、女子トイレに足を踏み入れた。
明るいお陰か怖くはない。
これが夜だったら、と想像すると身震いした。
場所が場所なだけに怪奇現象と結びつけやすいし、何かが起こりそうな気配に包まれている。
(どこから……どう探せばいいんだろう?)
教室以上に隠し場所がたくさんあるような気がする。
ぐるりとあたりを見回した。
掃除用具入れ、タンクの中、シンク、下手したら便器の中にあるかもしれない。
そう思いついて、さらにはそこに手を入れる想像をして、つい顔をしかめた。
だけど、躊躇している暇はない。
これは夢だとどうにか割り切って、まずはひとつ目の個室を開けた。
明るいとかなり探しやすいものだった。
スマホでライトをつけておく必要もないから両手を使えるし、バッテリーや光源を失う心配もない。
順調にふたつの個室を調べ終え、3つ目のドアを開ける。
タンクの蓋を開け、音を立てないよう床に置いておく。
その中を覗き込むと、前のふたつとはちがってなぜか水がなかった。
代わりに、あるものが目に留まる。
「紙……?」
管などの部品に触れないよう慎重に手を伸ばし、その紙きれを掴んで取り出した。
教卓の上で見つけたものと同じように、くしゃりとしわや折り目が入っている。
ふたつに折りたたまれていたそのメモ用紙を広げてみた。
「“たすけて”?」
たった4文字、だけど無視できないような言葉が書かれている。
教室にあったものと同じ人物が書いたのだろうか。
いったい誰が? まさか、あの化け物が?
(どういうことなの……?)
先ほどのようにその問いが込み上げてくるけれど、結論にたどり着くまでの道筋へ踏み込む前に、大きな困惑に飲み込まれた。
だけど、どのみちここでひとり考えあぐねていたところで答えを出せる気がしない。
(いまはそんな場合じゃないよね……)
とにもかくにも鍵を探さなきゃ。
無駄に残機を減らすことだけは避けたい。
メモを折りたたみ、ポケットにしまおうとしたところではたと動きを止めた。
夢の中で得たものは、現実に残らない。
鍵がそうだったように、これもそうかもしれない。
だけど、みんなと相談したい。
もしかしたら朝陽くんや高月くんも、同じようなメモを見つけている可能性がある。
(あ、そうだ。写真)
メモを置くと、スマホを取り出して写真におさめておいた。
現実へ持ち帰れるかは分からないけれど。
それからポケットへしまうと、残りの個室や掃除用具入れ、水道の方も調べて回った。
────結果として鍵はひとつ、家庭科室のものを見つけた。
昨晩に比べたらいいペースだ。
(次は男子トイレ……)
入るのに抵抗はあるけれど、そうも言っていられないだろう。
鍵をポケットに入れたわたしは廊下へ出た。
「……!」
そのまま右へ向かおうとして、唐突に身体が強張る。
ただならぬ気配を察知し、本能が警告していた。
恐る恐る顔を上げると、北校舎側へと続く廊下の先に人影が見えた。
明るいせいで、くっきりとその風貌が窺えてしまう。
びしょ濡れで血まみれの女子生徒。
折れた首は、挑発的に傾げられているように見えた。
「ひ……っ」
飛び散った赤色やぎらつく鉈が鮮烈に脳裏を貫く。
あまりの恐怖にいすくまった。
呼吸を忘れた一瞬の間に、その恐ろしい形相が目の前に現れた。
「!」
さっと遅れて風が起こる。
濡れそぼつ簾のような長い髪の隙間から、色のない肌が覗いている。
こちらを睨めつける双眸は眼球一面が真っ黒に染まっていた。
それでいて血走っているように感じられる。
──ぽた……ぽた……
滴る雫の音がやけに大きく耳に届いて、ようやく止まっていた時間が動き出した。
「いやあああっ!」
弾かれたように床を蹴って駆け出した。
いまになって心臓がばくばくと暴れ始める。
酸素をうまく吸えなくて、溺れたみたいに苦しい。
「……っ」
着地のたびに視界が揺れた。
足がもつれて転びそうになるけれど、必死で前に進み続けた。
「う……!」
突如として数メートル先に化け物が現れ、慌てて急ブレーキをかける。
けれど、つんのめった身体目がけ、容赦なく鉈が振り下ろされた。
反射的に身を逸らせてぎりぎりで避ける。
しかし、目と鼻の先まで迫っていた刃は頬のあたりを掠めていった。
「痛……っ」
ビッ、と風切り音とともに鋭く熱いような痛みが走る。
はらはらと髪がひと房落ちていった。
(あ、危なかった……)
安堵する暇もなく、間髪入れずに再び振りかざされる。
ぎらりと光った刃を見てはっと我に返った。
「いや!!」
とっさにきびすを返して走り出す。
すくみそうになる足を必死で前へと運んだ。
「やだ! 来ないで!」
とにかく無我夢中で駆け抜けた。
化け物から離れたい。死にたくない。死にたくない!
恐怖から涙が滲んで、余計に息苦しくなる。
それでも、身を震わせながら死に物狂いで逃げ続けた。
──ジリリリリリリ!
昨晩も聞いた非常ベルの音が、突然鳴り響いた。
遠く霞んで聞こえる。
だけど直接脳を揺さぶられるみたいに、わたしから正気を奪っていく────。
西階段を駆け上がり、4階の廊下を疾走する。
「花鈴!」
「!」
反対側の階段へさしかかったとき、朝陽くんと出くわした。
高月くんの姿もある。
「急げ!」
ちゃり、と素早く鍵を提示した高月くんが先導して上へ駆けていく。
「屋上の!?」
「そう。追われてるんだろ? こっち、早く!」
「うん……!」
ぱっと差し出された朝陽くんの手を急いで掴む。
わたし以上に冷えきっていたけれど、この上なく頼もしかった。
肺が破れそうで、足に力が入らなくて、いまにも恐怖に押し負けそうになる。
すぐ後ろに凍てつくような化け物の気配があった。
怖くてとても振り返れない。
「……っ」
朝陽くんが手を引いてくれなければ、今頃わたしの身体は真っ二つだ。
『……て、……ん』
どうにか最上階にたどり着いた。
ドアへ駆け寄った高月くんが取っ手を掴む。
『お……て。……りん』
荒い呼吸を繰り返しながら、なだれ込むように床に手をつく。
『起きて……』
心臓が破裂寸前だった。
がくがくと手足の震えが止まらない。
でも、あと少し────。
『花鈴! 起きて!』
◇
はっと目を開けた。
意識が現実へと引き戻され、全身も感覚を取り戻す。
伏せていた顔を慌てて上げたとき、心配そうな表情の柚と目が合った。
「あーもう、びっくりした。大丈夫?」
「え……」
「めちゃくちゃうなされてたんだよ」
そう言われ、ひやりとした冷たい風が背中を通り抜けていく。
じっとりと嫌な汗をかいていたみたいだ。
未だに動悸は激しいままで、何だか喉がからからだ。
「授業は……」
「とっくに終わってるし、ほら」
喧騒に包まれる教室の中、柚の指した方を向く。
夏樹くんに起こされた朝陽くんと高月くんが顔をもたげたところだった。
「てか、それ何?」
頬に手が伸びてきて、つられるようにわたしも触れた。
ひりひりと疼き、思わず指先を見下ろす。
真っ赤な鮮血が滲んでいた。
「な、何で……」
こんなところ、怪我をした覚えはない。
机に伏せている間に教科書やノートの端で切ってしまった?
あるいは────。
『痛……っ』
確かに夢の中でなら、鉈で切りつけられた。
まさか、その影響が現実にも現れた……?
どくん、どくん、と心臓が重たい拍動を繰り返していた。
動揺が拭えずにうつむいた先で、思わぬものが目に飛び込んでくる。
仰天して息をのんだ。
「え……!?」
机の上、開いていた教科書に、髪がひと房乗っている。
「何これ!?」
それに気づいて一瞬飛びのいた柚が、眉をひそめながらもう一度じわじわと歩み寄ってきた。
「髪、の毛……?」
心底理解不能だと言わんばかりに怪訝そうな表情を浮かべている。
(わたしの……)
慌てて自分の髪を指で梳き下ろすと、はらはらとまた数本落ちていった。
不自然というほどではないけれど、一部分だけ短くなっている。
さっと血の気が引いた。
夢の中で、髪もひと房切り落とされた……。
「ちょっと、ごめん」
ふらふらと立ち上がり、おぼつかない足取りのまま教室を出ていく。
引き止める柚の声にも振り向けないまま、お手洗いへと駆け込んだ。
水道の蛇口を捻り、顔を洗う。
冷たい水を浴びると、いささか冷静さを取り戻すことができた。
絡みついてきた動揺と困惑が洗い流される。
顔を上げて鏡を見ると、左の頬に2センチくらいの切り傷が刻まれていた。
水に溶けて薄まった血が、つ、と伝い落ちていく。
指先で傷口を拭ってみたけれど、すぐにまた滲んできた。
(これ……)
それにあの髪も、夢の中での出来事だったはずなのに。
どうして現実に反映されているのだろう。
悪い予感が渦巻いて、ぞわぞわと肌が粟立つ。
鏡の中の自分を眺めていると、水滴が輪郭をなぞるように滑り落ちていった。
「……っ!」
それが夢で見たあの化け物の様相と重なって、思わずあとずさる。
ぐい、と拭うと逃げるように廊下へ出た。
「……あ、戻ってきた」
教室に踏み込むと、わたしの席の周りに4人が集まっていた。
窺うような案ずるような視線を一身に浴びながら、わたしも自分の椅子に腰を下ろした。
「その、怪我……」
遠慮がちに朝陽くんが口を開く。
どうにか血は止まったけれど、赤い線はくっきりと濃く、異様な存在感を放っている。
「たぶん、夢と現実が直接リンクしてたんだと思う」
その声は自分でも思っていた以上に硬く引きつったものになった。
「髪もこの傷も、確かに夢の中で……」
「あっぶな。じゃあ、夢で殺されてたらマジで死んでたってこと?」
「……本当に危うかった。あのまま屋上から飛び降りてたら、僕たちは────」
実際に死んでいた、かもしれない。
黒板の文字もなかったし、その方法が生きてあの夢から抜け出す手段であった可能性は低い。
“死んだら終わるのかな”。
もしかすると、わたしたちは直接的に死へ誘導されていたのかもしれない。
「……大丈夫?」
そう気にかけてくれる朝陽くんの優しさに感謝しながら、こくりと小さく頷いた。
きゅ、と膝の上で両手を握り締める。
「本当にごめん。危ない目に遭わせちゃって……」
どれほど危険かを知らなかったとはいえ、日中に眠ることを提案したのは紛れもなくわたし自身だ。
下手したら、彼らを死に追いやっていたかもしれない。
「花鈴のせいじゃないって」
「ああ、謝らないでくれ。自分で決めたことだ」
即座にそう言われ、自責の念がほどけていく。
染み入って噛み締めるように目を伏せつつ、柚や夏樹くんに向き直った。
「起こしてくれてありがとう。ふたりのお陰で助かったよ」
あのとき柚の声が聞こえなかったら、と思うと震え上がってしまう。
命の恩人と言えた。
「なに言ってんの、そんなの気にしないでよ」
「……つーか、こうなったらもう夜に見る夢とはまったくの別もんって認識で合ってるよな?」
夏樹くんの言う通りだろう。
少なくとも夜の夢は、現実に直接干渉してくることはなかった。
負わされた傷も目覚めれば消えていたし、死が残機という形で影響してくる以外、あくまでただの“夢”でしかなかった。
「そうだな。恐らく夢は2種類ある」
高月くんも同調する。
区分は“日没前”と“日没後”────だろうか。
「日中の夢は、夢の中での死は現実での死を意味する。残機がいくつあろうと即死だ。傷なんかもリアルとリンクしてる。こっちの場合、たぶん外部から誰かに起こしてもらう以外に目覚められない」
わたしの身に起きたことを思えば、それはきっと誰からしても疑いようのない事実だろう。
実際に“日没前の夢”を経験していない柚と夏樹くんも、想像や理解に難くないと思う。
「夜の夢の場合、夢の中での死は残機マイナス1だな。夢から覚める方法は知っての通り、屋上から飛び降りること」
ただし、屋上へ続くドアには必ず鍵がかかっており、校舎内のどこかに隠されているそれを見つけなければならない。
各教室も毎回ランダムで施錠されていて、その鍵も探す必要があるわけだ。
────悪夢の概要を、ようやく明確に掴めてきた。
“寝ない”という選択をすれば、確かに夢を拒否することができる。
だけど、それを永遠に繰り返すことは不可能だ。
たとえば、交代で不寝番を立てて、みんなで交互に睡眠をとるのはどうだろう。
殺される前に起こすことができれば、死ななくて済むし残機が減ることもない。
(でも……)
あまり有効ではないかもしれない、とすぐに思い直した。
そもそも起きている側には夢の中の状況なんて分からない。
お互いが中途半端な眠気を日中まで引きずると、ふいに寝落ちして“日没前の夢”に収容されかねない。
そう考えると、逆に危険な可能性が高いような気がする。
「考えようぜ、終わらせる方法」
普段通りの明朗な口調で、だけど真剣に、夏樹くんが言う。
そうだ、いまのわたしたちは八方塞がり。
“日没前の夢”を避けたところで、結局夜には眠らなければならない。
“日没後の夢”でも死ねば残機を失う。
すべて失ったら、その場合も待っているのは本当の死なのだ。
悪夢そのものから抜け出さないことには、いつでも死と隣り合わせだ。
『何か、しないといけないことがあるんだろうな』
そんな高月くんの意見を、漠然とは理解できるのだけれど、具体的に考えようとしても切り口を見つけられないでいた。
「何か……メモがあったんだよね? “死んだら終わるのかな”だっけ」
柚が怪訝そうに言う。
先ほど見た夢の内容については、わたしが席を外している間に共有しておいてくれたみたいだ。
「そう。……遺書みたいだよな」
ぽつりと朝陽くんがこぼす。
教卓にあったメモは、少なくとも自殺を視野に入れているような、希死念慮をほのめかすものだった。
「あの化け物が書いた?」
そんな夏樹くんの言葉に、ふと最初の夜に見た光景が蘇ってくる。
屋上から転落していく姿────。
あれは、彼女の最期の瞬間だった?
「……わたし、それ以外にもメモ見つけた」
おもむろに口を開き、特に朝陽くんや高月くんの反応を窺う。
「えっ」
「マジで? どこで? どんな?」
驚きをあらわにする柚たちと同様の表情だった。
どうやら彼らの方はメモを見つけていないようだ。
「3階の女子トイレで……。“たすけて”って書いてあった」
そう答えたとき、念のため写真におさめていたことをいま思い出した。
ポケットを探り、スマホを取り出す。
「たすけて……?」
「それってあたしたちに何か助け求めてんの? あの化け物が?」
「ほかの怪異の仕業という可能性もある」
「え? じゃあ化け物があの空間に別の幽霊を閉じ込めてる、みたいなことか? それで助けろって?」
それぞれの憶測を耳にしながら、アルバムを開いてみる。
(あった……)
カメラロールの中には、意外なことにちゃんとあのメモの写真が残っていた。
「これ!」
画面を彼らの方へ向ける。
“たすけて”────ただならぬ気配を孕んだ4文字が、不穏さを助長させていく。
それぞれの表情が険しくなった。
惑いを吐き出すように高月くんが深く息をつく。
「……一筋縄ではいかなそうだな」
◇
しゃっ、とカーテンを閉める。
時刻は22時半、窓の外はもう真っ暗だ。
それでも、夢で見る校舎の外側よりは明るく感じられた。
「…………」
眠る気にはなれないけれど、眠らずに何か不測の事態が起きたら怖い。
そうやって睡眠不足を持ち越して、ふいに“日没前の夢”に引きずり込まれるのも恐ろしい。
そういう区分けなら、きっと何時に寝ても同じなのだろう。
それが日没前なのか日没後なのかで、閉じ込められる夢の世界が変わるだけ。
その中で目覚めたら、時刻は強制的に12時か0時になっている。
現実世界とは異なる時の流れに左右される。
わたしは鏡の前に立ち、頬の傷を確かめた。
これが目に入るたび、すぐ背後までひたひたと寄ってきていた死の気配を思い知らされた。
実際、あてがわれた死神の鎌で首を落とされる寸前だったのだ。
うかうかしている暇はない。
やらなきゃいけないこと、考えなきゃならないことはたくさんある。
だけど、そのためにはまず情報が必要だ。
(トイレで見つけたメモ、あれと同じようなものがほかにもあるかも)
考えるにあたって手がかりになりそうな、唯一の代物だ。
それが本当にほかにも存在しているのか、していたとして“日没後の夢”でも見つけられるのか、確かめないと。
悪夢から抜け出して終わらせる方法を考える、そのためにできることをしよう。
どんなに怖くても立ち止まっている時間はない。
今夜殺されたらまた、死に一歩近づいてしまう。
何もできないまま、死ぬのを待つだけなんて嫌だ。
◇
──キーンコーンカーンコーン……
重々しいチャイムの音に目を開ける。
瞼の裏とさして変わらないほどの暗闇が広がっていた。
取り出したスマホでライトをつけ、音を立てないよう静かに席を立つ。
その一連の動作にいつの間にか慣れつつあった。
「……なんだ、あんたも寝たんだ」
全員が起きたあと、柚が夏樹くんに言う。
「だ、だって……こえーじゃんか!」
彼女は別に責めているわけではないのだろうけれど、夏樹くんの口調はどこか言い訳っぽくなっていた。
絶対に寝ない、と宣言した手前、少しきまりが悪かったのだと思う。
事情が変わって、日中に寝落ちする方が危険だと分かって、きっと眠らざるを得なかったんだ。
ぱっと高月くんが黒板を照らした。
「!」
“飛び降りて死ね”と、ちゃんと殴り書きされている。
思わずほっとした。
まさかその文言に安心するときが来るなんて思いもしなかった。
「じゃあ急ごう。分担は────」
「お、俺……1階は嫌だ」
ふるふると首を横に振りながら、怯えたように夏樹くんが言う。
確かに階層が低い方が危険で怖いようなイメージがあった。
間に合わなければ、真っ先に崩落に巻き込まれる。
かといって致死率と比例しているかと言われれば、いまのところは確実にそうというわけでもない。
「なら、どこがいいわけ?」
「4階」
「えー、一番あと回しでいい……とも言いきれないか。そこに屋上とか1階のどっかの鍵があるかもしんないし」
そういう意味では、分担を決めるにあたって正解があるのかどうか微妙なところだった。
さっさと1階を調べ終えて足りない鍵を明らかにするのが大事だ、というのは合っている気がするけれど。
「じゃあわたしが1階探すね」
こうしている時間も正直もどかしい。
崩落への秒読みは既に始まっている。
「俺も行く。少なくとも1階はふたり以上いた方がいいでしょ?」
朝陽くんが名乗り上げてくれると、即座に「そうだな」と高月くんが同意した。
「そしたら柚が3階、僕が2階で、乾は4階」
「おっけー。行こ!」
朗々と軽い調子で柚が答える。
そっと廊下に出て、階段のところでそれぞれ別れた。
足音に気を配りながら、慎重に段を下りていく。
1階へたどり着くと、前を歩いていた朝陽くんが足を止める。
西階段側を下りてきたため、ちょうどホールに出た。
しん、とあたりは静まり返っている。
「北校舎か南校舎、どっちがいい? それか先に昇降口の方調べる?」
昇降口とホールは繋がっていて、ホールから北校舎と南校舎がそれぞれ左右に別れていた。
いま、彼に聞かれるまで昇降口の存在を忘れていたけれど、思わず苦い気持ちになった。
ひとつひとつ扉つきの靴箱で、それが何列も連なっている。
かなり時間を要しそうだ。
「昇降口から探そう」
「分かった。じゃあ俺、とりあえず南側から見てくから、花鈴は北側お願い」
「うん」
頷き返すと、北校舎側に近い靴箱の方へ向かう。
スチール製でわたしの身長より少し高いくらいの大きさだ。
すのこに上がって、端から順に開けては中を照らしていく。
(怖いな……)
ひらけた空間だからか、心が落ち着かない。
この昇降口は視認性が高い上に逃げ場所がなく、大した隠れ場所もなかった。
ちら、と正面玄関の扉を見やる。
錆に侵食されつつあって、それが血に見えた。
初日、ここで無惨に殺害された夏樹くんの様子が蘇ってきたのだ。
「……っ」
見つかったらすぐに追い詰められる。
そういう意味でも、早く調べ終えてここから離れたい。
そう思って次の靴箱を開けたとき、ぱたぱたと何かが降ってきた。
「わ……!」
濡れた何かが皮膚に飛んで、その生あたたかい温度に違和感を覚える。
(え……?)
慌てて明かりを向け、息をのんだ。
靴箱からだらりと垂れた、赤黒い物体。
ぐねぐねと波打っているそれは、まさか腸……?
「うっ」
靴箱全体に、ぐちゃぐちゃに潰された臓物が詰め込まれていた。
開けた反動で一部が飛び出してきたのだ。
ぽた、ぽた、と血が滴っている。
(気持ち悪い……!)
足から力が抜け、思わずその場にくずおれる。
生臭いような強烈なにおいに襲われ、吐き気がした。
「花鈴……!?」
ちかっと白い光が飛んでくる。
異変に気がついた朝陽くんが駆け寄ってきた。
「う、何だこれ」
床に散らばった内臓の破片を照らし、それから靴箱の臓物やそこから垂れる血に気がついたようだ。
ひどい異臭に顔をしかめつつ、傍らに屈み込む。
「大丈夫? おいで、こっち……。1回離れよう」
肩を支えてもらいながら引っ張り起こされ、放心状態だったわたしはただただ身を委ねる。
悲鳴を上げる気力もとうに失って、蒼白な顔のまま朝陽くんについて歩いた。
力の入らない膝が震えて、がくん、と何度もへたり込みそうになる。
浅い呼吸が苦しい。
いつまでも生臭さが鼻から抜けなかった。
「平気? それ、洗いにいく? とりあえず化け物の気配もないし……」
そう指し示され、ようやく自分の状態に意識が向いた。
肌や制服にべったりと血が染み込んでいる。
臓物を浴びたせいだ。
生臭いにおいも錯覚じゃなかった。
「うん……。ありがとう……」
喉に貼りついた声を押し出すと掠れてしまった。
ふらふらとした足取りですぐ近くのお手洗いに入る。
蛇口を捻るのもままならないくらい、震えの止まらない手にはまるで力を込められなかった。
(何で……)
泣きそうな気持ちで手や顔を洗い流し、ごしごしと制服をこすった。
(何でこんな目に遭わなきゃいけないの)
軽い気持ちで怪談を試したせい?
その罰や祟りがこれなの……?
そんなの知らなかった。
あの怪談がこんな悪夢や呪いに繋がっていたなんて。
こんなつもりじゃなかった。
わたしたちは誘い込まれただけだ。
殺される謂れなんてない。
(なのに……それなのに……!)
「!」
じわ、と制服から染みてきた冷たい水が肌に触れた。
お陰ではっと我に返る。
(……だめだ。いまこんなこと考えてたって仕方ない)
きっかけが何であれ、もう巻き込まれてしまっているのだ。
嘆くだけで解放されるなら、ここまで追い詰められてはいない。
怖いし、逃げ出したい。もう嫌だ。
そんな感情で埋め尽くされる。
けれど、こうやって現状を恨んで拒絶しているだけの時間は無益でしかないと、頭ではちゃんと分かっている。
ぎゅ、と制服を絞った。
数度深呼吸して息を整え、どうにか自分を奮い立たせる。
震えはおさまっていた。
周囲を警戒しながら廊下へ出る。
「……あ」
ちょうど隣の男子トイレの方から朝陽くんも出てきた。
「大丈夫?」
「うん、ごめんね。ちょっと……びっくりしすぎて」
「無理ないって、あんなきもくてグロいもん降ってきたら。俺なら叫んでた」
肩をすくめて笑う彼。
わたしも決して冷静だったわけじゃなく、圧倒されて声が出なかっただけだ。
「きつかったらもうちょい休んでてもいいけど」
「ううん、もう大丈夫」
自ら1階の探索を買って出たわけだし、それでなくても休んでいる時間はない。
今日の成果はいまのところゼロだ。
このままじゃ何も掴めないまま、鍵も見つけられないまま、崩落に飲み込まれて無駄死にしてしまう。
「……そっか、強いね。花鈴は昔からそう」
「え? そんなことないよ、気も弱いし……」
「それは“優しい”の間違い」
穏やかに言ってのけた朝陽くんが、ふとポケットに手を入れた。
その言葉を真正面から受け取る前に、さっと空気に流されていってしまう。
「これ、渡しとく」
何かを差し出され、反射的にてのひらを向ける。
ちゃり、と甲高い音が鳴った。
「“相談室”」
「そう、さっきの隙に男子トイレ調べてたらたまたま見つけた」
相談室は南校舎1階にある。
「昇降口の残りは俺が調べとくから、花鈴はとりあえず南校舎側探しに行って」
「え、でも……」
「いいから、早く。昇降口が済んだら北校舎側行くからさ、終わったら手伝いに来てよ」
危なっかしい上に時間のかかる昇降口を彼ひとりに任せるのは気が引けた。
先ほどのこともあって、ここでわたしが別の場所の探索へ移ったら、それは甘えのような気もしていた。
けれど、朝陽くんにはわたしの抗議を取り合う気なんてさらさらないみたいだ。
「分かった。すぐ行くね」
そう答えると、頷いた朝陽くんはすぐにきびすを返した。
わたしも南校舎側へ向かおうとしたけれど、思い直して足を止める。
先に女子トイレの方を調べることにした。
────“日没前の夢”でそうだったみたいに、またお手洗いでメモが見つからないかと期待していた部分があった。
だけど、結果は芳しくなかった。
どの個室もタンクの中は水で満たされていたし、メモどころか鍵も見当たらない。
掃除用具入れを調べ終え、ついさっきまで血を洗い流していた洗面台の方へ再び向かう。
当たり前といえば当たり前ながら、水道のあたりにも何もなかった。
(ないなぁ……)
ちら、と最後に振り向いて全体を照らしたとき、ふと床で何かが光った。
「あ」
洗面台の下だ。
さっと屈んで手を伸ばした。
(見逃すところだった)
掴んで引き寄せた鍵のプレートを確かめる。
“進路指導室”────南校舎1階、西側の端。
ちょうどいまから向かおうとしていたところだ。
廊下へ出ると、ホールから昇降口の方が窺える。
白いライトの光が動いているのを確かめてから、わたしは南側へと急いだ。
進路指導室の扉に鍵を挿して回し、スライドさせると中へ入る。
初めて入ったけれど、それほど広くはない。
テーブルと椅子がそれぞれ何セットか並んでいて、壁に沿って棚が置いてある。
そこにはファイルや本がぎっしり並べられていた。
様々な資料だったり、模試や入試の過去問題集だったりするのだろう。
(これ……本の隙間に、とかないよね?)
そんなところにまで鍵が隠されていたら、見つけることは到底不可能だ。
一冊ずつ確かめていたらきりがない。
ここだけでも骨が折れる。図書室なんてひと晩かかっても終わる気がしない。
本やファイルは一旦諦め、それ以外の箇所から探していくことにした。
そうなると、意外と隠し場所は少ない。
周囲に明かりを振り向けながら、静かに椅子を引いてみる。
「え」
思わず声が出た。
座面の上にぽつんと鍵が置かれていたから。
プレートには“1-G”とある。
屋上のものではないとはいえ、あまりにも順調に鍵が見つかって逆に気味が悪いくらいだ。
(ここにはもう、ほかの鍵はないのかな)
これまでの流れからすると、ひと部屋につきふたつ以上の鍵が見つかった例はない。
そんな法則があるとしたら、これ以上ここに居座るのは時間の無駄だろう。
時刻を確かめた。
1階の崩落まで、あと35分だ。
正直、いまから棚の中身をひっくり返して本やファイルの隙間を1冊ずつ確かめる気にはなれなかった。
隣の教室にこそ屋上の鍵があるかもしれないのだ。
もちろん、この進路指導室からふたつ目の鍵が出てきて、それが屋上のものである可能性だってあるけれど。
時間に余裕はない。
少しでも多くの教室を確かめておきたい、という心理が働いた。
どのみち賭けだ。
だったら、前者の可能性を信じてみよう。
わたしは1年G組の鍵をポケットに入れ、進路指導室をあとにした。
それから約20分くらいかけ、南校舎側を調べ終えた。
6部屋あるうち、開いたのは進路指導室を含めて3部屋。
大会議室と相談室で、どちらからも鍵は見つからなかった。
もう一度進路指導室に戻ってみる、という選択肢も頭によぎったけれど、その前に朝陽くんと合流することにした。
北校舎側の進捗はどうだろう?
東階段の前を通って北側へ向かう手前で、ふと吹き抜け部分に目をやった。
1階のそこは学食になっている。
昇降口よりも視認性が高く危険な場所だ。どのフロアにいても見下ろせば目に入る。
どちらも扉の概念がないイレギュラーな空間ではあるものの、鍵が隠されていることはあるのだろう。
(……あとで探しにいかなきゃ)
何にしても一旦、朝陽くんと合流したい。
そう思って再び歩き出したとき、あの音がふいに響いてきた。
──ぴちゃ……
──ズ……ズズ……
「!」
心臓が跳ね、恐怖と緊張から加速していった。
それほど近くはないような気がする。
けれど、音を拾えるということは、同じ階か2階の廊下ではあるのだろう。
スマホのライトを消して、ローファーも脱いでおいた。
こうすれば足音をかなり小さく忍ばせられる。
壁に手を添え、慎重に一歩ずつ踏み出した。
つい不安であたりを見回してしまうけれど、真っ暗闇の中では何も見えない。
壁に触れていなければ、前後左右も分からなくなっていただろう。
(朝陽くん、気づいてるかな……)
あの化け物が近くにいるかもしれない、ということに。
一度足を止め、耳を澄ませてみる。
──ズ……
水音はほとんど聞こえない。
引きずるような重たい音も、だんだん遠ざかっているように感じられる。
気は抜けないけれど、思わず息をついた。
念のためまだライトはつけないで、壁伝いに北校舎側へ進んでいく。
──びちゃ
「え……?」
ふいにつま先が何かを踏んだ。
じわ、と靴下に生あたたかい何かが染みてきて、おののいたように足を引っ込める。
(なに……!?)
動揺が渦を巻いて、呼吸が浅くなっていく。
嫌な予感を覚えたまま、恐る恐るライトを点灯した。
「ひ……っ」
真下に血の海が広がっている。
てらてらと不気味に光るその中心に、惨たらしい肉塊が転がっていた。
「あ、朝陽くん……!?」
確信があったわけじゃない。
むしろ、そうだったら嫌だとさえ思った。
だけど、ここにいることからして、きっとそうだ……。
腰のあたりで分断された身体は、追い討ちをかけるようにぐちゃぐちゃにかき混ぜられて潰れていた。
顔の判別もつかない。
どの部分がどの身体部位だったのかも分からない。
ただ、真っ赤な剥き出しの骨身と臓物が、血溜まりに揺蕩うばかりだ。
「……っ」
愕然として力が抜け、膝から崩れ落ちた。
ぶわ、とむせ返るような血なまぐささが鼻につき、とっさに手で覆う。
怖い。ひどい。
いつの間にこんなことになっていたのだろう。
混乱に溺れながらも、頭はまだかろうじて冷静さを保てていた。
(これは夢……。ただの夢……)
呪文のように心の内でそう繰り返していたからだ。
残機はひとつ減ってしまうけれど、起きたら彼は生き返っている。
(大丈夫……)
そう言い聞かせていないと、実際にはいまにも発狂してしまいそうなほどぎりぎりの精神状態だった。
彼の死を無駄にしないためにも、やるべきことをやらなきゃならない。
「うぅ……」
朝陽くんだったものに震える手を伸ばし、肉塊をかき分けた。
感触を頼りに鍵を探す。
昇降口や北校舎側を調べた成果が上がっているかもしれない。
(あった……)
果たして鍵をふたつ見つけていたようだ。
血まみれで真っ赤に染まったプレートを照らすと、2年E組と1年B組のものだと分かった。
「ん……?」
血溜まりの方に向けた光が、思わぬものを照らし出した。
浮いて漂う小さな紙だ。
“日没前の夢”で見つけたメモと同じようなものかもしれない。
はっとして慌てて拾い上げる。
一部分が血に侵食されてふやけていたものの、文字は判別できた。
「“裏切り者”……?」
──びちゃっ
──ぽた……ぽた……
突如として血溜まりが跳ねて、息をのんだ。
「……!」
恐る恐る顔を上げると、化け物が悠々とこちらを見下ろしている。
滴る雫が足元の血に吸い込まれていく。
「いやっ!!」
メモを取り落とした。
立ち上がろうとしたのにうまく力が入らなくて、尻もちをついたまま必死であとずさる。
床に手をつき、床そのものを掴むみたいにして無理やり腰を浮かせた。
震えていた足がようやく平らなリノリウムを捉えてくれる。
その瞬間、ふらつきながらも駆け出した。
「……っ!」
勢いでつんのめった身体が倒れないように、数メートル先に着地する意識で速度を上げ続ける。
(やだ……! 死にたくない!)
ライトが激しく上下する。
視界が揺れて、目眩を覚えた。
東側の階段を無我夢中で駆け上がっていく。
足がもつれて何度も転びそうになった。
つまずいては段に手をつき、倒れる寸前でどうにか身体を持ち上げる。
そのたびにてのひらから電流を流されたような激痛が走るけれど、構っている余裕はなかった。
「はぁ……はぁ……っ」
息を切らせながら階段を上り続ける。
踊り場で身体を反転させるタイミングで後ろを確かめてみた。
化け物の姿はない。
だけど、確実に追ってきている。
それが分かる。
凍てついた空気が皮膚を撫で、わたしの後ろ髪を捉えて離さない。
見つかったら終わりなんだ。
どのみちワープしてくるし、撒くのは現実的じゃない。
結局は上へ逃げるしかない。
誰かが屋上の鍵を見つけてくれていることを願って────。
恐怖から涙が滲む。
惨殺された朝陽くんの姿が蘇って、意識をどろりと血が満たしていく。
「く……っ」
ローファーを脱いだのは失敗だった。
滑るし、うまく踏みしめられなくて思うように速く走れない。
最上階へたどり着く。
ドアは開いていなかった。
「そんな」
絶望的な気持ちになるけれど、崩落が始まっていない時点で半ば予想してはいた。
だけど、だからこそ誰かが鍵を見つけたら、すぐには開けずにここで待ってくれているだろうと思っていた。
そんな儚い期待は虚しくも砕け散った。
バン! とドアの窓部分に両手をつく。
その瞬間、音もなく忍び寄ってきていた死の気配に追いつかれた。
「う……ぅっ」
ずるずると身体がドアを滑り落ちていく。
真っ赤な血の跡を残しながら。
がく、と膝をついた下半身がばったりと前に倒れた。
その上にどさりと降って崩れ落ちる上半身。
切断面から何かがあふれていく奇妙な感覚を覚え、襲いかかってくる激痛に悶え苦しむ。
──ぽた……ぽた……
薄れゆく意識の中、滴る水の音を聞いた。
背後に化け物がいる。
思わず振り向きかけたとき、ぼやけたわたしの視界に予想だにしないものが映った。
(え……)
壁際に寄ってうずくまる人影。
ちょうど死角になっていて気づかなかった。
(夏樹くん……?)
膝を抱える彼と目が合う。
どうしてこんなところにいるのだろう……。
このままじゃ夏樹くんも殺されてしまう。
“逃げて”。
そう伝えようにも、既に声すら出せなくなっていた。
朦朧とする意識が霞んで、黒く染まる。
あえなくわたしは絶命した。