第6話 出会いは突然に、森を駆けて
「うわあああああ!!」
転がるように飛び出してきたのは、一人の少女だった。
肩までの栗色の髪が跳ね、土ぼこりにまみれた軽装のマントがはためいている。明るい茶色の瞳がこちらを見て、一瞬ぎょっとしたあと、ぱっと笑顔になる。年齢は自分たちと同じくらいか、少し下か。
息を荒げ、辺りを見回すが、魔物の気配がないと知ってほっと息をついた。
「あー、ありがと! いやもう、死ぬかと思ったよ。えっと……人間だよね?」
「人間のつもり。俺はシン、こっちはエラ」
「へえー、シンとエラ……あたしはリィナ! 森で化物に追われてさ、マジで怖かった~」
リィナは軽い調子で笑いながらも、一人旅の辛さを痛感した様子だ。
エラはまだ警戒を解けないまま、小さく会釈する。
「もしよかったら、一緒に行かせてもらえないかな? あたし、ちょっと野暮用で“語りの里”に行くつもりだったんだけど、道を聞けなくて迷ってたら……気づいたら森の中に入ってて。で、化物に追われて……」
「語りの里……?」
エラが首をかしげると、リィナは苦笑して肩をすくめた。
「でも、今は一度ちゃんと町に出て仕切り直したいの。……ここを出たところのリンドヴェールまでは一緒に行かせてもらえないかな? それから先は、改めて考えるつもり」
俺は少し考えるフリをする。
彼女の話が本当なら、森をこのまま一人で行かせれば危険だし、リンドヴェールまでならさほど長い旅でもない。
エラは不安そうに俺を見上げるが、俺は肩をすくめて「まあ、三人なら安全だろう」と答えた。
「……いいよ。リンドヴェールまでなら、俺たちもそのつもりだし。一緒に行こうか」
「助かる! あたし、正直もう一度森で死にかけるのは勘弁なんだ」
俺は内心“還り人”の正体を隠しつつ同行するリスクを思いながらも、今はこの選択がベストだと判断した。
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森の中を慎重に進み、ようやく出口が見え始めたころ、リィナが少し息を弾ませて振り返る。
「ほんとにありがと、二人とも。あたし一人だったら・・・ぞっとするよ。一緒に行かせてくれて本当にありがとう」
エラは首を横に振り、「ううん、今は安全に動くほうが大事だし」と返事をする。リィナはホッとしたように「だよねえ」と笑みを浮かべる。
俺は二人を見つめながら、森での戦闘を思い返す。
まったく手こずらないほどの力を持つ自分と、還り人という存在。
もしリィナが“語りの里”で何かを掴んだら、俺が“還り人”だと気づいてしまうかもしれない……。胸に小さな波紋が広がる。
「……とにかく、ここを出たらすぐ草原だろう。急いでリンドヴェールに向かおう。そこでまた考えればいい」
そう言うと、リィナとエラが「うん!」と声を揃える。
森の暗がりを抜け、射し込む日の光に目を細めながら、三人は新たな一歩を踏み出した。