第57話 湯けむり三人娘
◆ 女子湯
湯殿に入った瞬間、エラの目が輝いた。
「わぁ〜! 大きなお風呂だぁ!」
岩造りの浴槽からは白い湯気がもうもうと立ちのぼり、ほんのり硫黄の香りが漂っている。
リィナは胸元をタオルで押さえ、少し居心地悪そうに立ち尽くした。
「ひ、人がいないのに……なんだか恥ずかしい」
「なに言ってんの。どうせ女同士でしょ?」
ソフィは平然と髪をまとめ上げる。けれど耳の先はほんのり赤い。
三人が湯に入ると、エラが隣を見て首をかしげる。
「ねえ、リィナって……意外と胸あるよね」
「ぶっ――な、なにいきなり言ってんのよ!」
リィナは顔を真っ赤にしてタオルを抱きしめる。
「ちょっと、そういうのを比べるなっての!」
ソフィがむすっとした顔で言い返す。
「えへへ、でも3人で並ぶと、それぞれ違って面白いなって」
「……面白くないわよ!」
「もう、エラって悪気なく爆弾投げるよね……」
リィナは湯に沈みながら、小さく呟いた。
しばらく笑いと悲鳴が入り混じったあと、ようやく三人は肩を並べ、湯に浸かって深い息をついた。
「……でも、いいね。こうしてみんなで入るの」
リィナがぽつりと言うと、ソフィも頬を赤らめながら視線を逸らす。
「ま、悪くないわね……こういうのも」
「うん……あったかい」
エラが幸せそうに微笑んだ。
湯気の向こう、三人の笑い声が夜の浴場に広がっていった。
◆ 男子湯
同じ頃、男湯。
岩風呂に肩まで浸かり、俺とレオンは湯気に包まれていた。
「……っはぁぁぁ、生き返るなぁ!」
レオンは豪快に湯に沈み、腕を広げて大きく息を吐く。
「……元気だな、レオンは」
思わず笑みが漏れる。
「いいだろ別に! こんな温泉、そうそう入れるもんじゃねぇ」
そう言って耳を澄ましたレオンが、にやりと口角を上げた。
「なぁシン……向こうから声が聞こえねぇか?」
「気のせいだ」
「いや、絶対だって! ……よし、ここから!」
レオンは湯縁に手をかけ、壁によじ登りはじめた。
「おい、やめろって!」
俺は慌てて足を引っ張る。
「ちょっと覗くだけだって!」
「ちょっとでも駄目だ!」
揉み合いの末、レオンがバランスを崩す。
どん、と二人まとめて湯に倒れ込み、仕切り壁ががたりと音を立てた。
――がたりんっ!
板が外れ、女湯との仕切りが崩れ落ちる。
もわっと湯気が流れ込み、女湯の光景が視界に広がった。
三人のシルエットがくっきりと――。
「きゃあああああっ!!」
ソフィの悲鳴。リィナはタオルを掻き寄せ、エラは目をまんまるにして立ち尽くす。
「お、おおお……」
呆然と固まるレオン。
俺は慌てて視線を逸らした、その瞬間――。
桶が飛来してレオンの顔面に直撃。
「ぶへっ!?」
さらに飛んできた石鹸が俺の頭にも当たり、思わずよろけた。
「ちょ、待て! 俺は覗いてない!」
「言い訳しないでっ!」
女湯からの怒号を背に、俺は深くため息をついた。
◆ 風呂上がり
湯から上がって廊下に出ると、ノイルが腕を組んで待ち構えていた。
「……やってくれましたね」
低い声に、俺もレオンも同時に肩をすくめた。
「ち、違うんだノイル! 俺は止めただけで――」
「俺だって、ほんのちょっと覗こうとしただけで――」
「“ちょっと”でも駄目です!」
ノイルの鋭い視線に、レオンは縮こまり、俺は頭を抱えた。
「それに、壁まで壊すなんて……修繕はどうするおつもりです?」
「そ、それは……」
レオンが目を泳がせる。
「明日、二人で直していただきます。もちろん材料運びから全部です」
きっぱりと言われ、俺とレオンは同時にうなだれた。
「……癒やされるどころじゃなかったな」
「なぁシン……でも、得したろ?」
「……まぁ、そうだな」
男の友情が少し芽生えた気がした




