第一章8話 『店先の大乱闘』
いつもの光景。
マルコが料理を作っていて、ルミナさんがその補助やら手伝い。
エレナと俺が皿洗いや接客……ん?
何かがおかしいような……
「なんだかお客さんが少ないですね」
確かに、でもその分仕事も減るんだしたまにはいいだろう。
「お客さんが来るまで雑談でも」
ドッカ―――ン
店の前で爆発音、スイングドアが強風で開いている。
「な、何があったのでしょう……!」
外には砂煙、嫌な予感しかしないが走って外に向かう。
「どうした!っておい、お前ら何やってんだ?」
「フレイムバースト!」
カリンが手を突き出して物騒な詠唱を唱える。
途端にアリシアの目の前で爆発する。それを上に飛んで避ける。
その勢いのままカリンに飛びかかろうとしている。
「待ったぁぁぁ!」
ススムの声でアリシアがすぐさま引く。
「何よ、邪魔しないでもらえるかしら」
「もう少しで一刀両断できていたぞ!」
いかん、こいつら問題児過ぎるだろ。
何がどうなったら急に店の前で爆発騒ぎが起こせるんだよ。
この現場を取り囲むように人だかりができている。
「やめ」
「はぁぁぁぁぁ!」
「はぁぁぁぁぁ!」
ススムの声をかき消すように二人が叫びだす。
互いにとっておきの攻撃を繰り出そうと構えている。
「二人とも……」
エレナの不安そうな顔、こんな顔のエレナを見るのは初めてだ。
「お前らいい加減にしろよ!おかげでお客さん来ねぇじゃねぇか!」
俺の声は全く聞こえていない。
っとその瞬間、構えが一瞬にして崩れる。
攻撃が始まった証。
アリシアが一直線にカリンに向けて突っ込む。
カリンはいつでも爆発が起こせる、というような様子。
このままでは大変なことになってしまうぞ……誰か!
「おいおい、お前ら何やってんの?」
爆発と剣がぶつかり合おうとしていた瞬間だ。
その間に一人の男が立っていた。
「マルコ!」
マルコは片手で剣を、片手でカリンの手を掴んでいた。
この一瞬で分かる圧倒的な実力。
いったい何者なんだ、あのおっさんは。
「あ、あんたはここの店長……さんですわね」
「いったい何者なんだあなたは!」
戦っていた二人は唖然として戦う意欲をなくしている。
「お前ら、二人だけずるいじゃねぇか!俺も混ぜろよ!」
「あ?」
このおっさん何言ってんの?
だめだこりゃ、ここにはまともな人がいませーん。
「よーし、じゃあ俺たちは店の中で雑談でもしていようねーエレナ」
「マルコさん……」
もうこやつらのことはほっておいて、俺は店の中でゆっくりさせてもらおう。
「エレナ?」
「マルコさん戦う見たい!」
「げっ、嘘っしょ………」
あかんあかんあきまへんわ、こりゃどないしましょ。
エレナさん興奮しすぎて言葉が変になってるし。
「おぉーやってるやってる、今どっちが勝ってんだ?」
暴力女ルミナが暴力の現場に来ました。
「まだ始まってないのでどうか止めていただいたりとか……」
「あたしも混ぜな!」
はーい分かってましたー。うんうん、行ってらっしゃーい。
マルコが参戦して以来静かにとどまっていた戦場だが、ルミナがマルコに先制攻撃を仕掛けると同時に動き出す。
構図は3対1、魔王対勇者パーティみたいに見える。
それくらいマルコの威圧感が凄まじい。
「ほいっほいっほーい」
ん?手品のように一人ずつ気絶させられていく。
速いかつ滑らかな身のこなしで、首の後ろをポンっと。
「はっはっはー!見たか!このすんばらしい身のこなし!」
周りの人々が歓声と共に拍手。
「マルコさん強い戦いかっこいいっ……」
「いやいやエレナ何言ってんの!」
興奮したらまともに話せない少女はそれで可愛いけども
それにしても強すぎるマルコ。料理がすごいだけの人ではない、何か隠しているのだろう。
元軍人?もしくは勇者の仲間的な?あり得る……これはますますファンタジーだな。
「それじゃあ俺は料理をしてくる、こいつらは頼んだぞ」
「へいへい……」
なんで俺が、と言おうとしたが目の前の死体もどきになりたくないので返事だけする。
それからはエレナと協力して三人を店の中に連れていった。
飲食店で看病のお仕事とはたまったもんじゃない。
もっと違う意味で刺激的な日常を送りたかったもんだ……
「いってって、さすがに勝てなかったか」
「ルミナ姉様、大丈夫ですか?」
最初にルミナが起きた。
「心配いらないよエレナ、あたしは仕事に戻るとするよ」
おそらくマルコの強さに関してはルミナがこの店で一番よく知っているだろう。
「ルミナさん、なんでマルコさんはあんなに強いんですか?」
「あのおっさんはあたしがここに来る前から強かったらしい、だから知らねぇよ」
つまりマルコさんはこのお店を始める前に戦う系のことをしていたのだろう。
ますます謎が深まるマルコさん……
「こいつらが起きたら仕事をしっかり叩き込んでおきな」
こいつらとは新人二人だ。ルミナは腰をさすりながら仕事に取り掛かる。
ほんと俺は何してんだか。
もし魔王とかいたら、勇者になって、ちやほやされて、ヒロインとの恋があって
そんな異世界生活を期待していたんだが。
「んんっ、ここは……」
「私は一体どうなって……」
問題児二人が目覚める。ずっと寝ててもらってよかったのだが。
「お前らやってくれたなぁ問題児どもめ」
「ギクッ」
「ギクッ」
二人とも説教だ。もうこれ以上余計な問題を起こしてもらっては困るのだ。
その後は二人がしょんぼりするほど説教してやった。
「わかったな!お前ら!」
「はーい」
二人が返事をする。
「エレナからも何か言ってやって……て寝てるし!」
エレナはススムの横で説教を見ていたが、いつの間にか立ったまま寝ていた。
「立ったまま寝るって、器用だなーお嬢様は……」
怒られてしょんぼりしている二人、立ったまま寝ている可愛い少女。
そこには味わったことのないような歪な空気が漂っているのであった。
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