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テンプレ騎士 番外編  作者: ぽむぽむ
3/3

番外編 《幕外》 1 Anc ieu not I'aic, mas elha m'a  ーダニエルとサンチョの場合 ※再録(2024年07月30日、本編搭載後、削除済み)

※2024年7月30日、本編搭載後、削除済みの作品を番外編としてまとめ直し再録させていただきました。


この番外編はこの物語の上で書くことのない、ダニエルとサンチョのいわばスピンオフの様なものとなります。

(ep12)二一11話 でのダニエルとサンチョの出会いのシーンとなります。


 広大な大地を分断するようにそびえるピレーネ山脈。

その山肌を紫紺に染めあげ訪れる峠の夜は早い。

 峠に訪れた者を癒やすロンセスバージェスの町の教会に植えられた、外界よりも一足遅くれて咲く花々は、開いた花びらを再び固く閉じ、光のぬくもりを感じるまで眠り始める。


 その教会の一室の書物に囲まれた机から、男がのっそりと顔を上げる。

小さな木戸の隙間からかすかに聞こえる美しい旋律。

リュートの奏でる音色に乗って伸びやかに、つややかに響く声色。

男はその音に惹きつけられるように立ち上がると、開いた本もそのままに部屋から出ていった。




 近年盛んになったサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の道の最大の難所となるピレーネ山脈の峰にあるロンセスバージェスの町。

巡礼は王族から貴族までの間でも盛んになり、巡礼の道は激しい道のりでも人がたえなかった。

 この町の教会近くの宿屋も巡礼の騎士が訪れる事も多い。

しかし騎士達は傲慢で乱暴な者が多く、村の者達や訪れる名も無い巡礼者などは、彼らを激昂させぬように腰を低く接し、あるいは遠巻きにして接触せぬように過ごすのだった。


 そんな宿屋にやって来た騎士の一団は、気安く話しかけやすく、食堂では彼らの持つ楽器でリクエストに答えての演奏会が繰り広げられていた。


この演奏会のそもそもの始まりは、リシャールと呼ばれている強面の大男の一言から始まった。


「おい、ダニエル! お前一曲なんか楽しいやつ弾いてくれよ! おう、お前らもききたいよなぁ? 」


リシャールは違うテーブルで食事やエールを飲む巡礼者や旅人達に大きな口を開けて笑いながら話しかける。

そんな彼の笑顔に皆、引っ張られるようにエールを掲げて同意を示す。


 ダニエルはため息をつくと、リュートを引張出す。

リシャールに言われれば断るわけにはいかない。

 ダニエルの旅は、王族であるリシャールの懐を期待して帯同しているのだ。 

誘惑して不貞行為をさせたと追い出された宮廷では、手切れ金はもらったものの使えば減る。

ミドゥーズ川をわたってバイヨンヌに向かう船の上で彼を見つけた時は、懐かしさもあったが、帯同することで旅を円滑に進める狙いで歓喜したのもあった。

それだけに理不尽な要求であっても譲歩しなければならなかった。


一曲演奏が終わると、巡礼者たちにもう一曲と頼まれる。

渋るっていると、リシャールが煽るように大声を出す。


「おいおい。随分えらくなったんだなぁ、ダニエル様はよぉ。昔は小さな声で何喋ってるかわかんねぇくらいだったのによぉ。」


 師匠について演奏の旅にまわり、たどり着いたのがピュルテジュネ家のエレノア王妃の元だった。

悪童だった息子リシャールとその妹のジョーンと過ごす数年間は、大変だったが今思っても悪夢でしかない。

けれどもリシャールも大人になり、恋人もでき、随分といい顔になっていると思っていたが、やはり悪童の成り果ては悪魔でしかないようだ。


ため息をつくと、ダニエルはリュートを構え弦を弾き声を乗せた。





「あ! こら、リシャール! どこ行くんだよ! 」


ダニエルはを途中で止めると、フラフラと扉を開けるリシャールに叫ぶ。


何曲弾いただろうか、すっかり宿屋は演奏会となってしまっている。

仲間達は、自分を置いて早々に2階に行きはじめ、心根の優しい友人もすっかり酔い始め他の客たちと嬉しそうに踊っている。

その脇を恋人のジャンが二人分の外套を持って急いで駆けていく。

去り際に後は任せたと言っているが、何を任せるだ。


「お前ら、酷いぞ! 」


無駄だとは思いながらも抗議の声を上げるが、聴衆の求める声に聞こえたかは定かではなかった。

ダニエルが渋々演奏していると、そのうち1人のひつこい酔っ払いが彼に絡みはじめた。

演奏するダニエルのブロンドの髪に触れたり、大理石の様な白い肌に鼻を近づけると肩に腕を絡ませたりし始めた。

ダニエルは自分の容姿が優れているのを自覚しているので、この様な経験には慣れている。


「もう、勘弁してよ。じゅうぶんだろ? 」

「えー。もっとローランの詩きかせてくれよ。」

「さっきから同じ曲ばっかりじゃん。しかも、そんなに近づいたら演奏できねぇよ。ほら、離れろよ。オレもう疲れた。腹もいっぱいだし。」


ダニエルはリュートを片手に席を立つ。

それに追いすがるように酔っ払った男が絡みついてくるのをやんわりと振り払おうとしたとき、絡んでくる男の腕を掴んだ者がいた。


「酔い過ぎだ。」

「なんだ? このやろ・・・。」


酔っ払いが剣呑な雰囲気で腕を掴む男を振り返り、そのまま固まった。

大きなくまのような男が酔っ払いを上から見下ろしていたからだ。


「・・・あ・・・。すま・・ん。・・・そ・・・うだな。ちょっと飲み過ぎた・・・かな? 」


酔っ払いはヘラヘラと笑いながら後退りし、そのままそそくさと店の外へと逃げるように出ていった。

それを確認しながら、くまのような男はダニエルをちらりと見ると黙ってまた自分が座っていた席にもどっていった。

ダニエルはリュートをしまい、他の客のお礼に笑顔で答えながらがクマの側に近づくと、声をかけた。


「兄さん。ありがとう。なぁ、お礼に一杯、奢らせてくれよ。」


そういいながらダニエルは持ってきたカップをクマの眼の前に置くと、ストンと横に座った。


「大した事ではない。」


そう言うと、クマは置いたカップを手にする。


「この村の人? 巡礼者ではなさそうだよな。」

「ああ、そこの教会の書庫で少し調べ物をしていた。」

「ふーん。・・・ひょっとしてナバラの貴族? 」

「? なぜわかった? 」


クマはカップを眺めながら答えていたが、驚いたようにダニエルの顔を見る。

ダニエルは整った顔でにかっと笑うと、キラキラとした黒い瞳を大きくする。


「はは。当たりだ。オレ、トルバドールだからね。王宮には詳しいんだよ。育ちが良さそうでまじめくさった所が貴族の長男っぽい。」


まるで魔術で魅了された様な感覚を覚えながら、クマはその瞳に囚われていたが、赤くなる頬を自覚すると、再びカップに目を落とし、誤魔化す様に口を開いた。


「・・・そうか。しかし、おれはこの図体なのに、本ばかり読んで情けがないと言われるんだ。アクテヌ公国のリシャール王子のように、馬を駆けさせ剣を振るい詩を歌うのが男の努めだと・・・。」

「オレはそうとは思わないけどな。」


クマは少しびっくりした顔をして再びダニエルを見る。


「確かに武勇優れてるのは良いけど、結局は城にいて領地を収めなければならないだろ? それなら、たくさんいろんな事を本から吸収しているほうが良いんじゃないのか? それだけ体がしっかりしていたら、別に鍛えなくても強そうだし。」


そう言うとダニエルはクマの肩をポンポンと叩く。


「オレはこんなだから、お前みたいに屈強になりたかったよ。」

「そうか。じゃ、オレは得してるのか。」


真面目くさった顔でそうつぶやくクマの顔を見て、ダニエルはクスクスと笑う。


「なぜ笑う? 」

「いや。前向きで良いなって思ってな。」

「・・・お前も、そうやって笑ったほうが良い。作り笑いは疲れるだろう? 」


ダニエルは少し驚いた顔をして動きを止めた。


「では、オレはこのくらいで帰る。実はお前のうたにつられて来たんだ。とても美しくて、引き寄せられた。だから、助けたのは演奏料だ。次はオレに奢らせてくれ。」


そう言い残すと、クマは店を出ていった。

ダニエルはクマの去っていった扉を眺めながら、呆れたようにこぼす。


「次って、あいつ自分の名前も告げてねぇし、オレの名前も聞いてないだろ。どうやって会うんだよ。」


ダニエルは残りのエールを飲み干すと、席を立つ。

明日は早朝から出発だと言っていた。


「・・・次・・・か。」


2階の部屋に上がりながら、ふっと、クマの恥ずかしそうな顔が浮かび、再びクスクスと笑う自分に気がつく。

手の平で顔を抑えしばらく静止すると、次の瞬間にはいつもの顔に戻り、ダニエルはフラフラと陽気に仲間の居る部屋へと入っていった。



END

タイトル名はオック語(多分?)で表記しており、昔のトルバドールの詩の題名をそのまま引用しています。


この番外編は『テンプレ転移した世界でロマンスに目指す騎士ライフ』の物語の上では書くことのない、ダニエルとサンチョのいわばスピンオフの様なものとなります。

いつか書きたいと思ってたストックをここで消化してしまいました。時間軸があるのでまだまだ書けないのですが、いつか続きを書きたいお話だと思っています。



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