番外編 《幕間》 1 月夜抱いて
こちらはBL作品で
《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ
の6話の番外編になります。
ーーー私は磨き続けて清らかになる*¹
何しろ仕えるあの方は誰より高貴
世界の誰より・・・
行きつけの宿屋の階段を、酒でいい頃合いに揺れる巨体に悲鳴を上げているかのように、ギシギシと鳴る踏み板のリズムに合わせて鼻歌を歌いながら、リシャールは荷物を持って登っている。
荷物の持ち主は、先程まで一緒に飲んでいた青年の荷物だ。
塀を飛び越え脱走し、久々に自由な身となったリシャールの前で、大きな瞳をパチクリとさせながら、剣を盗むでもなく、遠慮がちに抱える彼の手を、なぜか引っ張って連れてきてしまったが、そのお陰で楽しい酒を飲むことができた。
楽しそうに笑いながら相槌を打つ彼に、ついつい調子に乗ってしまい酒を勧めすぎたようで、歩けぬ彼を二階の部屋まで連れて行き、更に荷物も運んでやっているのだ。
少し申し訳ないと思ったのか、それとも今夜の金蔓だからなのか、リシャールにしては珍しく面倒見が良かった。
階段を上り終えた頃、機嫌の良い鼻歌の後を追うように、確かな旋律で刻まれる美しい歌声が聞こえる。
頭からつま先まで*¹
私はあの方のもの
たとえ寒風吹きすさぶとも
愛の雨はこの胸の内に注ぎ
温めてくれる
極寒の冬にさえ・・・
それは先ほど、運び込んだジャンと名乗った青年の部屋から聞こえていた。
確かに2度ほど歌ったが、それでもダニエルの作った曲をあの様に短時間で歌い上げる事はそう容易くはない。
もう一度聞けるかと部屋の前で待ってみたが、何やら独り事と共に窓を開ける音がした。
なんだ、もう歌わないのか・・・と、少しがっかりしながら、リシャールは部屋の扉に手をかけた。
「おい、荷物・・・」
少し乱暴に扉を開けてしまい、その音に驚いたジャンがベットに躓いてよろける。
「おいおい、大丈夫か? 」
リシャールは慌てて転ぶのを支えようと手を伸ばすが、ジャンはよろめきながらも窓に手をついてどうにか自分で体を支えた。
「えへへ、だいじょう・・・。」
恥ずかしげにリシャールを振り向くジャンだが、羽織っていた服がスルリと肩から滑り床にパサリと落ちてしまった。
「・・・あー・・はずかしぬぅぅ・・・」
そう言いながら顔を隠すジャンの火照った肌は、月明かりを反射して滑らかに美しく輝いた。
・・・いつだったか、ローマで見た彫刻の様だな・・・
背中でパタンとなる扉の音を合図に、激しく打ち鳴らす血管の音で、ジャンが慌ててなにか話していたのだが、うまく聞き取れない。
・・・赤らめる表情も、美しいな・・・
その思考を最後に、リシャールは本能が赴くままに身を任せ肩に触れ、優しくジャンの手首を掴む。
その柔らかな唇を確認する様に親指でなぞると、今度は自らの唇でその柔らかさを確認してゆくのだった。
激重溺愛攻めリシャールなんですが。なんだか描ききれていない気がしています。
*¹フランシス ギース『中世ヨーロッパの騎士』より