第7話~デート2~
ここを田舎と言われて、騒然だったが、そこは気にしないようにしようとオレは決意した。それならだ都会の一等地などどうなるのだろうか、それこそ異世界だろうか……。オレはマンガは好きだ。でも、異世界転生や異世界転移が流行っているライトノベルは少し苦手だ。あくまでも、個人的見解なのだが、サーっと気軽に30分あれば1巻は読めるのがマンガで、ゆっくり細かな描写を文字のみで表現しているのがライトノベルだと思っている。
「さて、蒼空先輩、今からあの大型商業施設に行きます」
「結構遠いな」
「歩いてすぐですよ? 5分もかかりませんよ?」
実際、歩いてみると、体感で5分もなかった。この体感5分が長いような気もしたが、一瞬に感じたりもした。それは、アリイちゃんこと山下 美波が色々話してくれていたからだし、階段の昇り降りが多くて、『ヒーヒー』言っているオレにアリイちゃんが笑顔で手を引っ張ってくれたからでもある。アリイちゃんの手、柔らかかったなぁと思い返していると、オレの中にある言葉がよぎった。なんだか、これは……。ふと頭によぎったデート、この3文字を頭を振って、頭からいったん意識の外へと持っていった。その頭を左右に振る様子を見たアリイちゃんが不思議そうな顔をした。
「どうしました? 蒼空先輩」
「いや、なんでもないよ」
もともと、女の子への耐性の薄いオレのことだ、今、表情が死んでいることだろう。いや、顔が死んでるのは、運動不足もあるかもしれないけども。本来、『グイグイ』来られるのは苦手だ。でも、アリイちゃんの『グイグイ』はなんだか心地いい。もしかして、オレ、ドMなのだろうか……。それともいつの間にか嗜好が変わったのだろうか……。確実に恋愛で会ったり、友だちとしての『好き』という好意ではなく、転校生だから『後輩のセンパイ』という謎のイジリができるから、今回のように誘ってくれるんだろう。今後もこういうことがあったらいいなぁ。……、何思ってるんだ。オレは。やはり、オレにはぼっちが似合う。ぼっちこそが至高なのだ。
大型商業施設、『さんくゆー』は、100円均一や300円均一をはじめ、うどんやつけ麺などの麺類のリーズナブルなフードコートに庶民の味方の洋服屋からブランドショップに格安スマホショップ、もちろん大手3大スマホキャリアのショップもある。ここに来ればなんでも揃う気がした。あと、ゲームセンターもありそうだ。ゲームセンターはあまり行きたくないなぁ。有り金はたきそうだし、最近のゲームセンターは交通系電子マネーでも支払えるからそれも溶かしてしまいそうだ。
「この『サンキュー』に来れば、なんでも揃いそうな気がする」
「蒼空先輩、ここは、『さんくゆー』ですよ? 英語の『サンキュー』とはスペルも意味も一緒ですけど、施設名は別ですよ? 確かに、お取り寄せとかもできるし。あー、でも、集合場所のショッピングモールも負けじとすごいですよ。ここにはなくてあそこにあるものがある。それは映画館です!! まぁ、ここもあっちも、この世のものなら大抵、お取り寄せしなくても買えますね。絶版とかしてなければですけど」
「この世でないものとかあるのか?」
「ってツッコむところはそこだけど、そこじゃないの!!」
「どこなんだよ!!」
「この世のものではない? お前は何者だ!? とかあるじゃないですか」
「アリイちゃん、マンガとかラノベとか好きでしょ?」
「え、あ、はい、大好きです!!」
オレは、アリイちゃんが言った、『大好きです』に一瞬オレのことかと思ってしまった。アリイちゃんが大好きなのは、『マンガやラノベ』なのだ。断じて、オレのことではない。おさまれ、自意識過剰よ。
「ど……んなのが好きなの?」
「わたしは、異世界から敵が攻めてくるタイプなのが好きですね。で、今のオススメは……あぁ、この話をすると長くなりますから、本屋へ行きましょう!!」
「本屋かぁ、ちょうど見てみたい雑誌もあるしいっか」
苦し紛れに見てみたい雑誌があると言ったものの、実際、メンズファッション誌など雑誌の類は手に取ったことがない。強いて言うなら、『1日100膳』の載っている少年誌は一時期、買っていた。いや、まぁ、『1日100膳』が目的ではなく、別のマンガが目的だったし、その頃はまだ週刊誌だった。大人の事情があり、月刊誌に変わった。月刊誌になった途端に、人気のあったマンガは軒並み打ち切りとなった。その後しばらくして、急に『1日100膳』の連載が始まった。それ以降、オレはマンガは5の倍数巻販売されてから、5巻ずつ買うようになった。本屋に着いた。アリイちゃんは一目散にメンズファッション雑誌コーナーに向かった。普通に足早いな。バスの移動中に、『美術部はよかったの?』と聞いたら、『わたし、帰宅部ですよ。蒼空先輩と出会った時に、美術室にいたのは、夏休みの美術の宿題、色の仕上げだけ忘れてたんです』と言われたのをふと思い出した。肝心な話だと思うのだが、なぜ、美術部でないのに美術室でパレットと水入れを持って廊下に出てきたのかも聞いたが、思い出せなかった。
「欲しい雑誌はなんていうのですか? 一緒に探しますよ」
「月刊B16-シックスティーン ボーイズ-だね。15、16歳向きのメンズファッション誌で、確か、今月号の表紙が、同じ高校の生徒とちろっとウワサ程度で聞いて表紙だけでも見たいなぁと」
「男の子向けのシックスティーンですかね? というかうちの学校にそんな美形いましたっけ?」
「15、16歳だからいるとしたら、アリイちゃんの学年だろうなぁ。まぁ、内容はそんな感じだろうなぁ」
本屋で雑誌コーナーにポツンと置かれていた月刊B16がアリイちゃんの働きで見つかった。アリイちゃんが表紙を見て表情を一瞬で変えた。なにかあるのだろうか……。ここは友だちとして……、というか、まかりなりにも年齢はオレのほうが上なんだし、相談乗ろうか。
「アリイちゃん、どうしたの? この表紙見た瞬間、表情変えたけど」
「あ、え、あはは」
これはなにか深刻な事態っぽい。どうしよう、手に負えなかったら……。ふと、店外に目をやると、そこにあったのはカフェだ。コンカフェなどではなく、純喫茶というか古き良き昭和の名残を思わせる喫茶店だ。
「ここ出て、あの喫茶店で話聞こうか……?」
バッとアリイちゃんが手を差し出した。ん? と思ったが、手をつなぎたいなどではなく、おそらく、『後で話を聞く約束してほしい』という握手を求めているんだろう。その握手に応えた。しかし、アリイちゃんの表情がさらに曇った。アリイちゃんが小さな声で、『バカッ』と言っていた。きっと、この表紙の人物に対してだろう。長い握手の後、笑顔に戻って手を繋いだまま、少年マンガの区画に誘導された。笑顔に戻ったなら、それでいいか。さっきから、なんだか、オレの中によぎる邪な『恋人のよう』だということを考えずにはいられない。
「それじゃ、わたしのオススメをば……」
「格助詞!?」
「さすがは、蒼空先輩!! 古典は得意なようで」
「残念、古典は1番苦手だ、国語系統で」
その流れで『神サラサラにします』という他のマンガよりも小さめの謎にライトノベルのようなサイズのマンガを勧められた。『神サラサラにします』はけっこう人気作らしく、23巻まで出ていた。アリイちゃんが自身のサラサラしてそうなきれいな髪の毛を手櫛でふわっとしてタイトルコールをした。もしかして、アニメ化するなら主演声優目指してる……? 1巻を手に取ってみると、主人公の女の子は少しアリイちゃんとどことなく似ている気がする。というか少年マンガで女の子が主人公って珍しいな。多様性を目指すこの時代、今後、そういうマンガが増えるのか……?
「神サラサラにします?」