第33話~高校卒業~
「失礼します」
今日はオレの初バイト面接だ。近所のスーパーでバイトしようと思っている。
後日、電話があり、オレは近所のスーパーのレジ打ち係で採用された。
「おはようございます」
「あ、キミが新人の三条くんかぁ。おはよう」
「えっと……」
「あぁ、名前? 猫眼だよ、猫眼 莉央」
「よろしくお願いします、猫眼先輩!!」
「まぁ新人教育任されてるけど、あたしもバイトだからね」
「え、バイトで新人教育任されるってすごくないですか?」
「まぁ、他のとこだったらすごいんだろうけど、ここは社員がやる気ないからねぇ。ポップ作るのも、タイムカード管理も全部バイトがやってるよ」
「え」
そのあと、このレジ打ちの仕方を教えてもらった。そういや、確かに、名目上はまだ高校3年生のオレを雇って即戦力なのもどうかとも思う。即戦力というのは、指導係が横にいなくて、1回教わった直後に最初から1人で接客するよう指示を受けている。
初日は昼休憩が猫眼先輩と被った。
「三条くん、飲み込み早くて助かるわ」
「いやぁ、スーパーのレジ打ちやってみたかったんです」
「じゃ、夢は叶えたの?」
『夢』と言われて、高校2年生の時に、学校の先生になりたいと美波に語ったことを思い出した。
「まぁ、目標の一つは叶えたって感じで、夢とまではいかないですね」
昼休憩を終えて、その後もバイトに励んだ。学校は3学期と言うか卒業式も終えて、大学生になる寸前だ。大学の資金は両親も協力的である程度は出してくれたが、やはり、今後を考えると自分でも稼がないといけない。
3月も下旬だ。なんと、猫眼先輩が、やっと、内定を貰えて、来月から社会人となることになった。猫眼先輩は大学にある求人ではなく、ハローワークの求人に応募して採用されたらしい。ブラック企業でなかったらいいんだけど。
今日は猫眼先輩の送別会。オレはギリギリだけども、名目上はまだ高校生なので、お酒の席になると思ったので、送別会は断るつもりでいた。実際、社員や他のバイトの人から誘われた時は断っていた、しかし、
「三条くんはあたしの送別会来てくれないの?」
猫眼先輩のホントに猫のような眼でうるうる訴えられた。
「猫眼先輩にお世話になったんで、行きますか。でも、お酒は飲みませんよ」
そんな流れで、猫眼先輩の送別会には参加した。しかし、お酒の席の空気が合わずにオレはすぐお店の外に出て行った。その様子を見てか見ずにかはわからないが、猫眼先輩がしばらくして追いかけてきた。
「や、三条くん!!」
「あっ、猫眼先輩、すいません、ボク、お酒の席は初めてで」
「まぁ、まだ高校3年生と大学1年生の中間だもんね。でも、これが大人になるってことなんだなぁ」
「そうですよねぇ」
「三条くんは大学で何学びたいの?」
「オレは学校の先生になりたいんで、教育学を学びたいですね」
「そっか、三条くんならきっといい先生になれるよ」
「ですかねぇ、お先のことはわからないです」
「ハハッ、あたしも。来月からの社会人生活心配だなぁ」
「猫眼先輩は、近くの会社に就職するんですよね」
「そうだね」
「猫眼先輩ともお別れかぁ。なんか1ヶ月もお世話になってないですけど、すごく濃ゆい時間でしたねぇ」
「三条くん、口元にお米ついてるよ」
お米なんて今日食べただろうか……と思って口元を触ろうとした。
「ちょっと待って」
待つって何をだろうか……。そんなことを考えていると、キスされた。
「猫眼先輩? お酒酔ってるからってしていいこととダメなことがありますよ」
「へへっ、あたし、今日はまだ一滴もお酒飲んでないよ? シラフだよ」
「え」
「本気なんだ、三条くんのことが好きなんだ。あたしは、送別会に戻るよ、主役がいなくっちゃね。これの答えは、送別会終わったら聞かせてね、絶対だよ」
……、猫眼先輩がオレが好き? いやいや、これは絶対からかわれている。というか、オレには美波という彼女がいるし。
何はともあれ、返事はNoだ。でも、美波にはこの報告しないと、また誤解が生まれてすれ違うのだけはごめんだ。美波に電話をかけた。
「はい、蒼空くん、どうしたの?」
「美波、ごめん、ほんと、ごめん」
「どうしたの?」
「今さ、バイト先の先輩の送別会なんだけどさ、先輩から告白されて、キスされたんだ」
「そっか、わたしを振るんだね」
「違う!! オレの気持ちはずっと、高校2年の秋から変わってない!! 美波が好きだ!! でも、また誤解がうまれて、すれ違うのだけは嫌だから、伝えたんだ。愛してるよ、美波」
「ありがとう」
そして、美波との電話はそこで終わった。オレはこのあと、お世話になった猫眼先輩からの告白を振らないといけない。
「猫眼ちゃん、社会人なってもしっかりな!!」
「はい!!」
同じスーパーのバイトの先輩や社員さん達が帰っていく。
「三条くん……」
「猫眼先輩、ホントにお世話になりました!!」
「そっか、あたし、三条くんに振られたのか。それはどうして?」
「ボクには、高校2年生の時からの彼女がいて……」
「あたし、別に2番目の女でもいいよ?」
「それは美波に申し訳ないし、何より猫眼先輩にも悪いんです!!」
「じゃ、お別れに一発……」
「馬鹿なこと言わないでください」
「そっか、マジメだねぇ、三条くん、ま、あたしは三条くんそういうところが好きだったよ」




