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ありし夢の空ver2  作者: きゃっくん【小奏潤】
第1章~プロローグ~
3/33

第3話~後輩~

 放課後。


 2学期の初日から授業があった。……、といっても、夏休みの宿題の解説だったけども。転校してすぐで教科書は注文中のオレからしたら、転校してきたその日の授業で横の希咲さんに『見して』とは頼みにく…、頼めるよなぁ、あのヒミコさんだし。そう、Togetherのフォロワーだし、下手したら親友になれそうな予感のするクラスメイトだし。明日からもう普通に授業だし、教科書とかどうしようと考えていた。


 授業が6時間、みっちり終わった後にオレは校内を散歩しようと思った。だいたいの授業が、夏休みの課題の解説だった。あれ? 1学期の足らなかった授業数の補充分だったのでは? 


 もし、明日から特別教室で授業があると言われても……、いや、待てよ? 2学期なんだから、特別教室の授業なら暗黙の了解でわかってるから、わざわざ教科担当の先生が呼びに来ることもない。しかも、1年生ならまだしも、オレは2年生だ、しかも、高校生。しっかり、自立しないといけない。くそぅ、ここでぼっち飯は諦めねばならないのかもしれない……。周りの男子や女子と仲良く陽の者のように、みんなとキャッキャッしないといけないのか……。下手したら地獄だ。


 そこに母さんから『教科書が届いた』とだけWIREが届いた。声に出して、つい送ってしまう言葉ナンバーワンの『了解』と返信だけした。母さん、前の賃貸の時は、父さんが単身赴任でこっちにいたので、働いていたが、大阪に来てからは専業主婦を極めている。そのため、今日、宅配便で教科書が届いたのがわかったのだろう。



 校内の散歩をはじめた。まずは、最上階の4階から見て回った。4階は音楽室と図書室、あと、1年生の階らしい。というか1年生、妙に教室数多くないか? 8組まであるぞ。そういえば、中学2年生の頃にハマった恋愛ゲームだと、転校してきてすぐに攻略対象の女の子に校舎案内してもらったよなぁ。いやいや、フィクションであるゲームと現実(リアル)の混同は、フィクションや現実への冒涜だ。そんなことを考えながら、1年1組側の階段から3階へと向かった。3階ということは、2年生の階だ。ここは朝にだいたい回ったからわかる。けど、一応、念のため、確認だ。だいたい、2年1組から3組までの3クラスの前に学習室や自習室がある。ただし使用していいのは1組から3組の生徒だ。なんだよ、それ、差別じゃないか? なぜかある妙なパーテーションと職員室をはさんで、2年4組から2年6組までの教室がある。そして、6組の前には、謎の2年情報クラスとある。1人1台はデスクトップパソコンを支給されているみたいだ。そういえば、この高校のホームページに去年から2年進級時の『美術』特化クラスを廃止して、『情報』特化のクラスに変更したと書いていた。情報クラスの横には、廃止された美術クラスの名残の部屋の『美術室』があった。もしかしたら、まだ美術部が使っているかもしれないけど。


「ひゃっ!!」

「ん?」

「先輩、汚れますよ!!」

「ん?」


 美術室から1人の女の子が飛び出して来た。しかも、絵の具のパレットと水入れを持っている。そして、その飛び出すというのは比喩ではなく、物理的にホントに宙を浮いている。従って、何があったか理解ができていないのはオレだ。そして、『はっ、なるほど!! 抱えろということか』と思った。カバンをバッと放り出して、女の子を抱えようとした。


「わたしより避けることを考えてください!!」


 オレの着て間もない制服に、パレットにあった絵具の乾ききっていない色と水入れの水がバッシャーンと見事にかかった。


「冷たっ」


 キャッチもできず、絵の具がかかったなんてダサいオレ。とりあえず手を差し出して、女の子を立ち上がらせた。


「ごめんなさい、ごめんなさい」

「キミの方こそ大丈夫?」

「まぁ、わたしは一応は……。ハッ、今、そのブレザー綺麗にするので、貸してください」


 オレは絵の具落としの道具があると思ってブレザーを貸した。しかし、この女の子は急いで水道に持っていって、ジャーとオレのブレザーを水道水をかけた。応急処置的には色取れても、完全には取れないような……。ちなみに、ズボンも濡れている。


「はい、三条先輩!!」

「ありがとう、というかこのビチャビチャのブレザーを着て帰れと!?」

「はい!!」

「いや、転校して早々イジメられたやつみたいに見えるじゃないかよ」

「えー、わたしなりに名案だったのですが。というか、先輩って後輩だったんですね」

「あっ、もしかして、3年生っすか?」

「いえ、わたしは1年ですよ? 1年4組の山下(ヤマシタ) 美波(ミナミ)ですよ」

「え、どういこと? オレが後輩って」

「先輩、自分で言ってたじゃないですか、転校生(・・・)だって」

「ん? まぁ、今日からここに転校してきたし、ここ数日前に、大阪に来たところだからな」

「えー今日からなんですか!! 1年まで2年生に根暗そうな転校生が来た。きっと、あいつ厨二病で、前の学校でいじめられて転校してきたってウワサでした!! まぁまぁ、ウワサにそんなに怒らず」

「ちょっと怒ってるけど……というか、山下さんが言わなければ、オレ、そのウワサ知らなかったからね!?」

「まぁまぁ、そんな怒らないでください。ブレザーは私も気にしますから。これも何かの縁ですし、連絡先、交換しませんか?」

「んー、なんかいいように言いくるめられてる感がある。まぁ、いいや。WIREでもいい?」

「もちろん!!」


 WIREを後輩の山下 美波さんと交換した。あれ? オレ、クラスメイトのWIRE含めて、連絡先交換してない。今度、希咲さんあたりにでも連絡先聞いてみよう。というか変な噂を流されてるし、ブレザー明日までに乾くかなぁ。……乾かないよな。まぁ、先生に事情話してカッターシャツで登校しよう。ズボンは冬のズボンでいいよな。まさか、こんなに早く冬のズボンの出番が来るとは……。



 やはり、ブレザーもズボンも翌日の朝までに乾かなかった。しかも、よく見れば、所々、色が残っていた。家に帰ったころには色のついていた部分は乾ききっていた。なんでそこだけ乾くんだ。


「ふう」


 クローゼットから高校の冬ズボンを取り出した。あれ……? 2着ある。あぁ、前の高校の冬ズボンも持ってきたのか。しかも、どっちもビニール袋に覆われている。どっちでもいいか、ズボンなんて。パッとズボンを取って思ったことがある。前の高校もブレザーだった。ということは、すこしデザインは違うけど、これでごまかせるのでは? ということで、前の高校の冬制服で登校した。あまり違いはないと思ったが、よく見ずとも、全然違った。


 ちなみに、前の高校は、去年公開の大爆死した恋愛アニメ映画『キミを忘れよう』の舞台の高校だった。友だちはいなかったので、通ってる学校が舞台なので、1人で見に行った。同じ思いの同級生や先輩が何人もいた。ただし、周りの同級生や先輩は友だちや恋人連れだった。序盤の高校で出会ってから恋人関係になるまでの学校の生活描く上での校則や舞台設定などの設定は原作通りだった。しかし、中盤から原作にはない映画オリジナル展開が多く結末も全く違った。原作マンガの結末は、主人公があまりに男女問わず友情を優先しすぎて、彼女との約束の優先順位を下げて、最後には駅で別れを切り出される。『別れたくない、これからは、もっと大事にするから……、見捨てないでくれ!!』と主人公が言うも、彼女は『ゴメン、キミと過ごせないなら私には生きてる価値がないから』と言う。その後、彼女は電車に身投げして主人公は恋人を失い、その最愛の彼女の重要性を学ぶも、これがトラウマとなり、孤独になり、引きこもるところまでを映画化したものだ。なお、原作マンガのタイトルは『キミを忘れられるわけがない』だ。確かに、映画では身投げのシーンなどグロテスクなものはできない。そのため、アニメ映画では、中盤以降、原作では、友情を優先していたシーンが、すべて、彼女優先にしていた。それでその時の恋人とハッピーエンドならおそらく、ここまで評価も低くもなかっただろうし、大爆死せず、それなりの売り上げは期待できただろう。原作で嫌なキャラが出てくるのだが、その名前でいいキャラにされていた。しかも、アニメ映画の終盤で、そのキャラと二股かけてエンドロールが流れ、後味悪いなーと思っていると『キミを忘れよう2』鋭意制作中と出て上映が終わり、映画館の電灯がついたのだ。その舞台の高校だ、前いた高校は。そのため、制服も現実の高校に似通っている。今日着ていく制服はそれだ。


「失礼しまーす」

「あれ? 三条、お前、なんで『キミを忘れよう』のコスプレしてるんだ?」


 2年生の職員室に事情を説明しに行った。事情と言っても、前いた高校が『キミを忘れよう』の舞台ではなく、この高校の制服を今日は着れないことだ。今回は仕方がないと言われたと思っていた。事実は奇なり。たまたまいたのが英語の先生だっただからだろうか。反省文を中学レベルでいいから英作文して今週中に提出しなさいというバツだった。これ、古典の先生なら、古典文法で反省文書け!! だったのだろうか。そして、さらに、校則は順守してもらうと言われた。校則とは、1階は登下校時以外はブレザーなしで生徒は歩いてはならない、昼休憩の学食も例外でないという校則だ。というか、この学校って不思議だよな。こういう謎の校則はあるし、各階に職員室があるのだから。担任を持っていない先生はだいたい1階の大職員室にいるようだ。不思議だ。それよりも、死活問題だ。今日、母さんが寝坊して、弁当がない。普段なら、母さんが寝坊した日は、お昼ご飯代として、600円くらい渡される。


「さってと、教室に向かうか」


 教室に向かった。朝のホームルームが来るまで、ぼんやり過ごそうと昨日決めた。


「おはよう、空くん」

「おはようーヒミコさん」

「朝から余裕だね」

「ん? 別に……余裕ってことはないけど。朝ってあんまりやることないでしょ?」

「周り見てよ」


 朝の8時20分だ。他の生徒は必死にテキストや英単語帳を開いている。朝登校してきた時から、そうしている同級生がいた。オレは『マジメだなぁ』と思ったが、実際は違うのか?


「みんな、帰りのホームルームの始まりにある小テストの勉強だよ」

「ナニソレ?」

「あぁ、ここ進学校にしては、そこまで進学実績ないし、去年、大学合格率の水増し問題の出た高校だからね。水増し問題の時以上の合格率出そうと必死だから、先生もなりふりかまえないんだよ」

「ナニソレ?」


 確かに、去年、大阪のどこかの高校で1人が必要以上の大学に合格したのが話題になり、理事長や校長にその大学受験の方針に決めた経営陣なども一斉処分された事件があった。別の県のオレの当時いたところで報道された。オレのいた県もそういう必要以上の大学入試合格の生徒が中学3年生の時の第1志望校にいた。まぁ、結果、オレはその事件とは関係なく、自信がなくなり、第2志望校を受験したけども。そういえば、ヒミコさんとは、Togetherの相互フォローということがわかってから、なぜかハンドルネームで呼び合うようになっている。昨日、ヒミコさんとWIRE交換しようと思ったが、TogetherのDMで簡単な連絡取れるからいいか。そう思った。


「あっ、空くん、WIRE教えてよ」

「ん、これ、三条」

「ありがとう」

「そういや、今日はなんでブレザー着てないの?」

「まぁ、かくかくしかじかあって」


「三条先輩!! ブラ……じゃなくて、ブレザー渇きました?」


「ブラ!?」


 上級生の扉を開けて、異性の名前を呼んで、『ブラ』と叫んだおバカさんは山下さんだ。クラスメイトのどよめきを無視したかった。けども、周りの男子がすごいざわついている。ここで、廊下に出て話すのも逆に変な疑いをかけられそうだ。


「乾いていないよ、ほら、ご覧の通り。今日は別のブレザーを着たからね」


 オレは山下さんに、前の高校のブレザーを着てきたことを知らせた。知らせたというか、前の高校のブレザーを見てもらった。というか、確かに、『ブレザー』と『ブラ』って思わず間違えそうになる。


「ん? なんかこのデザイン見覚えがある」

「あ、去年の後味悪かったアニメ映画の制服?」


「わっ、ヒミコさんだ」

「やっと気づいたか、アリイちゃん」


 この後、ヒミコさんと山下さんの世界に入り、オレはぼんやり過ごした。というか、アリイちゃん? え? この子は、山下 美波だったのでは?


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