第2話~すでに友達~
担任の先生が教室を去り、今日、授業あるなら、教科書とかどうしようとか考えていた。横の女の子……確か、希咲さんだっけ? に思わず聞いた。
「今日って授業はある?」
「んーいや、さっきのホームルームで始業式だね」
「え?」
「あーうわ、最悪だ。今年、1学期になんでか、学校閉鎖があったんだ、しかも、1週間もあったから、その分の遅れをカバーできるように今日から授業あるんだった」
さっきのホームルームが始業式……? 校長のあいさつや生活指導の長い話がない……? いや、最高だよ、ここ!! でも、学校閉鎖? それこそ1学期に何があったんだ? 学校閉鎖なんてそうそうないだろうに。もしかして、何か不祥事……? 今日来たばっかだけど、卒業まではここあってほしいなぁ。
「それはそうと、三条くんは文化祭に何したい? ほら、今年は試験的に大規模なものにするらしいからさ!!」
「え? うーん、オレは去年というか例年というか大阪の文化祭がどんなものかわからないからなぁ。前の学校の1年の時でも文化祭、ただ舞台上で各クラスで踊っただけだしなぁ」
「何それ、もはや、ダンス大会だよ、それ。まぁ、でも、こっちも、なぁ、毎年変わらず、しょぼしょぼのしょぼだよ。ほとんどのクラスが体育館の舞台で踊ったり歌ったりだね。あと、外部からは近隣の住民と先生と生徒の身内と、あれだれだっけ、姉妹校の生徒会だったかな、その辺くらいしか見に来ないし、そもそも、生徒の身内なんて、受験がある下の子が高校ってどんなところだろうって見に来るだけだよ」
ふと、周りの声を聞いた。
-文化祭何したい?-
-やっぱメイド喫茶でしょ-
-バカ、それは模擬店だろ-
生徒の興味は、最初からオレという転校生よりも、目先の行事で試験的に新たな試みのされる文化祭らしい。他の生徒からいろいろ聞かれないのは、ぼっち飯を愛する者としては嬉しいような……。でも、転校初日くらいは構ってくれよという謎の感情に襲われた。なお、さっきの会話はオレと横の希咲さんだ。そうだ、希咲さんと少し話せただけでもありがたいな。まだ、名目上はホームルームの時間の途中なのに、先生が誰もいないという不思議。そこに教室の扉がガララと開き、担任の先生が戻ってきた。ハンカチがポケットから少し出ていた。もしかして、トイレに行っていた……?
「あー間に合ってよかったー、二重の意味で。そうそう、今年は舞台発表は自由参加だけど、今日のロングホームルームまでに、各自ネタ考えて、やりたいことをこの目安箱に入れておくように。あと、あまりに意見が変なのばかりだったりとか、無効票が多かったら、舞台発表なしの模擬店のみになる可能性があるからなー、そこらへんもよく考えてなー。一応は、匿名だけど、こっちはだいたい字を見たら誰かわかるからな。転校生の三条に代筆頼んでも無駄だからな、見たことない字だったら、速攻で三条の字とみなすから、な」
目安箱? あの江戸幕府8代将軍徳川 吉宗が庶民の意見を聞くために設置した目安箱?? いや、そんなことはどうでもいい。いま、サラッと恐ろしいこと言ったよな、舞台発表なしの模擬店のみとか、オレに代筆頼むとか……。いや、よく考えてみろ、舞台発表がないということは、それの練習にそこまで時間が裂かれないんだ。個人的には、模擬店のみのが楽しそうだが……、というか、代筆頼まれたら嫌だなぁ。字汚いし、はじめましてで『代筆頼む』とか言われても気まずいし。……、そういえば、前の学校の1年の時にあった文化祭が終わった後に、なぜか、文化祭の感想文を原稿用紙にみっちり書くか、英文の教科書の和訳を今習ってるセクションから次のセクションまでのどちらかを強制だった。ちなみに、ほとんどの生徒が和訳を選んだ。
急に希咲さんとは別の女の子の声がした。
「転校せーい!! 目安箱が不思議みたいだね」
「わっ!! ビックリした。えーと……」
「もう、私の渾身のギャグをスルーしないでよー」
「もう、翠のギャグはわかりにくいんだよ。三条くん、今のはね、転校生の三条くんに『転校しろー!!』っていうよくわからないボケだよ」
「ボケを解説しないでよ、姫巫ちゃん。私は船原 翠だよ」
1時間目、数学の教師が来た。その教師の顔は、いかにも沖縄出身です!! と主張している濃い顔をしていた。そんなことを考えていると、横から希咲さんが『この先生は顔と話し方のギャップが面白いよ』と教えてくれた。数学の教師は、『せやから〜〜この問題は、剰余の定理を使うねん。こらー、船原、授業中に居眠りすな!!』と沖縄の方言が出るかと思ったら、関東から来たオレでもわかるほど、典型的な関西弁を話していて、そのギャップに笑いを堪えるのに必死だった。数学の授業が無事終わってくれた。なお、授業内容に関しては、そのギャップのせいで入ってこなかった。これは慣れるしかないな。
「なぁ、希咲さん、ここの先生ってこんなにみんなキャラ濃いの?」
「ん-、数学のあの先生とあとはー、Togetherでも有名な国語の白衣の先生くらいじゃない?」
「え、ここ、Togetherの公式あるの?」
「いや、ウチもこの間知ったけど、非公認あるあるがあるんよ」
「へぇー」
「もしかして、三条くんもTogetherやってるの?」
「まぁ、毎日のように、おはようと寝る前に寝る!! って宣言してるくらいしか動いてないけど、やってることにはやってるな。あーいや、最近、フォロワー増えてきたから、比較的動かすようにはしてるけど」
「マジ!? フォローしたいからアカウント教えて!!」
「ん、『空さん』」
Togetherのトップページを表示した。そこにはオレのアイコン、フリーサイトから引っ張ってきたもの、そのアイコンを使って簡単に作ったヘッダーにTogehterのID、後は、最近の書き込みを表示していた。
「え、ちょっと、ちょっと!!」
「どうかした?」
「ウチ、もうフォロワーだし、なんなら、この前DMしたよー。なーんだ、もう友達じゃん、ウチら」
「え? 希咲さんの垢どれ?」
「これ、ヒミコ!!」
「え!! あの、ヒミコさん!! めっちゃファンです!! 握手してください」
「これも何かの縁だね、空さん」
「なんかネットの名前でリアルで呼ばれるのくすぐったいな」
何を隠そう、この希咲さんは、オレが転校する前に、『宿題かーダルっ!!』にリプライをくれたあの『ヒミコ』さんだった。なんというか、合縁奇縁ってこういうことを言うような気がする。もしかしたら、希咲さんとは、男女の違いはあっても、『親友』になれそうな気がする。