第19話~修羅場~
「母さん……」
オレの横にいた美波もペコリとお辞儀をした。そう、オレと美波がキスしているところを見てしまったのだ。
「蒼空!! あんた!!」
母親がこのシーンを見ていたら、赤飯を炊く用意されると思っていた。しかし、現実は非なり。怒った口調で美波に言った。
「あなた、今後、私の子、蒼空に関わらないでちょうだい!!」
「母さん!! この子は、美波はオレの……!」
「口答えしなさんな!!」
「あのホントにわたしは、蒼空さんの彼女です!!」
「はっ、路上でキスするようなはしたない女なんかと付き合うなんて母さんは許しませんよ!! それに……」
「はしたない? ふざけんな!! 母さんだからって言っていい言葉と言ちゃいけない言葉がある!!」
「蒼空!! あなたには10年前に約束した許嫁がいるじゃないの。あのお淑やかな雨音 麗央ちゃんがいるじゃないの!!」
「10年前? 6歳の頃の『結婚しよう!!』なんて、今の16歳の時に言う『ずっと友達だから!!』みたいなもんだよ!! 母さん。オレは今、美波を愛しているんだ!! 今は、美波なしでは生きていけないんだ」
母さんと口論をしていた。そこに、もう1人の女の子が現れた。その子は通学カバンをボトッと落として、オレに向かって走ってきた。なお、制服は全く別の学校のものだ。
「蒼空さま!!」
オレを『さま』付けで呼んだ子はオレに抱きつこうとした。オレはそれをスルッと回避した。
「ひどいわ、蒼空さま!! 大阪に帰ってきたと聞いて、わたくし、嬉しくいつも蒼空さまを遠くから見守っていましたわ」
この子は誰で、なぜ、なれなれしく、それなのに優しくオレの頬をなでているのか? なぜ、美波も反論せずに見守っているのか?
「ホント、誰なんだよ!? オレは今、美波という彼女がいるんだ。気安く触れるな!!」
「ひ、ひどいわ。蒼空さま!! わたくしをお忘れですか?」
「わ・す・れ・た!!」
シクシクと演技の涙を流した女の子。演技でも涙流せるってすげーと感心していると、美波から睨まれた。
「わたくしこそ、蒼空さまの彼女、いえ、お嫁さまに相応しいわ」
「しらねぇよ。オレの今、愛してるのは美波だ!! なんなら、結婚まで行きたいと思っているんだ」
「そんなどこの猫の骨か、わからない、路チューをするようなはしたない女を選ぶなんてありえないわ」
「それは馬の骨だし、美波は馬の骨じゃない!! はしたなくないし!! オレがハグしてしまったから、美波の気持ちが暴走したんだ!!」
「まぁ、そのツッコミのセンス!! さすがはわたくしの未来の旦那だわ!! そう、わたくしこそ、雨音 麗央ですわ!!」
「っざけんなよ!! 仮に母さんが言うように10年前に結婚しようと言っていても、それはもう時効だ!! 今は関係ない!! オレの彼女は、山下 美波だけだ!!」




