第18話~変わったこと~
美波が彼女になった。だからと言って、オレの生活が大きく変わるわけでもない。そう思っていたが、実際はかなり変わった。
「蒼空くん!! 帰ろっ」
彼女で下級生の美波がクラスまで迎えに来てくれるのだ。たまにはオレも美波のクラスに『帰ろっか』って言いに行きたいのだが、いつも美波のクラスの方が早い。多分、終わりのホームルームの時間差だろう。あと、担任のやる気も大きいだろう。オレのクラスの担任は基本的にめんどくさがりだ。オレは学校の先生になるつもりだが、この先生は反面教師にするつもりだ。めんどくさがりなら、ホームルームとか早く終わるものではないか? この前、たまたまホームルームの前にトイレに行った時に聞いたが、オレのクラスの担任はいつも帰りの際の小テストの問題用紙の印刷がギリギリらしい。しかも、6時間目が終わってから、問題用紙を印刷するらしい。だから、他のクラスよりも10分以上遅れている。毎日、みんなから、早くしてくれと言われている。正直、オレもそう思う。
美波との帰り道は普通にクラスでどうだったとか、授業がどうだったと、先輩後輩の関係なく話している。1学年差なんてそんなもんだろ? 今日はたまたま、ヒミコさんも一緒に帰ると言い出した。
「そういや、空くんとアリイちゃん、最近、仲良いよね」
「ヒミコさん、報告遅れたけど、紆余曲折あって美波と付き合うことになりました」
「そっか、おめでとう、あの時のウチのアドバイスが効いたのかな?」
「まぁね」
「あの時のアドバイス?」
美波が不思議そうにした。確かにあの時の。『今が最悪なら、これ以上酷くならない』的なことの話は美波にはしていない。簡潔に話した。
「なるほど、それであの時『さんくゆー』でレディースの服見てたんですね」
「はい、その通りです。でも、それがあったこそ今があるんだ」
「ハハッ、それもそうだね、じゃあね、アリイちゃん、空くん。お幸せに」
『はーい』と美波が言って、オレと恋人繋ぎをした。恋人繋ぎするのは結構憧れてた。けど、いざ、恋人繋ぎされると恥ずかしいものだ。
そろそろ秋空も終わりを告げようとしている。そして、明後日は土曜日でオレの誕生日だ。しかし、美波にはまだ話していない。なぜか? 付き合ってくれていることがオレにとって最高のプレゼントだからだ。それ以上のものは望まない。もちろん、お金で買える物でもだ。というか変に気を遣われるのが苦手なのだ。
「今度の土曜日、どっか行きたいとこある?」
「んー、わたしは水族館行きたいです!!」
「了解、また調べて電話で話そっか」
ん、と初めて美波が唇を突き出した。オレはそれに応えたかった。でも、ここはオレの家の近所で、もしキスしているところを、親にでも見られたら赤飯を炊かれそうだ。
「ゴメン、ここオレの家の近所だからさ……」
そう言いつつ、オレは気持ちを抑えきれずに、美波を思いっきりハグした。
「蒼空くん、ちょっと痛い」
オレはその言葉に構わず、もう一度、愛の言葉を口にした。
「好きだよ」
「そんなことされたらわたしもう我慢できないですよ?」
そのままソフトにキスをした。
そこに、ボトッと何かが落ちるような音がした。美波を離して、周りを見回すと、そこにいたのはオレの母さんだった。




