第13話~気付いた想い~
明日は文化祭翌日。学校は文化祭の代休だ。おもしっきし寝てやろうと思った。色々あってすごく楽しかったのでなかなか寝付けなかった。しかし、翌日にはいつも通り、7時に起きてしまった。夢でアリイちゃんが何か言っていた。
「蒼空先輩は……」
オレはガバァと布団をはいだ。思い上がるな、アリイちゃんとはよき先輩後輩であり、よき友人のはず。
「ゆ、夢か」
アリイちゃん……。ふと、さっき見た夢に出てきた山下 美波ちゃんがなぜか心配になった。WIRE送っておこう。スマートフォンを確認すると、さっき夢にアリイちゃんが出てきたのがなんとなくだけどわかった。アリイちゃんが早朝5時から、おはようの後、5分おきにスタンプを送り続けていたのだ。これなら心配する必要はないよな。むしろ……電話で文句言ってやろう。
WIREの無料通話で文句言おうと思ったけど、なんだろう。アリイちゃんには会って文句言った方が分かりやすそうだ。そう思い、送った文面が……。
『会えない?』
この5文字だった。すっと血の気が引くのが分かった。これではまるで、恋人に別れ話を切り出してるみたいではないか。そもそも、アリイちゃんとオレは仲のいい先輩後輩だ。そう、まだ友達でもないのだ……? いや、友達か。
『会えますよ』
アリイちゃんはオレの気持ちを知ってか知らないでか……オレの気持ちってなんだよ……すっと返事をくれた。
「それじゃ、10時に駅前で!!」
なんだよ、この気持ち。すごくわくわくして、心が弾んでいる。まるでアリイちゃんに恋心を抱いてるみたいじゃないか。仮にだよ? もし、今日、告白しても……、うまくいくのか? いや、仮に、もし、付き合ったとしたらどうするの? 振られたらどうする? 学校ですれ違ったら……。そんな事が頭の中グルグルしていた。いや、待て、そもそも年下に興味なかったのでは?
そして、9時30分。
「行ってきます」
アリイちゃんとの約束の時間に間に合うようにオレは家を出た。
「はぁ、結局、オレ自身の気持ちがわからなかったな」
思ったよりも早く駅前に着いたので、コンビニに寄ってココアシガレットを買った。ちょっとタバコ吸ってるみたいに見えてカッコいいだろ? と思った。ココアシガレットを咥えていた。
「蒼空先輩!! タバコ吸って不良!!」
「アリイちゃん、オレのこと……」
「ん? どうしました?」
「な、なんでもない」
「さて、休日のわたしになんの用ですか?」
「休日なのはオレもだ。いや、用があるのはアリイちゃんじゃないの? 朝の5時からずっとスタンプ送ってきて」
「あっ、えっ。はい、ごめんなさい。つい構って欲しくて……」
「ま、別にアリイちゃんだから、オレは怒ってないけどね」
「わたしだから?」
「や、な、なんでもない、失言だ」
そっか、オレ、いつの間にかアリイちゃんに恋していたんだ。
「で、何も用事もなくわたしを呼び出したのですね」
「あ、はは、いや、5時からずっとスタンプ送ってくるから、文句、直接言いたくて……」
「それはごめんなさい。これからはもう少し遅くします。まぁ、いいや、今日はこっちのショッピングモールに付き合ってくれたら許します」
「お、おう」
アリイちゃんの『付き合って』を思わず、恋愛的に捉えそうになった。恋は盲目とはよく言ったものだ。
このショッピングモールは『さんくゆー』ほどは大きくない。だが、4階が駐車場と映画館なのだ。なお、ウワサで聞いていたし、実際に看板で見たりもしたが、去年の台風で、この秋まで休みだったのだ。確か、先月から再開したところだ。もっとも、『さんくゆー』から少し歩いたところのビルに8つのスクリーンがある映画館があるらしい。
「映画でも見たい?」
「あー、いいですねー、この時期だと、なんだろ、『wish』とか見たいかもです」
映画『wish』単語の意味は願いや希望を意味する言葉だ。公開して1ヶ月ほど経ったが、ほとんどのレビューが色んな意味で期待を超えてきたと書かれていた。オレ自身、この映画の宣伝を地上波で見た時から気になっていたが、引越しや文化祭ですっかり忘れていた。
「いいねー、オレも前々から見たかったんだ」
「では、決まりですね!!」
公開から1ヶ月ほど経っていることもあり、公開時間が遅めになりモーニングショーの10時40分スタートの回を見ることにした。お客の入りは、平日なこともあり、ぽつぽつ程度だった。席はどこにでも座れそうだった。アリイちゃんが『映画は後方彼氏面して見るに限ります!!』と宣言したので、一番後ろの真ん中席を2つ確保した。なお、ポップコーンとドリンクは今回はなしだ。
オレの感想としては、『wish』は1度見ただけでは理解が難しかった。繰り返し見て、このシーンはあのシーンの為の伏線か、いや、また、別のシーンの為か? などと考えながら見る方が楽しそうだった。
「うーん」
「アリイちゃん、どうしたの?」
「いやー、さっきの映画、何回も繰り返し見た方が楽しそうだなーと思ってて、蒼空先輩もそう思いません?」
「それには同意するよ。あと、ちょっと空を見上げるシーンが多かったな」
エスカレーターで1つ下の階に降りた。そこにあるのは書店だ。確か、この前、『1日100膳』の15巻が出たんだよなぁ。今度、買いに来よう。もちろん、11巻から15巻まで一気にだ。
「本屋よりましょ」
「お、あ、あぁ」
本屋に向かい、まっすぐ、まったく迷う意志を見せずに『少年』マンガコーナーに向かっていったアリイちゃん。
「ね、アリイちゃん、少女マンガとかは読まないの?」
「んー、好きなものもあるんですけど、『現実逃避』したくて、マンガを読んでるのに、そんなリアルな描写されてもなーと思って、妖怪とか現実には存在しないものが出てくる少女マンガは比較的好きですねー。その系統だとー……」
「勧めなくていいよ! 絶対ハマるもん、アリイちゃんにこの前勧められた『神サラサラにしますか?』面白くて3巻までネットで注文したからさ」
「あー、『神サラ』の3巻4巻は序盤のいちばん面白いところですよ!!もう、今日、4巻買いましょ!!」
「や、今日はオレのオススメを紹介したいなぁ」
「おっ! 蒼空先輩のオススメは?」
『これ!』とちょうど目の前にあった『1日100膳』の1巻を渡した。何かをアリイちゃんは考えている。
「これ、確か、わたしが小学生の頃に連載が始まって、まだ連載続いてるけど、単行本14巻までしか出てないマンガですよね? けっこう、気になってたんです」
「確か、今月、15巻が出たはずなんだよな」
「わたし……、んー、なんでもないです」
「ん?」
「わたし、1日100膳買います!!」
「え、お金かかるよ? 貸そうか?」
「何言ってるんですか!! これもマンガ好きならではの推し活ですよ」
アリイちゃんは『1日100膳』を買って、『お腹すきました~』と言いながら、エレベーターを降りた。
「ここのフードコートの讃岐うどんのお店おいしいんですよ」
「うどん……か」
「うどんですよ。もしかして、嫌いですか?」
「ん-、いやぁ、なんていうか、うどんは好きなんだけど、うどんって『すする』ものでしょ? 小学生の頃に、給食で出たきつねうどんをすすっている時に、『お前、すするの下手だな!!』って言われたことがあってさ、それ以来トラウマで、さ。あぁ、もちろん、1人の時とかは、ふつうに家でうどん食べてるし。でも、『そば』はすするの上手いらしいんだよなぁ」
「謎ですねぇ。じゃ、秋限定の栗釜飯セットのあるちょっと高めの釜めし屋にしましょう。となると、また3階ですね」
その後、栗釜飯セットを頼んだ。栗のふっくらした食感というと、アリイちゃんに『ふっくらしているのは『ごはん』ですよ』と反論された。
オレの食レポヘタクソ……。




