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ありし夢の空ver2  作者: きゃっくん【小奏潤】
第1章~プロローグ~
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第1話~ことのはじまり~

 SNSのTogetherやWIREなどの普及で、見ず知らずの人達とどこに住んでいても、いとも簡単に繋がり友だちのような繋がりが出来る。たまに実在しているかどうかすら怪しいようなアカウントもあるけども……。


 オレのように高校2年生になってもひとりでぼっち飯を食らうのが、当たり前のような男子高校生でも、スマートフォンを手にした時から、Togetherをやって、『おはよう』や『寝る』とか日常の何気ないことをTogetherに書き込み、気になった書き込みや好きなコンテンツの情報をチェックしていると、いつの間にか、フォロワーがどんどん増えてくる。その分、オレもフォローバックをしたりする。


 目には見えないけど、本名も性別も年齢も何も分からないけど、いつの間にか、親友や友だち、妹や姉、弟や兄のようなそんな関係のようなフォロワーもできてくる。


いいんだ、Togetherだけがオレの心の癒しだ。


 オレは、『(ソラ)さん』という名前で、Togetherをやっている。なぜ、『空さん』なのかというと、本名が、『三条(サンジョウ) 蒼空(ソラ)』なので、名前の蒼空というのを簡単にしただけだ。むしろ、オレはこっちの『空』という文字、一文字だけの名前の方が気に入っている。



 そんな夏休みのある日。


 オレはTogetherに『これから宿題かー、ダルっ』と呟いた。そこに1人のフォロワーの『ヒミコ』から返信が来た。オレのTogetherの主な使い方は好きなコンテンツの情報収集と気分転換に独り言(・・・)を吐き出すだけだ。


 好きなコンテンツと言っても、バンドとかの追っかけをしているわけではない。単純にマンガが好きだ。マンガ好き界隈で長い間、いい意味でも悪い意味でも話題なのが、16歳でなくなった主人公が幽霊になって、成仏か地縛霊化する前に、1日に100こ以上の善良なことをした日が1日でもあれば生き返り、1つだけ神様が願いをかなえてくれるというウワサを聞くところから始まるファンタジーや少しホラー要素があったりするうえ、少年誌特有の『努力』『友情』が強めのコメディタッチの『1日100膳』という作品だ。当たり前だが、そうそう1日に100回も善良なことはできない。それに主人公が幽霊ということだから、序盤は物に触れられないし、生者に声の届け方もわからないからなおさらだ。少年誌で連載が150話以上進んでいて、単行本が14巻までしか出ていないし、15巻が1年以上は販売されていないのだ。単行本が半年以上出なくなった間も少年誌の方は休載をしていなかったのに、ファンの一部から、『作者がネームとプロットのみを残して死亡した説』『出版社と連載のみの契約に切り替わった説』が浮上した。もう単行本が出ないのなら読むのを諦めて、古本屋やフリマアプリで格安でもいいから、お金にしようというファンが急増した。その事実が歪曲して伝わって、[『今、これがよく売れている!!』と勘違いした転売やせどりを副業にしている人たちがこぞって『1日100膳』を買い占めた。結果、全く売れなくて、Together上で『1日100膳』で火を起こす転売であったりせどりの人たちが急増して、これは作品に対しても、作者に対しても、出版社に対しても失礼だ!! こんなやつらに『1日100膳』の1巻から14巻が買い占められるのであれば、我々が『読む用』『模写練習用』『〇〇用』などと言い張って、1日1冊ずつ本屋から買っていくファンによる購入が行われていた。でも、これも考え方を変えたら、買い占めだよなぁ、とかオレは思っていた。実際、善良なファンは、『模写練習用』として買ったもので実際に1日1模写のペースでTogetherに出す人が存在した。その1人が後々、神絵師と言われるまで上達したのは別の話。そして、ある時、急に、このマンガの没ネタが幽霊が1日に100膳以上のご飯を食べきり蘇るというグルメホラーという謎のジャンルだったから、このタイトルの『ぜん』が『善』でなく『膳』なのだ、そこは連載決まる前からずっとこだわっていたから編集とケンカしてでも、自分を貫いた!! と作者がTogetherに書き込んだ。その後に、『あと、単行本ストップさせててごめんなさい、15巻のコメントで考えるギャグが出てこなくて……。そろそろ、出します。この書き込みに対して来た今日明日中の反応はすべて時間がかかってもマジメに返します!!』とも書き込んでいた。その書き込みには、愛ある返信や、生きていてありがとう!! などの作者への愛や意見があふれていた。いや、まぁ、オレが見ないようにしていたのもあるけれど、批判的な返信などもあった。ちなみに、オレは『1日100膳』は10巻まで買っている。マンガを買うときは5の倍数の巻数ずつ買うというオレの中のしょうもないこだわりだ。


 ヒミコというオレと年の近そうなフォロワーから来た返信を返すつもりが、『1日100膳』の作者がさっき、書いた何気ない書き込みを見たせいで、思考がずれた。ヒミコからは『わかるー、ウチのとこも夏休みの宿題いっぱいでたのー!!』と来ていた。歴史の『卑弥呼(ヒミコ)』とはなにか関係があるのだろうか? それとも、やはり、何も関係ないのだろうか? それともその卑弥呼のファンなのか? など、このフォロワーのヒミコに関する疑問を抱いていた。いや、この今の世の中に古代の女帝の卑弥呼のファンはいる……な。一部の歴史マニアにいる。高校入学してしばらくした頃に窓側の席でぼっち飯を堪能していたら、一時期大ブレイクした男性芸人の髪を握って『卑弥呼様~』というギャグのマネをしている同級生を見た。いや、それだけなら、昔の懐かしいギャグの低クオリティなモノマネしているなぁで済んだのだ。しかし、そこに、『卑弥呼様への非礼、命に代えて詫びなさい!!』と真顔で返しているメガネをしている三つ編みの女子の同級生がいた。そんな事を思い出して、ヒミコに『出るよなぁ、ホント、めんどくさい』と返信に返信を重ねた。Togetherのいいところは相手が返してくれる限り、永遠と文字でのやりとりをできるのだ。チャットみたいな機能があるのだ。ただ、このチャットのような機能の問題点は、それが『全世界に公開』されていることである。そのため、話題が尽きなくてもっと深い話をしたいであったり、個人情報などの個人的なやりとりはWIREを交換してからすることが多い。たまに、全世界に個人情報を発信してしまうおバカさんもいる。オレはまだ、そのミスはしたことがない。ただ、ヒミコとは全世界に公開でけっこう深い話をしたりもするので、そろそろWIREを交換しようかと思っている。


 あぁ、そうだ、卑弥呼とヒミコのことを考えたついでに、日本史の宿題を手につけようとした。そこに、母さんから呼ばれた。ちなみに今頃、父さんは大阪の賃貸住宅に母さんとは別の女の人の『ササさん』と一緒にいるはずだ。まぁ、さすがに、ここで母さんに父さんが別の女の人といる可能性があることは伝えるつもりはない。いや、伝えるなら早めのほうがいいか?


「蒼空、急にゴメンねぇ、お父さんが単身赴任してるのは知ってるでしょ?」

「それは知ってるよ。ちょうど昨日の夕方、だいたい晩御飯のちょっと前かなぁ? 父さんとWIREで通話したからね」

「あらっ、そうなの? それじゃ、話が早いわね。昨日の夜にお父さんからWIREのチャットで『大事な話があるからビデオ通話頼む』って言われて何かと思ったんだけど。この夏から、お父さんが単身赴任先にずっといることになるのよ。お父さんは『蒼空には昇進するんだ』と言ってくれと頼まれてたけど、多分、あれ、お父さん、不器用だから左遷だろうねぇ。でも、まぁ、お父さんのいる今の部署って大阪府だから最低賃金はけっこう高めだったから、生活はできると思うけど。あっ、でも、大阪府と言っても大阪市じゃないわよ。まぁ、蒼空には悪いけど高校は大阪に転校になるわねぇ。でも、全く知らない土地じゃないから安心して」

「ん?」


 いや、待て。昨日の父さんとのWIREの通話でそんな話は出なかったぞ。むしろ、『仕事が最近うまいこといって……』とかくらいしか聞いていないぞ。よく思い返せば、『どう仕事がうまくいってるの?』と聞いたら、『それは大人にしかわからない』とお茶を濁されたのだ。それに、通話かけてきてすぐの言葉が『さ……さ……、ごめん』だったから、オレは『ささ? 誰と間違えてるの? オレだよ、蒼空だよ。もしかして、父さん不倫した?』とふざけて聞いたのだ。あの時、もしかしたら、真剣にオレに先に『左遷される、ごめん』と謝っていたのかもしれない。というか、母さんの発言の『全く知らない土地じゃない』……? 大阪なんてオレは遊びにも行ったことないぞ。


「え、お父さん、何も話してなかった?」

「何も言ってなかった……と思いたい」

「まぁ、そういうことだから、心の用意だけはしておいてね」


 心の用意って、何をすればいいんだ? そう思いつつ、自室に戻って日本史の宿題を見た。高校も転校するということは、この宿題も不要なのでは?


翌日、母親から『宿題は向こうで蒼空の学力を測るのと、どこまで進んでたかの確認するためにきっと、大阪の高校で活用される予定だからしなさいよ』と言われた。



 その数日後、オレは母さんと共に大阪に引っ越した。友だちは、そもそも現実(リアル)ではいなかったから、そこまで、いや、まったく寂しいとは感じなかった。ただ、心のどこかでTogetherのフォロワーのヒミコと距離が開いたような気がした。


 大阪に着いた。大阪というと、天下の台所と言われるほど栄えている。もちろん、オレが住む市も……と思った。しかし、現実は非なりであり、事実は小説より奇なり。いや、事実は小説より奇なりは言い過ぎた。この市はそこまで栄えていない。家の近くには公立高校の跡地があり、そこを超えれば大阪市だ。まぁ、大阪市と言っても全く栄えていない大阪市だろうけども。公立高校の跡地を境に急に大都会が広がっていたら怖い。ちなみに大阪市のここら辺よりかは栄えているところであろう予想する1番近い所には電車で急行だと1駅だが鈍行の電車だと5駅分もある。まぁ、現状、オレは家から自転車で行ける範囲に娯楽施設かネットカフェがあれば許そうと思っていた。いや、誰を許すんだよ。あと、通う予定の高校もあればなおよし。街の散策に出ようとした。しかし、家具の搬入やら配置などを見届けるので、引越し初日は家から出られなかった。


大阪に来てしばらく経ち、高校の関係の手続きだ。両親の教育方針で、高校は絶対に全日制しか認めない!! できたら進学校だったら尚よし!! でも、両親は高校探さないよ!! 引っ越す前の学校からの必要な書類を見て、単位照合しましょうね~、という無茶ぶりだった。でも、実際、オレとしても大学にはなんとしてもいかなければならない理由があるから、大阪に引っ越すという話が出てきた時に、ここに編入できたらいいなぁという希望校を1校だけ調べていた。偏差値もそこそこだし、調べてた当時はまだわからなかったけど、大阪(いま)の住んでる市内に近いのだ。

 編入試験は国語、数学、英語のテストと面接だった。学力試験は高校入試の時よりかは簡単ではないが気持ちの面ではるかに楽だった。面接は、必要最低限しか人付き合いしなかったオレからするとかなりハードルが高かった。実際、面接のときに、『この面接をどう思いますか?』と言われて、『高いハードルなので、飛ばずにくぐりたいです』と緊張から謎の発言をした。しかし、そこで面接官の先生2名はどっと笑って、後の質問はなんかふざけられていたような気がする。いや、まぁ、ここは笑いの都の大阪だけどさ、そこまでふざける? と思うほどだった。


 今日は大阪の高校の編入初日だ。高校までは徒歩で10分くらいと近くて助かった。


「失礼しまーす。今日から編入してきた三条です」


 1階の大職員室にあいさつするために顔を出した。『おっ、キミが三条か』と言われ、なんだかんだ説明を受けた。その説明の中に妙なローカルルールはあったけど、それくらいなら大丈夫だろう。そして、担任の先生と共に3階の2年生の階へと進んでいった。途中、オレが2階が2年生の階と思って止まろうとしてるのをみた担任の先生は、『あっ、2年生は3階たぞ』と教えてくれた。2年生の先生の職員室に先に案内された。そこでふと先ほど聞いたローカルルールに触れた。


「あのさっき1階の職員室で聞いたんですけど、どうして、自転車と電車で通学時間違うんですか?」

「あーうん、その点に関しては、校長含め教員たちも理事長に改正案を提出しているけど、理事長が先代の理事長の方針は変えない!! って頑固でねぇ。変わるとしたら理事長が新しくなったらかなぁ?」


 この返答が学年主任の先生から返ってきた。『自転車は8時20分、電車は8時25分、徒歩は電車と同じ時間とする』これだけがどうしても腑に落ちなかった。なお、この職員室で聞いたこのローカルルールの続きは、『なお、1分でも遅れた場合、8時15分登校を強制する』だった。ちなみに、始業時間は8時30分だ。その後、教室の前まで案内された。何人か同級生とすれ違ったが、今にも死にそうな顔をしている生徒が1組や2組など数字の小さな教室に向かっていった。



「三条はここで待っててくれ」


 担任から言われて、2年5組の前で待っていた。チャイムがなり、ホームルームの時間になったらしい。数分経ち、担任がオレを呼んだ。


「転校生だ、いぇい!!」


 さっきまでのありきたりな先生の雰囲気はいずこへ行ったのだろうか。テンションがとても高い担任の先生がいた。


「三条 蒼空です。よろしくお願いします」

「まぁ、三条に聞きたいことは山々だと思うが、それは後にしてくれ。あとはー、そうだ、大事なの忘れてた。今年は文化祭を試験的に外部の誰でも入れるような大規模なのにしよう! とさっきの職員会議で可決されたところだ。おっと、三条はえーと、希咲(キサキ)船原(フナバラ)の間な、ということでよろしく頼む」


 担任の先生は教室を出た。おそらく、他のクラスに授業があるのだろう。あれ? オレ、今日、教科書とかまだ買ってないぞ。


「三条くん。こっちこっち」


 1人の女の子、いかにも活発そうな、オレとは明らかに对の存在っぽい女の子が、オレを呼んだ。きっと、この子がオレの後の人生を変えるとかそんなことも特に何も考えず、ただただ、呼ばれるがままに席へと向かった。


「あっ。うっす」


 カバンを席に置き、今日からオレの新生活が始まる。ちょっとだけ、なんだか、胸が期待で膨らんでしまった。

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