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悪夢  作者: &E
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寝室ライフの始まり


私は交渉に成功して、しばらくの間、父が私の部屋、私が母と寝室に寝ることになった。


まず、一つ言い訳をさせてほしいのだが、ソファーで寝るという案があるじゃないか、という意見。

私はもちろん、それでもよかった。自分の部屋から枕と毛布を持ってきて、リビングで寝る。

しかし、それは母の許可が下りなかったのだ。

というのも、母は潔癖症。図書館で借りてきた本がリビングの床に落ちていようものなら、汚いからリビングに置くなと言い、レンタルビデオ屋で借りてきたDVDも、そんな誰が使った分からないDVDを、自分の家のデッキの中に入れるな、と言う。そういう人だ。

無論、私の毛布や枕がカリモクのソファーに置かれることも嫌だし、早起きの自分がソファーに座りたい時、娘がぐーたらと寝ているのはもっと嫌、ということだった。

そんなことで、ソファーで寝るという案は却下され、そして文句を言えない父は、母の「お前は娘の部屋で寝ろ」という命令に、なにやらモゴモゴと文句を言いながら、従うことになったのだ。


3人しかいない家族。見て分かる通り、ヒエラルキーの頂点にいるのは母だ。父はその次で、私が一番下。だが、母が父に文句を言っている時だけ、私は母にくっついて父よりも上に立つことができる。普段、父が私に対してやっていることと同じだ。ざまあみろ。


私の使う小さい二段ベッドに大柄な父が横たわって寝るのを想像すると、なんだか滑稽だ。

いや、滑稽でかまわないし、父がどこで寝ることになろうが関係はない。一切、どうでもいい。本来なら私のベッドに父が寝るのは、匂いもつくし、気持ち悪いというのが本音だが、私は悪夢さえ見なければそれでいいのだ。これは、自分の部屋とベッドを犠牲にしてでも、やらなければならないことである。

そうだ、父がベッドを壊したら、母にねだって父に新しいのベッドを買ってもらおう。シモンズのクイーンベッドがいい。(部屋に入らないし、実際ベッドが壊れることはないんだけど)


寝室のベッドは、ダブルベッドだ。

奥に私が寝て、手前に母。父が寝ていた場所に私が寝る。母は私が寝室で寝ると決まったら、意気揚々とクッションとぬいぐるみを駆使して陣地を分ける生垣を作っていた。ミスドのおまけでもらった小さいヨギボーのような手触りのよいクッションを積む母の姿は意外と機嫌は良くて、もしかしたらこの状況を一番楽しんでいるのかもしれない。


母と寝る初日、母は私に言った。

「○○(私の名前)、今まで母親らしいことをしてあげられなくてごめんね」

「あなたは、しっかりやれているのにね」

意外だった。母からそんな言葉が出るとは思わなかった。これは、夢か、いや夢じゃない。

だって、お腹は痛くない。

母は私を抱きしめた。すごく不器用に。骨ばった、痩せた母の感触を、10年経った今でも覚えている。うれしいとかそういうのはなかった。なんだか不思議な気分だった。あの時の私は、(ふん、今更なんだってんだ)と思っていたのだと思う。でもなんだか、心のしこりがちょっと溶けたような気もする。思い出して書いている現在の私は、少し懐かしい気分だ。

これからも母は理不尽なことで私のせいにし、私を生まなければよかったと叫び、私を苦しめるであろう。それでもその日は、なんだか全て「しょうがないな」という気分にはさせてくれた。

そんな寝室ライフのはじまりだった。


しかし、そんな快適な寝室ライフは、たった2日目で崩壊する。

また、お腹の痛みを発症したのだ。どうやら、隣に人が寝ていようが関係はないらしい。

私はいつものように、声を出したり、痛みがなくなるよう念じたりしてやり過ごす。

部屋を変えてもだめだったか。そんな絶望を感じながら。


私は母の手を握ろうと伸ばした。手を伸ばして握った母の手は石のように固く、そして冷たかった。


重い瞼が閉じる真っ暗な闇の中で痛みと闘いながら、それでも近くに人がいると分かっているのは、私を安心させる材料になった。

息を吸って、吐く。息を吸って、吐く。

あーあーあーあーあーあー、「あー」

声がでた。目が開く。寝室の中に横たわる、私。目の前の天井が高い。そりゃ、そうだ。二段ベッドの上じゃないんだから。

暗闇の中で、お腹をさする。お腹はいつも通りなんともなく、少し痙攣の痛みの余韻を感じながら、息を整えてからまた寝るつもりだった。ふと、隣をみる。母が寝ているはずの場所には、誰もいなかった。起きてドアを見ると、ドアの隙間から光が漏れている。リビングに母がいるのだ。いつもそうだ、母の起床は早い。多分、睡眠薬が切れて起きてしまうのだろう。時計の針は朝の4時半を指していた。どすんと、枕に頭をうずめて、二度寝を試みる。


…あれ?

思い出す。あの時、手を繋いだのは、誰だったんだ。

母はもうその時、いなかったんじゃないか。


私は、隣にごろごろ転がって生垣を崩し、母の匂いのついている毛布にくるまって、枕に顔をうずめた。後で、母に何かを言われるかもしれないが、多分気づかないだろう。私は、母の寝ていた場所で、ぐっすり二度寝した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


寝室ライフが一カ月は経った頃、私は父に聞いてみた。

「変な夢を見たり、お腹が痛くなったりした?」

父は何ともなかった。すこぶる健康そうだった。父は母と違って信心深く、毎日仏壇に線香をあげ、神棚に手を合わせて水とお茶を変えていた。父には神のご加護があるのだろうか。それともただ鈍いのだろうか。


私は、また悪夢でお腹が痛くなることを母に話した。

「睡眠薬、のむ?」

母は私に自分の服用している睡眠薬を渡してくれた。睡眠薬は、非常によく効いた。効きすぎて、次の日の朝、非常にだるくなるのがデメリットだった。大人用の睡眠導入剤だ。中学生の体に合っていないのだろう。私は、早々に睡眠薬を飲むという選択をあきらめた。寝室ライフになってから悪夢を見る頻度はそこまで多くなくなっていたことも理由としてはある。睡眠薬以外の悪夢攻略法。私は、それを探すために地道にネットで情報収集をしていた。


そんな時に出会ったのが2ちゃんねるに上がっていた『猿夢』だった。

もう二度と見たくない悪夢。

悪夢は伝染するのかもしれない、その仮説を立てるきっかけになった話である。


次回、2ちゃんねるで有名な悪夢の『猿夢』について。


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