悪夢の攻略方法
悪夢から覚めた時、夢の中で起こったことは現実ではないと知らされる。
その時に、はっきりとした安堵感と圧倒的な現実感が押し寄せるのだ。
あぁ、あれは夢だったんだ。だから大丈夫。
あんなひどい夢を見た後でも、そう、現実に目覚めてしまえばどうってことない、と中学生の私は思ったのだ。
「夢」は現実に干渉しない。
だから、すぐ忘れてしまうのだ。学校行って、部活をやって、家に帰ってお風呂に入って…。
昨夜感じたあの痛みを感じる夢は、現実じゃない。遠い昔話のような、そんな感覚だった。
ベッドの中に入っても、怖がることはない。だって、もう同じ夢を見ることはないでしょ?
と、たかをくくっていたのだ。
しかしだ。
またあの悪夢を見るのは、一週間ぐらい経ったあとだったろうか。
今度は、夢を見ていない時に起こった。
あの時の痛みを唐突に感じたのだ。暗闇の中。お腹が痙攣しているような痛み。どくどくどく、と。波打っているような痛み。痛む場所は、一か所。決まって右腹や左腹そして背中を移動する。小さい小人が私のお腹の中で蹴りを入れているような。
トン、トン、トン、トン、
ドン!ドン!ドン!
定期的なリズムを刻む小さい痙攣のような痛みから、急に激痛に変わる。そして、その激痛は不定期で、長く続くこともあった。
目を瞑りながら、その痛みが収まってくれないかと望むのだ。
何度も目を瞑りながら寝返りをうつ。
でも、痛みは変わらない。
痛い、痛い
でも、目は開かない。手でキツくお腹を押さえる。痙攣しているお腹の一部が上下に動く感覚があるのに、手にその感覚は伝わってこない。痛みは続く。時々、刃物で刺されているような痛み(刃物で刺されたことないからこの例えが適切か分からないけれど)のようだったり、お腹にいる赤ちゃんがおもいきりお腹を蹴り上げいるような痛み(妊娠したことないから分からないけれど)のようだったりする。
私は、前回のように起きることを試みる。
目を開けようと試みるのだ。でも、私の目は貝のように閉じたまま、動かない。
開けろ、開けろ、開けろ。何度も寝返りを打つ。
一瞬、目を開ける。ものすごい眠気が襲ってきて、やはり閉じてしまう。
起きれない。だけど、痛みの感覚はすごくリアルだった。
目を瞑りながら、痛む場所に神経を向けて、その痛みが収まらないかどうか念じてみる。
ドン、ドン、ドン、
痛さに腰が浮く。歯を食いしばる。眉間にしわを寄せる。
痛みは変わらない。念じても痛みは収まらない。
声を出さなきゃ、あーあーあーあーあーあーあー、何度やっても声はでない。
唐突に目が覚める。目が覚めると、痛みは引いていく、少し余韻を残しながら。
体が硬直して、動かすのがしんどい。ずいぶんと体が重い。水の含んだ毛布にくるまれているようだ。
現実の世界でお腹に手を当てて、ゆっくり、体の位置を動かして寝返りを打つ。
お腹に手を当てるのも、寝返りを打つのも、全部夢だった。私の夢の中の話だ。
恐ろしい。私の「現実世界で動いている」と思って行動したことは全て、夢だったのだ。
体が現実に徐々に慣れていったのを感じたら、起き上がって電気をつける。
目が覚めると、痛みは必ず引く。そして、お腹はなんの損傷もない。
あの時と同じ夢だと疲れた頭で思い出す。悪夢から目覚めた後でも、ものすごく眠かった。
このタイミングですぐに寝たら、またお腹の痛みが戻ってきそうだったけれど、恐ろしいくらいの強烈な眠気が襲ってくるのだ。
私は、もう一度眠る。
しばらくした後、またあの痛みがやってくる。
(あぁ、嘘だろ、2回目じゃないか)
もう少し時間を置けばよかったと後悔しても、時すでに遅く。
二回目の激痛。ドン、ドン、ドン、
一度目が覚めればもう見ないと都合よく思っていたが、そうではなかったわけだ。
私はまた、夢から目覚める為に何度も夢の中で目を覚ます。
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悪夢を見るスパンは、1週間後だったり、3日後だったりして、不定期だった。
3日続いて同じ悪夢と見た時は私もとうとう、どうにかしなければならないと思い始めた。
私は、この悪夢を攻略しなければならない。
悪夢のパターンは色々あったにせよ共通点がある。
1、痙攣するような痛みがあること。
2、夢の中で起きても痛みはやまないこと。
3、二度寝でも見ることがあるし、見ないこともあること。
4、悪夢を見た後でも、眠れなくなることはないこと。強烈な眠さは若さゆえか。
5、夢の中だと気づいていてもなお、夢は私の思い通りにはならないことが多い。
6、夢から覚めれば痛みは消える。声を出すことが有効的だが、うまくいかないこともあれば、何もしなくても突然目覚めることもある。
眠っている時に起こる心霊体験に「金縛り」がある。
金縛りというのは、眠っている時に体が動かなくなることだ。
自分の上に誰か乗っている感覚がある。体が重い、動かない。そんな現象だ。
金縛りは、医学的に現象が証明されていることで、それは睡眠麻痺という睡眠障害の一種なのだとか。
私の悪夢も「睡眠障害」なのだろうか。睡眠時に物理的な痛みが伴うことがあるのだろうか。
確かにあの時期、私は病んでいたのかもしれない。ストレスがあったことは事実だ。
だけど私は、おそらくだけど、何か嫌なモノが私の体を実際に傷付けていたのではないかと思う。
「悪夢 痛い」「痛みを感じる夢」と色々な単語で検索して、中学生なりに調べてみても、私と同じ例は出てこないからだ。
私の夢は特殊であり、“見えざる誰かが私に暴力をふるっている”と仮説を立てる。
それをやめさせるためには、私は現実に戻る必要があり、つまりは夢から目覚めなくてはならない。
それが私の悪夢の攻略方法だった。
だけど、私は苦戦する。夢から覚めればいい。目を開ければいい。そんな簡単なことができない。
私はとうとうある手段に出ることにする。
母に相談することにしたのだ。
それが吉と出るか凶と出るか。
次回、私は親に悪夢のことを相談します。