離婚の計画Ⅱ 皇太子の慰問の旅と事件Ⅱ 迷子と密輸と逃亡と
皇太子の汚職と罪の粛清を終え最貧地方への慰問を終えて一行は一路貿易港へ向かう。
そこで待ち受けるものは?
慰問の旅は最初の汚職や闇取引の摘発事件以降特に事件らしい事もなく、道中休憩を兼ねた三か所の集落を訪問し医療院や孤児院などを廻り山を下る。
「祖父の時代に圧政が重なって帝国は困窮していたんだ。
国庫はつきかけていた。
今では考えられないが国中貧しく下手をすれば革命さえ起きかねなかった」
出発する馬車の中で僕はこれだけは言っておかないとと話を始める。
彼女は真剣に僕の瞳を口元を見ながら頷いた。
「祖父が急死して、父上は若くして即位してね。
なんとか財政を立て直したんだが。
フェレ皇国の要求が強くてね。
自爆してまで連合国にいる必要があるのかと。
ずいぶん悩んで決断したのが、フェレイデンとの関係改善だった。
だから父はフェレイデンの皇女を娶ったんだ」
そう言うと彼女はどういう表情をしていいのかわからなかったのだろう。
目線を外へと向けてしまう。
「でも幸せそうだよ……今は……」
何をいいたいかわかります。
馬鹿ではないので……。
ん~~~~よほど私が難しい顔をしているのがわかったのか。
少し斜め上から彼女に意味ありげにクスッと笑ってみた。いたずらっぽく。
彼女は知らん顔で、反対側を向いて無視をしている。
意外と思った可愛いなって。
しばらくの沈黙はいやじゃない。なんだろう沈黙がふあふあしている感じがする。
変な緊張感とかなく居心地悪くない静けさと初めて思った。
馬車は平原を超えて隆起した丘を越えると段々風にまったりとした塩気を感じる。
そう磯の香が少し混ざる風。
海が近いそう思った。
今回の最大の目的オルファン帝国最大の貿易港があるベルヴィーの街が近づく。
段々と家々が見えて大きな建物が現れる。
舗装された道、建物はどんどん密集していて、いろんな人々が足早に歩いている。
いろんな国の民族衣装を来た商人達、船乗り、荷台を押した男達に、馬車の多さに驚かされる。
今まで慰問してきた町が帝国の闇ならまさにこの貿易都市はオルファンの光だ。
今回のベルヴィーの訪問は秘密裏の訪問なので当然、街総出の歓迎はない。
神殿にも行政機構にも届け出てない。
今回の訪問はただの「ヴァレディエ侯爵」という僕の称号を使用している。
大体ほとんどの者はこの名を知らない。昔あった侯国の君主の称号で名前だけ残っているに過ぎない。
最貧地方の訪問でもあったので身なりも出来るだけ落ち着いた物にしてきた。
だから好都合だ。
今回はここベルヴィーで中級クラスの最上階を独占して予約した。
あんまり大きすぎると誰に合うかもわからない。
このクラスならまず貴族は利用しない。
ホテルに着いて侍従にチェックインさせ最上階の部屋に上がる。
僕はフロレンティーヌの手をとり、一番奥のスイートルームへ入った。
中級クラスと言えどなかなかの広さに落ち着いた内装だ。
ソファーに腰を降ろして侍女の持ってきたお茶を一口飲んだ。
「フロレンティーヌ皇帝陛下から依頼させた任務があり、留守にする事が多くなる。
君はここでいる間はリラックスして過ごすといい。
街に出るのもいいが。必ず護衛の騎士と侍女を伴う事。
どんなに近くても馬車を利用するんだよ」
好奇心旺盛な彼女の事だからじっとしていられないだろう。でもどこにいても安全とは限らないから。
「えぇ。あなたも気をつけて」
目を細めて口元は緩んでいる。
僕は頷いて滞在中の居間を離れ、執務室変わりに用意した部屋に入った。
執務室にはすでに部下と二人の黒マントの男が待っていた。
「任務ご苦労」
僕は瞳を奥に力を入れながら三人に言った。
「皇太子殿下
今丁度帆船が入り大量の品が船上げ予定荷揚げされつつあります」
僕は頷く。
「じゃあ。品物はこの街のどこかにあるね」
「はい。もう場所は押さえています。」
「さすが」
「証拠品を押さえたら後は一気にだけど。
黒幕の特定は難しいだろうね。
むずがゆいな。誰かわかっているのに。
何も打つ手がないのは」
「いえ。
品さえ押さえられただけでも大きいです。
あれらが相手に渡ったら軍事面でも大きな打撃があります。
まだ全部は揃っていないようです」
「そんなにあるのか?
最初の報告から三カ月だろ」
「えぇ。今回の取引は大きいようです」
「何かあるね」
「とにかくその場所に一度連れていってくれ
確認したい亊があるんだ」
「了解しました。
手配していた諜報員に連絡します」
皇太子はよほど忙しいのか、ホテルの執務室で籠もったっきりで出てこない。
寝室も別でそれはそれでなんとかく変な感じがしてる。最初は変な違和感と緊張で居心地悪かったけど。一人ってなんか変な感じもしている。
朝が来て夜になるまたその繰り返し。
ひがな一日読書をしたり、離婚後の論文書きに費やしてる……。てっえぇ!
私完全忘れてた。そうよ離婚計画!!
もう何やってんのわたし!
次はどうする?あんまり派手な事出来ないし前回の反省点。
でもようは皇太子に嫌われないまでも、未来の皇后に相応しくないと思わしたらいい訳よね。
相応しくない=呆れられる
には!?
どんくさいって路線はありかも。
よしこれでいこう!丁度黄昏時だ。
「海に行きたいわ。
殿下も外出してもいいとおっしゃっていたし。
海で夕日が見たい~~」
突然侍女を呼びつけて、すぐに準備させた。
皆突然の我儘皇太子妃にバタバタと用意をしている。
シンプルなドレスと侍女を一人、護衛の騎士は私服で同伴させて急いで馬車を用意させる。
ホテルのロビーから馬車に飛び乗る。
冒険に行くみたいでドキドキして興奮がおさまらない。
いたずらをしようとしている子供の気持ち。
馬車の中では侍女が心細そうにし、騎士は夫役のものの本当に夫ならこんな目つきの悪い夫は願い下げ、まあ警護しているから仕方ないが。
馬車の窓から街並みを眺める。
さすがに最大貿易都市活気が違う。
せわしなく働く男女、いくつもの馬車や荷台が行き交う様子は見ているこちらも生き生きする。
人々の顔を明るい、なにより子供達が楽しそうに広場で遊んでいる。
平和な豊かな街だ。
石畳の舗装道を抜けて海岸通りに海が見える。
皆やはり夕焼けを見にきているのか沢山の人が通りを歩いて両側は飲食店で騒がしく店先でお酒を、食事を楽しそうにしている。
海岸沿いの石畳には人々が腰を降ろしていたり、砂浜に座りこんでいる。
海への道は渋滞して歩みは止まってしまった。
私の計画とは別に本当に夕焼けが見たいという好奇心が勝ち、馬車が止まったと同時に扉を強く押して外へ飛び出した。
「殿下!」
護衛騎士が思わず叫ぶ。と同時に馬車から駆け出した私。
急いで騎士と侍女が後を追う。
おっかけっこ気分でドレスのスカートが風に揺らめいて私の心もふわふわ揺れている。
潮風が気持ちよかった。全てをぶっきって懸命に走る走る走る。
目の前に丁度海に沈もうとする最後の煌びやかな黄金色とも茜色とも何とも言えない色の輝きを放って海へ落ちていく太陽。
と同時に薄い青、紫、群青色、青色がその黄金色を茜色を混ざりながら消していく。
そして闇の帳が降ろされる一瞬で飲み込まれた。
自然のその日常の一コマの出会いは言い知れぬ感動が身体中を弾むように駆け巡る。
生きているその意味も自然の一部のような気がする。
暗闇にわずかに残る太陽の光の雫が漏れる。
両手を横に広げて身体中でそのわずかな光を受け取る。
あぁ~~きてよかったわ~~~
あ~~~また忘れてた。
夕日が沈んだ後に残されたのはその感動の余韻を胸に帰途につく人々の並みだった。ただでさえ細い海への道に馬車とそれをよけながら人々が縫うように同じ方向に歩いていく。
私は圧倒されている。
迷子になる為にきたけれど。
侍女と騎士とも逸れててすでに迷子かもしれない。
ぎゅうぎゅうずめの人混みに波の様に流されていく。
きゃ~~~~~~細い路地に流されふらふらとさらに細い路地に迷い込んで、気がつくとさっきの人混みとはかけ離れた暗い裏路地に入ってしまっていた。
どうしよう!?
急に不安になる暗くて良く見えないがあきらかに怪しい雰囲気の路地で身体から血の気が引いていく。
恐怖心が急激に襲ってくる。何か悪い事が起こりそうな気がして辺りを見渡すが、誰かが襲ってきそうな気がする。
すっ~と人影が感じた気がした。でも周りには隠れる所はない。その人影のした方向とは反対の路地に入る。
と暗い更に細い路地に後ろを向けた荷馬車がいた。
とりあえずここにいて、荷台にまたがり木箱の端に隠れた。
しばらくこのままでいよう。
暗闇に溶けていってほしいとその時は思う。
まだ緊張感が高いのか耳が敏感になっている。少しの人の気配を感じた。
自然と聴覚に集中する。
小さいが何か人の声が聞こえてくる。
「…………あ……」
「……じゃあ…荷はこれで全部」
「それで…まあここのは…ダミー…」
「たいした…もん…じゃない」
「…それより…三日後…れいの場所…最新の軍需品が」
「……ダロッダ…で…再び…あおう…」
えっえ…。
そう内容は今一つなんの事かわからないが。ひとまずどっかに行ってくれたようだった。
ほっと胸をなでおろした私の前で木箱がカタカタ揺れ始めてた。
血が凍りつく。なんで今??いやっ!!
荷台から降りようとしたその時に木の蓋がずれて開く。
木箱から小さな手が見えた。その手はどんどん上に上がり中から。
えっっえエ~~~~~~
目の前には小さな少女が入っていた。
えぇぇ~~女の子??なんでここに??人さらい??
この荷台危ないのかしら…なら逃げないといやここで逃げたら駄目?
一人で荷台を降りようとした時、その少女の姿を改めてみる。
これはどうするの?どういう事何??
突然考えもなかった状況に今度はこちらに走ってくる人の気配、その人は明らかに馬車を移動しようと御者の台に登ろうとしている。
このままじゃ駄目!
私はなんの考えもなく本能のままにその女の子を抱きかかえて荷台から降りた。
馬車は降りた後、路地の先へ進んでいった。
私は少女を抱きかかえている。その子はまだ意識がもうろうとしているのか私に抗うわけでもなく。どちらかというと身体を完全に私に託している状態。
あぁ~~~こんな所で私なにやってるの~~~~~
と思った所で口を塞がれ後ろに引きずられるように引っ張られる。抵抗する間もなく完全に身体を持っていかれている。
なんだかいい香りがする。連れ去られているのに変な感じだけど。
しばらく引きずられた後に突然歩みを止めた。
「…フロ …ヌ」
なんだか聞き覚えのする声だ。
そうその後睡眠薬でも嗅いだかのように意識が飛んだ。
可愛らしい少女も合流して新たな問題も浮上していく。次回新展開お楽しみに。
いいねありがとうございます。
とても励みになります感謝!