離婚の計画Ⅱ 皇太子との慰問の旅路と事件Ⅰ 帝国の繁栄の闇
遂に実質的な初夜を果たせていないと、皇后に知られもっと親密になるように慰問の旅に出た二人。 待ち受けるのは?
「あの子達やはり何もないのね!」
皇后は珍しく叫び声に近い声を出した為に侍女の一人が手にしたティーカップを床に落としてしまった。
パリ~~ンという音と共に破片が飛び散る。
「申し訳ありません」
女官長が侍女頭に目線をうつすと、つかさず侍女が下女を呼び破片と床の掃除を命じた。
「自然とそうなると思い。無理強いしてもと思い報告が遅くなり申し訳ございません」
目線を皇后から離さず女官長は処分を覚悟したように謝罪の礼をして告白したのだ。
「薄々はわかっていましたよ。
でも私も無理強いするつもりはなくて。
自然とそうなるのが一番いいですからね。
絶対に合うと思うのよ。
フロレンティーヌのあの夜の制裁見事だったし。
次期皇后として申し分ないもの
あの子達が並んでいる所といったらまるで…」
瞳をキラキラして少女が童話の王子と王女を想像しているような皇后。
「皇后陛下 ここはお二人が親密になれる環境をつくるのが一番かと」
女官長が助言する。
「そうね。そういえば後皇太子が地方へ慰問の旅が三週間後ですね。
あぁ…。じゃあ丁度皇太子妃も披露を兼ねて一緒に送り出しましょう。
さっそく陛下に提案しなくては」
そそくさと皇后宮を出て皇帝宮殿に向かい皇帝の執務室に入った。
地方慰問の旅に皇太子妃の同伴が決定した。
その後は皇太子宮の侍女達はせわしなく動き回り準備が行なわれる。
その当日を迎え皇帝と皇后に旅立ちの挨拶をして二人は馬車で宮殿を出る。
帝都では皆手を振り皇太子夫妻のお目見えを旅立ちを見送った。
馬車は帝都を離れ平原に出て山間部のヴォレール地方に向かう。
まだなだらかな草花が咲く草の香りと柔らかい日差し牧が心を穏やかにしてくれる。
「この辺はオルファンの馬の生産地で特に名馬を生産する亊で知られているんだ」
皇太子は柔らかな口調で私に話しかける。
本当に穏やかで大切に育てられたんだろう。
あんな初夜にあんな発言をした私にもくったくのない笑顔を見せる。
瞳の奥にも影はない。
偽物のそれじゃない。
私とは違う。
なんだか自分が恥ずかしくなる。
私自分の事しか考えてないわ。
あぁ〜!
私話しかけられてるんだった。
うっかりしずぎ!
「オルファンの名馬は存じています。
伯母様がお嫁入りしてから、フェレイデンでも輸入出来てお祖母様や義妹が大変喜んで。
母の軍馬も黒毛のオルファン種ですわ」
「君の母上は将軍だったね。
活躍は聞いているよ」
「恐れ入ります。
父が出兵を嫌がりますから、いざという時しか戦場にいきませんけどね」
「ご心配をされるのでしょう。
大公殿下の奥方を大切にしている話は聞いているよ。
素適な事だね」
素敵?
私はその言葉を見逃す事は出来なかった。
思わず前のめりになり言わずにはいられなかった。
「大切?
あれは完全なストーカーです。
父は皇太子だったのに。母が皇太子妃になじめないとわかると叔父に継承権を譲って責任放棄する
し。
私より母だし。
弟なんて母の母乳を目隠しして飲んでいたんですよ。
完全な変態です
母がいないだけで挙動不審だし。」
皇太子の顔が苦笑いに変わっていくが、私はお構いなしに話続ける。
何せ私が「氷の大公女」と呼ばれたのは父のせいだ。
話が止まらない。
私の誘拐の話、母の誘拐の話。母の出兵の際の父の動揺。
私がいかに少女時代から両親を冷めてみていたか。
延々に力説していたようだ。
いたようだ。
というのは何を話したか覚えていないから。
始終皇太子は何故か興味深く話を聞いてくれた。
こんなに両親の事を他人に話したのはいつぶりだろう。
気が付いた時には馬車は歩みを止めていた。
どうやらこの先は悪路で馬で行くとの亊だ。
待機させていた話のオルファンは見事な名馬だ。
気品ある目鼻立と肢体は均一に肉付きがよく外見は完璧だ。
黒毛に跨り乗り心地は素晴らしい。
性格もこの子は穏やからしく荒々しさはない。
完全に調教されている。
同行者の準備が出来、山道を歩み始めた。
やや傾斜した舗装されていない道を馬は力強く登っていく。
山の木々が高くつらなり空を覆わんとばかりに広がっている。
針葉樹、その下には倒れた枯れた木々が横たわって苔で覆われる緑の絨毯のようだった。
しばらく登り山の頂上付近までくると、中腹の所に集落がある。
点在する家々、神殿、施設らしき大きな建物が見える。
町の規模よりは小さいが村と呼ぶには規模が大きいように思った。
この地方にはこのような山間部に三ほどこの規模の集落があり、どこも貧困地方と聞いている。
しばらく休憩して、今度は下りの道をとり一時間くらいで目に入った集落にたどり着いた。
町は静かだ。
皇太子がやってきたのに出迎える待ち人もいない。
いるのは年配者が路地の隅で力なく横たわる者や下を向いて座り動かない者、うつろな瞳でフラフラと歩いている数名の男とせわしなく動いて働く女達だ。
皇太子一行は馬を降り神殿へ向う。特にこの様子に驚く事もなく、出迎えがないと怒るでもない。
ひょっとしたら以前にも訪問し見た光景かもしれないと思った。
神殿に着くと神官と書記官、町の代表者達がいる。
皇太子にはよく知る者達なのか、親しく傍に寄る。私もその後をついていった。
「お久しぶりです。
神官様、町長殿」
皇太子は目を細め神官に近寄り胸に手を置く。
聖職者への挨拶だ。
神官は皇太子の手の甲に唇をつける。
町長と思しき年長者は胸に手を置いて腰を折りお辞儀をする。
「私の妃を紹介しよう。
フロレンティーヌ・ディア・オルファン」
皇太子は私の肩を抱いてこちらが恥ずかしくなるくらいに愛しそうに微笑みを浮かべる。
「フロレンティーヌです。
出迎えをありがとう」
出迎えてくれた者に感謝の意を口元を緩ませて言った。
「ご結婚おめでとうございます。
山間部のため、お祝いが遅くなり申し訳ありません」
気にしていないと微笑む。
「早速だが、保護施設の状況を知らせてほしい。
山林の荒れ方を見ると林業では生計出来ていないね。」
皇太子は人が違ったような厳しい顔つきで町長に言う。
「はい。
いただいた薬で樹木の病気は止まりましたが。
成長に影響が出て、病の出た時期の大木がなく出荷出来る木がないのです」
「送っていただいた救援物資でなんとかやりくりしております。
しかしながらどうしても足りず」
「そう。
わかった。その件は至急こちらで対応しよう」
皇太子はすたすたと歩き始め私はその後をついていく。
出迎えの者も、足早に皇太子についていくと、白亜の大きな建物の前で立ち止まる。
そのままスタスタと中に入る。
私は理由がわからないがついていく。
どうも一階は病院のようで、医者や看護師の姿がせわしなく走りまわっている。
皇太子は奥の大きな扉を開けて中に入ってしまった。
あまりの事に呆気にとられる私はなんとか遅れまいと後に続いた。
中には沢山のベットに患者が横たわっている。
そのベットに医者や看護師の姿があった。
「必要な物を言ってくれ」
皇太子は顔見知りなのか若い医者にはなしかけた。
「医療品はあればあるだけほしい。
特に抗菌剤が不足している」
「わかった。部下に命じる」
この会話をその部屋にいる医師全員に声をかけてまわってメモを書き取る。
すこい行動力、ついてきた神官もかける言葉もないくらいだ。
話終えると患者で意識のある者に労いの言葉をかけている。
いけない。
私も続いて皇太子と共に声がけした。
ある患者の包帯が緩んでほどけそうになっていたので手際よく結び直す。
これくらいは出来るように慈善活動の成果です。
患者は感極まり涙を流してくれています。
良かった。
少し自分の役割が見えた気がします。
そんなこんなで一日はあっという間にと過ぎました。
、
「今日は一緒に孤児院に行こう」
皇太子の行動力には頭が下がる。
昨日は遅くまで病院であちこち移動して話しこみ帰ってきても町長と町の事務官と部下と共に深夜まで会合していたし。
今日も早朝から町を歩いて現状を見ていたという。
尊敬しちゃう。
そうこれは間違いない事実でこの人は凄い人だ。
私が独身主義でなければ、素直に結婚を喜んだろう。
そう思う。
今日は病院の隣にある孤児院を訪問した。
大きい木造三階建ての建物で内部は質素ながら清潔で十分に設備の整った施設だ。
ここには十代後半から生まれたばかりの乳飲み子まで共に生活している。
中で働く者もここの出身者という。
皇太子と私は一通り施設を見て、院長とそこに働く職員と会合を行った。
昔よりも環境は良くなったと院長は皇室のおかげとべた褒めで、皇太子は微笑んでいるのかいないのか?ちょっと読めない微笑みらしき表情で聞いている。
一通り聞いた所で離席した。
「しばらく子供達と遊んでいこう」
皇太子は私にそう言って手を引いて部屋を出ようとする。
部屋を出ようとした時、院長は部下に耳打ちした後にその部下は私達を追いかけて同伴した。
一階の大きな居間に子供達はめいめいに遊んでいる。
ある程度輪になっていた。
皇太子は傍にいた子供達と積み木遊びを始める。
私はまだよちよち歩きを始め出した小さな幼児の集団に紛れて、手を叩きあったり、こけないように補助しながら歩かせたりそれなりに可愛い。
そういえば妹や弟が小さい時はよく遊ばせたっけ。
小さい子は本当に可愛らしい姪っ子のそうだけと。
今頃元気だろうか?
思わずぼんやりしてしまう。ふと皇太子の声が聞こえる。
「どうしたの?フロレンティーヌ?」
久しぶりの名前で呼ばれる。
こちらに来てから皇太子妃としかほぼ呼ばれない。
聞き覚えのある名前で呼ばれたのは新鮮だった。
はっ!として。
「いえあんまり可愛らしいので。……小さい子って天使ですね」
ぼそっと言ったその一言には自分は違うというニュアンスがあるのを意識していた。
「君も天使だよ」
皇太子は恥ずかしくもなく歯の浮くような台詞を吐いた。
以前の私なら平手ビンタの鉄拳をふるっていただろう。
でも不思議とこの無邪気な人柄の皇太子は言っても嘘くさくはなかった。
不思議な事に。
ちょっと顔が赤くなる。
さすがに恥ずかしいので黙り込むと皇太子はクスクスと笑い始める。
なんか感じ悪いじゃないですか!?
施設から帰ると皇太子は部下と共に自分の部屋に帰り籠って出てこなくなった。
夕食にも出てこず私は食堂で一人で食べた。
以前はこのおひとり様すごくうれしかったけど宮殿という公的な場所ではないからか?
なんだかひとりが淋しい気もする。
思えば宮殿や邸宅や学校以外特にどこか知らない所に行くというのはあまりなかったように思う。
来た事のない場所はこんなに居心地の悪いものだと初めて知った。
食もあんまり進まず軽く夕食をとって部屋への戻り、お風呂に入って身支度を整えた時だった。
扉がノックされる。
「はい」
「皇太子妃殿下
皇太子殿下が及びです。」
一瞬固まった。来たついに来た!
初夜の続きだ。そう私は別に関係しないとは思ってない。
だって夫婦だし。
愛さないと言っただけよ。
自分に言い聞かせ心臓が激しく鳴るのを止まれ止まれと念じる。
何度も息を吐いては吸い、吐いては吸いを繰り返す。
「わかりました」
サイは投げられた。
「皇太子殿下
皇太子妃殿下お見えです」
侍女が部屋の扉の前で告げた。
「入って」
皇太子の声だ。
ドアノブが回され私は皇太子の部屋に入った。
整理整頓された執務室が目の前にある。
奥の部屋に寝台が見える。
とりあえず見ないでおこう。
薄い寝夜着にショールを羽織り、皇太子の待つソファーに腰をかける。
「実はね」
真剣な皇太子の表情にぎこちない微笑みの私。見なくてもわかる頬がピクピク震えている。
「は……はい」
声が上擦る。
「ん。実は今回の慰問の旅は……」
来た!
俯く私に皇太子は傍により不思議そうに覗いている。
「君に言っとかないと身の危険もないとは限らないからね」
えっ?!危険?
「今回の慰問の旅は勿論慰問もあるけれど。
この町の問題を一掃するためでもあるんだ。
実はねここの神官と孤児院の院長がそれぞれ汚職と闇の取引の商売をしていてね。
隠密を使って調査していたんだ。
証拠が揃ったから明日早朝に逮捕する事になるから。
君にも言っておかないと」
私は固まって動かない銅像の様になった。
もう夜伽とばかり思っていたので、まさかの話は汚職摘発の告白??
「フロレンティーヌ?」
再びはっとして自分が変な想像していた事が恥ずかしくなった。
顔は真っ赤だ。
あぁ~早くここから飛び出したい。
「わかりました。
明日ですね」
そういうのが精一杯だった。
「おやすみ」
「おやすみなさい皇太子殿下」
あとはどう帰ったか覚えていない。
恥ずかしすぎて死にそうだ。
自分だけ覚悟してたって…間抜けすぎる……。
次の日の早朝皇太子と私、武装した部下に守られて神殿に集まっていた神官と孤児院の院長を一斉摘発した。
まさかの突撃に二人は動揺して右往左往している。
部下はその二人の両手を縄で縛り皇太子の前に差し出す。
「皇太子殿下
これはどういう私はこの神殿の神官です。
何故このような目に」
皇太子の雪よりも冷たい視線はこわ恐ろしいほど。
「大神官にも報告済だ。
神官の地位を悪用して皇室から支給されてた復興資金を着服していたな。
神官の一部に隠密をしこんでおいた。
証拠は揃っている。
御前を逮捕する」
「院長。
お前は小さな子を他国に売り飛ばしていたな。
事務官に調査して証拠も揃っている。
二人帝都へ移送して裁判にかける」
そう言い残しさっさと二人は護送されていった。
呆気ないものだ。
皇太子実はとんでもない出来る人だったのね。
笑顔にだまされていた?勝手にいい人だけと烙印を押していた私って本当に世の中知らなすぎる。
そら恐ろしさに身体の血が下に落ちる感覚にあった私を天使の微笑みで皇太子は私を見てる。
「売られた子供達は全員確保して帰国予定だよ」
あぁ~~実はとんでもない人かも…………。
次回は貿易港に到着して。
フロレンティーヌが巻き起こすトラブルは?
とうご期待
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